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第68話 師匠


「ジロジロと俺のことを見てどうした? ああ、あんたも男だし、()()()が気になるのか?」


「っ!?」


 そう言いながら、自分のとても大きな胸を両手で持ち上げて見せつけてくる。ただでさえ胸の辺りが開けた服を着ていて、先ほどの水しぶきで服が少し透けていることもあってすごい破壊力だ。


 これまでは必死に目を背けようとしていたのに、そうやって持ち上げられると視線が彼女の胸の辺りに吸い込まれてしまう。


「………………ケンタ?」


「ち、違うよ! ほ、ほら、同じエルフでもリリスとは肌の色がだいぶ違うなって思ってさ!」


 隣にいるリリスがジト目で俺の方を見てきたので、慌てて視線を逸らす。


 確かに視線が吸い込まれてしまったのも事実だが、それとは別に彼女の肌の色が気になったのも事実だ。リリスからは師匠が同じエルフであると聞いていたが、彼女の肌はリリスの透き通るような白い肌とは異なり褐色だった。


 俺の世界ではダークエルフと呼ばれる容姿をしているが、もしかするとこちらの世界ではエルフの中でそういった違いはないのかもしれない。


「確かにエルフの肌の色はその里によって違う。肌の色の違うエルフを受け入れない里も多い」


「特に古臭えジジイやババアどもはそういった考えを持っているやつが多いな」


「なるほど」


 やはりこちらではエルフとダークエルフという呼び方の区別はないみたいだ。


「まあ、俺みたいに肌の黒い方が発育はいいって言われているがな」


「……私はまだ成長している」


 そういえばエルフの成長する限界は個人によって違うんだっけ。リリスの自己申告によると、まだ成長しているらしい。肌が黒いエルフの人の方がより成長する可能性は高いのかも。


 ……あぶない、いろいろと誤魔化せたか。


「まあそんなことはどうでもいいか。リリス、こいつが例の鏡を通ってきたやつか?」


「……うん。名前はケンタ」


 リリスの成長のことについてばっさりと切り捨てる師匠さん。短気というか、気分屋っぽい性格なのかもしれない。


「ケンタです。この子はこちらの世界で知り合った魔物のハリーといいます」


「キュ」


「ヴィオラだ。ほお~駄目元でやってみただけなんだが、まさか本当に別の世界と繋がるとは驚いた。ふむ、魔力はないが普通の人族と同じように見えるな」


「はあ……」


 リリスの師匠であるヴィオラさんが俺の肩や手などに触れてくる。綺麗な顔とその大きな胸が近付いてきて、年齢イコール彼女いない歴である俺にとっては刺激が強い……。


 リリスも人形のように整った顔立ちをしていて、ヴィオラさんもモデルのように美人だし、もしかするとエルフという種族は美形しかいないチート種族なのかもしれない。


「くっくっく、別の世界か! 最高におもしれえじゃねえか! ケンタと言ったな、早速ケンタの世界を案内してくれよ」


「ええ~と、案内するのはいいのですけれど……」


「師匠、ケンタは鏡を自由に行き来できるけれど、なぜか私はあの鏡を通ることができない」


 そう、リリスがこちらの世界を案内してくれたように、俺も俺の世界を案内したいところだけれど、リリスはあの鏡を通ることができなかった。


 リリスがこれまでに鏡や俺の世界の物を調べてわからず、それもあって緊急用の魔道具を使ってヴィオラさんに連絡をしたんだよな。


「魔物であるハリーも通ることができて、翻訳の魔法もしっかりと発動しているのに理由がわからない」


 ハリーは魔物なのにこの鏡を通ることができて、向こうから来た俺にこちらの世界の言葉がわかる魔法もしっかりと発動しているのに、リリスだけがこの鏡を通れない。


 もしもヴィオラさんがしばらく来なければ、俺の友人である雄二かベリスタ村にいるザイクの力を借りて他の人も通れないのか検証しようかとも考えていたところだ。


 ヴィオラさんはこの国でも数人しかいないSランク冒険者の称号を与えられた人で、リリスの魔法の師匠でもある。彼女ならきっとその原因がわかるはずだ。


「ああ、そいつは俺が原因だ」


「……んん?」


「師匠、いったいそれはどういうこと?」


 リリスがヴィオラさんに尋ねる。


 もしかしたら、ヴィオラさんだけの特別な魔法を使わないとこちらの世界の人は通れないとかかな?


「リリスの魔力にだけ反応して、この鏡を通さない制限をしておいた。そいつを隠すように魔術式を刻んだこともあって、さすがのお前も気付かなかったようだな」


「………………」


 ええ~と、言っていることはわかるけれど、言っている意味が理解できない。


「……ヴィオラさん、なんでそんな仕掛けをしたんですか?」


「そりゃ異なる世界を渡るなんて面白そうなことを、師匠である俺を差し置いて弟子のリリスが最初に楽しむなんて許せないだろ! 通れないとわかれば俺を呼ぶっつう読みが当たったみたいだな」


「「………………」」


「キュウ?」


 ヴィオラさんはあっけらかんとした口調でそんなことを言う。


 俺とリリスはさすがに絶句してしまった。ハリーもヴィオラさんの言っていることがわかっていたら、きっと絶句していただろう。


 なにか深い理由があるのかと思ったら、どこぞのガキ大将みたいな理由だった。


 リリスや冒険者ギルドマスターのセレナさんが自由でめちゃくちゃな人だと言っていたけれど、さっきの登場の仕方も含めて、少しだけその意味を理解することができた。


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