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第66話 のんびりとした釣り


「ふ~む、なかなか釣れないな……」


「キュウ……」


 湖で釣りを始めてから1時間以上が経過したけれど、俺とハリーの横にある魚が釣れた時用の青色のバケツの中身は空っぽのままである。


 この前ラジコンボートで見た限りは結構魚がいたように見えたんだけれどなあ……。それほど大物が釣れても困るということもあって、リリスの結界の範囲内で釣ろうとしている影響もあるかもしれない。


 それと湖があまりにも綺麗過ぎて透明度が高く、エサがバレやすいという理由もあるだろう。こちらの世界はゴミや汚い物を捨てたりはしないから、水がとても澄んでいる。これに関しては俺の世界の人たちもみならってほしいものだ。


「やっぱり最初のワームの方がよさそうだな。こっちでもう一度チャレンジだ」


「キュ!」


 さっきから疑似餌を変えつつ、何度も釣り竿を振ってはゆっくりとリールを巻くのを繰り返していた。最初につけていたワーム型の疑似餌の時に何度か魚につつかれた感触があったし、これが一番食いつきはよさそうだ。


「よっと」


 ネットで調べた通り、柔らかいワームにジグヘッドと呼ばれる重りと針が一体化したものを刺す。それを湖に投げ入れ、底についたら少しリールを巻いたり小刻みに揺らして虫の動きをさせる。


 意外と魚は賢く、不自然な動きをさせたり、あんまり速くリールを巻き過ぎると食いついてくれないらしい。


「……おっ、きたぞ!」


「キュウ」


 しばらくすると今までよりもはっきりとした食いつきがあった。すぐに竿を垂直に立てて針をしっかりと魚の口に食い込ませる。


「おお、すごい引きだぞ!」


 手にはどっしりとした感触があって、いろんな方向に引っ張られる。魚の方も必死みたいだ。


 ギリギリと一気にリールを巻いていくが、引きが強くて抵抗がある。


「キュキュ!」


 俺の肩でハリーが俺を応援してくれている。これは頑張らねば!


「よし、釣れたぞ!」


「キュウ!」


 抵抗はありつつもリールを回し続け、ついにその魚が姿を現した。


「……30センチメートルくらいか。思ったよりも小さいけれど、初めての釣果だな」


「キュキュウ♪」


 釣り上げた魚は30センチメートルほどの銀色に輝く魚だった。あんなにすごい引きだったのに、これくらいのサイズなのか。


 でも俺にとっては初めて釣り上げた魚だ。しっかりとスマホで写真に撮っておこう。あとで雄二にでも送るとしよう。


「ケンタ、よかったね」


「ありがとう、リリス」


 リリスも俺が魚を釣り上げたことを見てこちらへやってきた。


「うん、ちゃんと食べられる魚みたいだ。村で交換した魚と一緒に今日の晩ご飯にしよう」


「キュ!」


 ベリスタ村で朝に漁をしていた時にこのミスノル湖で獲れる魚についてはいろいろと聞いておいた。毒なんかがあると大変だからな。見たこともない魚だったら、リリスの収納魔法で入れてもらっておいて、今度村へ行った時に食べられるか聞いてみるつもりだった。


 しばらく釣れない時はどうしようかと思ったけれど、釣れたらそれまでの苦労が一気に報われた気分だ。うん、釣りも悪くないものだな。


 本当は刺身で食べたいところだけれど、こちらの世界でも魚を生で食べないのはおそらく寄生虫のせいだろう。俺の世界でも寄生虫のリスクがゼロという訳じゃないけれど、長時間冷凍をして寄生虫を殺している。


 ここでリスクを犯すのは怖いし、しっかりと加熱処理をするとしよう。




「おいしい! 表面はパリッとしているのに中はとても柔らかくてバターの香りが広がっていく」


「キュキュ♪」


「これはムニエルっていう料理方法なんだ。うん、我ながらうまくできたな」


 ムニエルとはフランス料理の技法で、下味を付けた魚に小麦粉をまぶし、バターで両面を焼いて仕上げにレモン汁をかけた料理だ。


 外側は小麦粉を使ったことによりパリッとしていて、バターとレモン汁の香りが淡白な魚の白身の味を引き上げている。


「うん、自分で釣ったということもあって、よりおいしく感じられる」


「確かにそうかも」


 俺が一匹釣ったあとはリリスも少しだけ釣りに参加して、俺よりも少し大きな魚を釣り上げた。やはり自分で苦労した分だけおいしく感じられるものだ。


 俺も2匹と小さな魚を1匹釣ったが、小さい魚はそのままリリースしておいた。


 初めての釣りでこれだけ釣れたのなら十分過ぎるだろう。素人の俺でもこれだけ釣れたのだから、やはりこの湖は豊かに違いない。よし、次はリリスの結界の外で大物を狙ってみるか。


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