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第63話 百均の力


「さて、いつものように静かにな。なにか欲しいものがあったら教えてくれ」


「キュ」


 お昼を食べ終わり、お風呂に入ってから車で街へやってきた。


 いつものようにハリーはキャリーケースの中に入ってもらっている。リリスは小屋に残りタブレットで楽しんでいるので、ハリーは俺と一緒に買い物へ付き合ってくれている。


「すごいだろ。ここは安くて便利なものがいっぱい揃っている店なんだぞ」


「キュキュウ!」


 キャリーケースに入ったハリーへこっそりと話し掛ける。


 今日やってきたのはいつもの大きなデパートではなく、大きな百均のお店だ。ベリスタ村での生活を見て、俺も野菜を育てて魚釣りをしたくなった。時間はいくらでもあるから明日にしてもよかったのだが、なんだか善は急げの気持ちになっていたので、すぐに出てきてしまったわけだ。


 そして野菜作りと釣り。どちらも完全に素人で最初から本格的な準備は必要ないので、この百均へやってきた。特に釣りの方はネットで調べたらとんでもない価格の釣り竿がゴロゴロしていたからな。いくらお金には多少の余裕があるとはいえ、最初からそんな高価なものを購入する必要はないのである。


 それに百均の品ぞろえとクオリティは本当にすごい。大きな百均であれば大抵のものは揃ってしまう。


「ええ~と、まずは園芸コーナーか」


 畑を作るのに必要な道具は事前にネットで調べてスマホにメモってある。


 手袋、草刈り鎌、スコップ、ジョウロ、バケツ、ハサミ、支柱、肥料などを次々カゴの中に入れていく。これ全部が百円なんだから、百均には恐れ入る。さすがに鍬だけは小さな物しか売っていなかったから、あとでホームセンターへ寄るとしよう。


 リリスの結界があるから、害獣対策をする必要がないのは大きいな。虫については向こうの虫がどんなものかわからないからあとで考えるとしよう。


 あっちの世界だけでなく、俺の家の庭にもスペースはあるから、状況によっては両方で野菜を作ってみてもいいかもしれない。同じ土に見えるけれど、もしかするとこっちの野菜はあちらの土に馴染まない可能性もあったりする。


「次は釣りコーナーか」


 こっちの方もいろんな商品があるな。特に疑似餌やルアーのコーナーは種類が多すぎる。


 釣り竿も売っていたけれど、値段は百円ではなく千円だ。とはいえ、釣り竿とリールがセットになっており、これでも十分にしっかりしたものなので購入。釣り糸、釣り針、おもり、網、魚を掴むためのフィッシュグリップを購入した。


 疑似餌については種類が多すぎて迷ったが、キラキラした小魚のようなもの、ミミズみたいにぶよぶよしたワーム、小さな複数の釣り針に小さな光るものが付いたサビキの3つを購入した。


 他にもネットで調べた情報によると、現地で石の下とかにいるゴカイやイソメなども食いつきがいいみたいだ。そりゃ実際にそこに生息している生き物をエサにした方がいいのは当然か。とはいえ、シンプルなこっちの疑似餌を使ってみるほうが簡単らしいので、まずはこっちで試してみるとしよう。


 百均を出たあとはホームセンターによって鍬だけ購入して車で家へと向かう。


「明日からはいろいろと試してみような」


「キュキュウ!」


 これで明日からはすぐにいろいろと試すことができるぞ。作物の種を蒔いてからはしばらくかかるから、先に畑を耕してから釣りをするとしよう。


 だんだんと理想通りのんびりとして充実した生活となってきたぞ。




「リリス、お待たせ。晩ご飯だよ」


「……了解」


 タブレットへ夢中になりながらも、俺が呼ぶとテーブルまで来てくれる。ベリスタ村でもらった魚を早速料理してみた。


「キュキュウ!」


「ケンタ、これはカツ?」


「カツじゃなくてフライなんだけれど、確かに似たようなものかな。あっ、調べたら同じものみたいだね」


 リリスに言われて改めて考えてみると、カツもフライもパン粉を付けて揚げる料理だ。ネットで違いを調べてみたら基本的には同じもので、肉を揚げたものはカツ、魚や野菜はフライと呼ぶらしい。


 唐揚げやワイバーンカツなどリリスは揚げ物が好きだから魚も揚げてみた。


「キュウ」


「こっちは南蛮漬けっていう料理だよ。小さな魚を揚げたあとに甘酸っぱいタレに漬けた料理なんだ」


 ハリーが指差す料理は小さなフライと野菜がほんのり黄色の液体に浸っている。


 南蛮漬けはアジやイワシなどの小魚を軽く揚げ、酢、醤油、砂糖、唐辛子に野菜を加えた甘酸っぱくピリ辛のタレに漬けた料理だ。日本の江戸時代にポルトガルやスペインから伝わった唐辛子や酢の影響を受けて、南蛮の名が付いたらしい。もちろんネット調べである。


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