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第36話 友人


「……マジかよ。あいつ、わざわざこんなところにまで来てくれるのか」


「キュ?」


「俺の友達が遠くからこの家まで来てくれるんだってさ。ありがたいけれど、この鏡がバレないようにしておかないとな」


「キュキュ!」


 連絡をくれたのは俺の数少ない友人のうちのひとりだった。


 俺がブラック企業を辞めて田舎に家を買って生活していることはすでに伝えていたのだが、どんな状況なのか気になってわざわざ様子を見に来てくれるらしい。


 その気持ちはとても嬉しいが、鏡のことだけはバレないようにしておかないといけない。俺以外の者が鏡を通れるかも気になるところだけれど、まだあっちの世界のこともそれほど分かっていないので、時期尚早だ。


「詳しい住所を送っておいたから、これで大丈夫だろう。ついでに酒とかも買ってきてもらうか。ハリーはどうする? リリスと一緒に向こうで待っているか、あるいは俺の友達に会ってみるか?」


「キュウ!」


 ハリーは大きく頷いた。どうやら俺の友人に興味があるらしい。


「わかった。だけど、こっちの世界だとハリーが俺たちの言葉を理解しているとまずいから、俺たちが何を言っているかわからないフリをしていてくれ」


「キュ!」


 あいつにはここへ引っ越してきた時にハリネズミを飼うことになったと伝えれば大丈夫だろう。あとはハリーが俺やあいつの言葉を理解しているとバレないようにしてもらわないと。


 おっと、あとはリリスに今日はそっちに行けないことを伝えておかないとな。もしかするとリリスは研究のためにあいつを向こうの世界へ呼びたいというかもしれないが、とりあえず今回は勘弁してもらうとしよう。


 一旦ケーブルなんかも引き上げておくとするか。




 ブロロロ。


「おっ、来たみたいだな。ハリー、くれぐれも頼むぞ」


「キュウ!」


 昼すぎになり、家の外に車の音が聞こえてきた。この場所へ訪れる人などいないので、間違いなくあいつがきたのだろう。


 ハリーと一緒に玄関へと向かった。


「久しぶりだな、健太。元気そうにしているじゃねえか」


「久しぶりだな、雄二。わざわざこんな田舎まで来てもらって悪いな」


 沖田雄二。小学校からの付き合いで、家が近いこともあって昔からよく遊んでいた。高校まで一緒で別の大学に進んだが、そこからも連絡を取り続けてきた仲だ。


 身長は180以上あり、イケメンで中学生のころから常に彼女がいたモテ男だった。なんで俺と一緒に行動していたのか不思議だったな。まあ、雄二は俺の他にもたくさんの友人がいたけれど。


「キュ!」


「うおっ、びっくりした! ハ、ハリネズミか!? なんだよ、ペットなんて飼い始めたのか」


「ああ、さすがにこんな場所だとひとりじゃ寂しくてな。俺に懐いてくれていて家の中だと放し飼いにしているから、ドアは忘れずに閉めておいてくれよ」


「お、おう。了解だ」


 本当はそんなこともないのだが、そう伝えておいた方が普通のハリネズミを飼っていると思ってくれるだろう。


「……外見はあれだけれど、中は綺麗だし、家電は最新の物が揃っているんだな」


「最初はだいぶ荒れていたけれど、頑張って掃除したからな。家電とかは長期間使うだろうから、少しいい物を揃えたんだよ」


 家の居間へと案内する。田舎だからたったの500万円で購入したにも関わらず、家の中は広々としているのだ。


「それにしても、まさかあの真面目な健太が仮想通貨に手を出していたとは思わなかったぜ」


「俺もだいぶ切羽詰まっていたからな。今考えると、弁護士に相談したりして、もっと良い方法があった気はするよ」


「まったく、そんな時だからこそ、俺には声をかけて欲しかったぜ」


「悪い、あの時は全部自分で抱え込んでしまっていたからな。親や雄二に相談をして面倒をかけたくなかったんだ」


 例のブラック企業で本当にヤバかった時こそ、雄二に相談するべきだった。ただあの時は自分でなんとかするしかないと思い込んでいたんだよなあ。


 俺も雄二がそういう状況に陥っていたとしたら、連絡してほしいと思っていただろう。


「だから初めから健太の会社の求人はおかしいと……いや、終わったことはもういいな。とりあえず今健太が元気そうにしているようで安心したよ。本当はもっと早く来たかったんだけれど、ちょっと仕事が立て込んでいて遅れてしまった」


「いや、来てくれて嬉しいよ」


 そもそも俺が雄二に連絡をしたのはここに引っ越してきてからだからな。ブラック企業の呪縛から解放されて、ようやく仮想通貨で大金を稼いで会社を辞めたと報告できた。


 今思い返せば、俺があの会社に入る時も雄二は求人内容を見て怪しいと忠告をしてくれた。それを今時そんなブラックな企業はないと安易に考えていた俺が間違っていたんだよなあ。


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