第105話 討伐の報酬
「アースドラゴンや特殊個体の素材と肉、これについては職員が総出で解体をしているから、悪いが数日は待ってくれ」
「了解」
リリスが言っていたように魔物の解体は結構時間がかかるようだ。
まあ、あれだけの規模の群れだったし、2人以外の冒険者も大勢参加していたらしいから、解体する場所も一杯なのだろう。鱗がかなり硬い魔物のようだし、解体をするのは結構な重労働になりそうだ。さすがに某狩りゲーのように一瞬で剥ぎ取るのは無理なのだろう。
「こっちが討伐依頼の報酬だ。ヴィオラには金貨2000枚でリリスは金貨1200枚だな」
「えっ!?」
「キュウ?」
あまりの金額に驚きの声を上げてしまい、ハリーが俺の声に驚いている。
日本円に換算すると2000万円と1200万円にもなる……。冒険者ってそんなに儲かるのか?
「ああ、少ないと思ったのか? 安心してくれ、これにアースドラゴンの素材の分が追加される。特に特殊個体の素材は高値で取引されるから、これに金貨数千枚は上乗せされるだろう」
「……そ、そうなんですね」
これからさらに素材分が上乗せされるらしい……。普通に多すぎると思ったのだが、これでも少ないほうなのか……。
でも考えてみればヴィオラはSランク冒険者で国にも数人しかいないレベルの人材らしいし、俺の世界でも年収何十億とかの人はいるから、1回の依頼で1億とかもあって当然なのかもしれない。しかもこちらの世界の冒険者は命懸けだし、報酬が高額になるのも当然か。
「まあ、そんなもんだろ。それよりも食ってうまい部分は優先的に確保してくれよ!」
「あとは魔石もほしい!」
「おう、ちゃんと伝えてあるから安心してくれ」
……金貨2000枚よりも2人にとってはそっちの方が大事らしい。う~ん改めてこんなすごい人物が田舎にあるうちの家でカップラーメンを食べて喜んでいたとはにわかに信じがたい……。
1億円を持っていて金持ちになった気分でいる俺が少し悲しくなってくる。道理で魔道具屋で金貨何十枚もする魔石をポンポンと買えるわけだ。
「こちらになります」
光り輝く大量の金貨が積まれたトレーをロイマさんやギルド職員の人が持ってくる。さすがに金貨3200枚となるとすごい量だ。
「あいよ。そんじゃあさっさと行こうぜ」
「あとで数えておく」
2人は差し出された金貨を収納魔法に数えもせずに入れる。う~ん、俺ならちゃんと報酬があるか一々数えてしまいそうだな。
「今回の件は本当に助かったぜ! そういやアースドラゴンの特殊個体の肉はもう食べたのか?」
「おう、すっげーうまかったぜ!」
「特にカツにして食べるとおいしかった!」
レンダーさんの問いに2人が答える。やはり特殊個体の肉には興味があったみたいだ。
昨日はみんな満足してくれたみたいだから、答える時の表情がとても明るい。なんなら俺も昨日のステーキとカツの味を思い出して、口の中によだれが溢れてきた。人間おいしいものの味を思い出すと反射でそうなってしまうものである。
「カツ? 料理法なのか? 聞いたことがねえな」
「私も初めて聞きましたね」
「俺の国の料理なんです。素材に衣を付けて、高温に熱した油で揚げる料理なんですよ」
「ほう、油で揚げる料理は聞いたことがありますが、衣というものは聞いたことがないですね」
ロイマさんは揚げ物の概念は知っているらしい。確かに素揚げに近い料理くらいはこちらの世界でもありそうだ。
「衣というのは固めのパンを削ったもの肉の周りに纏わせて……実際に見せて食べてもらった方が早いですね。リリス、出してもらっていい?」
「おいっ、俺たちの分だぞ!」
「どうせまたカツは作るよ。普通のアースドラゴンの肉との違いも食べ比べてみたいからね」
「そうか、それならいっか」
さすがにカツのひとつくらいは許してもらおう。特殊個体の肉が珍しいとはいえ、肉はまだまだあるからな。
2人が無事に帰ってきてくれたのもレンダーさんやロイマさんの采配のおかげでもあるし、それくらいはご馳走してあげたい。俺も見知らぬ料理があったら食べてみたいと思うからな。
「ほう、肉の外側に茶色い物を巻き付けてあるのか」
「なるほど、削ったパンを肉に付けて油に浸すとこのようになるのですね」
昨日作った特殊個体のアースドラゴンのカツは多めに作って2人の収納魔法に入れてもらっているから、いつでも揚げたてのカツが楽しめる。入れた時点で時が止まる収納魔法って本当に便利だよな。俺の世界であったら流通に革命が起こってしまう。
「うおっ、こいつはうめえ! 中からアツアツのうまい肉が出てくるぜ!」
「外側はサクサクしていてとてもおいしいですね! それにこの肉がとてもすばらしい味です! これが特殊個体のアースドラゴンの肉ですか!」
皿に載せたカツをカットして、レンダーさんとロイマさんが口元へ運ぶ。
2人とも随分とおいしそうに食べてくれるなあ。もちろん素材の肉のおかげだが、作った身としては嬉しいものだ。
「……なあ、俺たちもここで食っていかねえか?」
「……私も食べたくなってきた」
「キュキュウ……」
「みんなはいつでも食べられるからね。お昼は街で食べ歩くんでしょ」
2人が食べている姿を見て、みんなもカツを食べたくなったみたいだ。
昨日の夜にたくさん食べてお酒を結構飲んだこともあって、今日の朝は何も食べていないから俺もお腹が空いている。
ただし、今日はこのまま街で食べ歩きに行くので、カツはおあずけだ。確かにこのカツももう一度食べたいが、異世界の料理も食べたいのである。




