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第104話 宴のあと


「ふい~満足だぜ!」


「お腹がいっぱい……」


「キュウ~」


 ステーキとカツを一心不乱に食べ続け、ようやくみんな満腹になったようだ。アースドラゴンの特殊個体の肉はそれほど脂が多くなかったから、他の部位を食べ比べてみたり、味変をしたりすることによっていろいろな味を楽しめた。


 仰向けになっているハリーの真っ白なお腹がぽこんと膨れている。お行儀は悪いがなんとも可愛らしい様子だ。俺もここまでお腹がいっぱいになるまで肉を食べたのは久しぶりかもしれない。


「みんな満足してくれたようでよかったよ。家に帰ったら、もう少し手のかかる料理も作ってみるかな」


「キュキュ!」


「楽しみ!」


「期待しておくぜ! ケンタの世界の酒もうまいからつい止まらなくなっちまった。やっぱし、冒険者ギルドの宴会を抜け出してきて正解だったな」


 ステーキやカツにはビールだけでなく赤ワインやハイボールなども合うのである。それほど高くないワインでもこちらの世界のワインと比べると雑味が少なく、かなり上品な味となる。ハイボールもいろんな料理によく合う。


「そういえば冒険者ギルドでも宴会をやっていたのか。なんだか悪いね……」


「確かにああいうのも悪くねえが、今はこっちで楽しく飲み食いしている方が楽しいからケンタが気にする必要はねえよ」


「……私はどちらにしろそういう席には出ない」


 そういえばリリスは少し人見知りだったか。ヴィオラの方は宴会とかでもひたすら盛り上がっていそうなイメージだ。


 2人はあまり気にしていないようだけれど、他の参加していた冒険者にとっては今回の討伐戦の主役である2人がいないと少し寂しかったのかもしれない。明日レンダーさんとロイマさんには謝っておこう。


「それにしても、本当に誰も死ななくてよかったよ。これで何の気兼ねもなく観光楽しめるな」


「ケンタは気にし過ぎだぜ。冒険者なんてのはその辺の覚悟もできているから、そん時はそいつの分まで生きている者が楽しめばいいんだよ。俺達だって明日はどうなってんのかなんてわかんねえからな」


「……なるほど。ヴィオラの考え方の方が正しいのかもしれないね」


 少し薄情とも思ったけれど、こっちの世界は俺の世界よりも死がずっと身近にある世界だ。その人たちの分まで生を楽しむのが礼儀なのかもしれない。改めて世界が違うと死生観も少し異なるのかなとも思った。


 まあ、今回はその心配がなくて実に嬉しいことだ。


「どちらにせよ報酬を受け取ったり、アースドラゴンを解体するのにはしばらく時間がかかる。その間にこの街や近くの海のある街を見て回るのがよさそう」


「おおっ、それは楽しみだ!」


「キュキュウ!」


 これでこの大きな街の市場を心から楽しむことができるし、近くにあるという海の街へも行ける。湖で獲れた魚はベリスタ村で食べたけれど、こっちの世界の海産物はまだ食べたことがないから楽しみだ。


 ベリスタ村のみんなにもたくさんお土産を買っていくとしよう。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 翌日、やはりというべきか、昨日はお酒を飲み過ぎたヴィオラが復活するまで少し待つ。みんなも昨日お腹いっぱい食べたこともあって、朝食はなしでも大丈夫だった。


 お昼前となり、街を観光する前にまずは冒険者ギルドへと寄る。


「いやあ~昨日はよくやってくれたな! ヴィオラとリリスのおかげで誰も死ぬことがなかった。感謝しているぞ」


「本当におふたりのおかげです。さすがSランクとAランク冒険者様ですね!」


 レンダーさんとロイマさんも昨日冒険者に大きな被害が出なくてとても上機嫌だ。


「レンダーもなかなかだったぜ。あんたがいれば特殊個体もなんとかなっただろうさ」


「ヴィオラの言葉は嬉しいが、俺はもう引退した身だからな。それにアースドラゴンの鱗は硬いから、俺には厳しい相手だっただろう。少なくとも2人がいなかったら、もっと大きな被害が出ていただろうな」


「リリスさんも適切な指揮と支援をありがとうございました。それに事前の偵察も作戦を立てる上で非常に助かりました。おかげでこちらの被害を最小限に抑えることができましたよ」


「それはよかった。副ギルドマスターの指揮も見事だった」


 どうやらみんな大活躍だったらしい。あれだけ大きなドラゴンの群れを相手にして誰も死ななかったのだから、ヴィオラの力だけでなく、指揮官の采配がすばらしかったのだろう。


 俺も偵察で少しだけだが役に立ててなによりだ。昨日の夜の宴会に参加しなかったことも特に責めらることはなさそうだな。


「それじゃあ、先に報酬を渡すとしよう」


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