第103話 ステーキとカツ
「うおっ!? これはうまい!!」
「キュキュキュウ!!」
ナイフを入れるとしっかりとした弾力が伝わりつつも切れていく。肉とは思えない手応えがナイフか手に伝わってくる。
フォークで肉を口へと運んでゆっくりと噛みしめると、それほど厚くないはずなのに重厚な歯触りがして、すぐに旨みが口の中で爆発した。野性味あふれる赤身肉の旨みとジュワッと口の中へ広がっていく脂の旨み。至高の味とはこういう味のことを言うのだろう。
これと比べてしまうとクラウドワイバーンやA5ランクの肉ですら霞んでしまうほどの肉である。どちらも柔らかくて舌の上でとろけるような肉だったのだが、このアースドラゴンの特殊個体の肉はザ・肉、肉の中の肉、肉肉肉肉肉といった感想となってしまった。
「うおおおお、めちゃくちゃうめえじゃねえか!」
「最高においしい!」
ヴィオラとリリスも俺とハリーと同じ反応を示し、ステーキを次々と口元へ運ぶ。
「う~ん今回は塩コショウをこだわってみたのもあるけれど、肉の味が段違いだ。アースドラゴンがおいしいのか特殊個体がおいしいのかは普通のアースドラゴンを食べてみないとわからないか」
「少なくともアースドラゴンはここまでおいしくない。特殊個体であるのとケンタの調理法のおかげ」
「ああ、アースドラゴンはここまでの味じゃねえぞ」
どうやらアースドラゴン自体はここまでの味ではないらしい。後日普通のアースドラゴンの肉の味を食べ比べてみるとしよう。
今回のステーキは前回と同様、一気に両面を焼き上げてからアルミホイルを被せて余熱でじっくりと全体へ火を通した。そして塩とコショウは岩塩と粒のコショウをかける際にミルで挽いた。こちらの方が特に風味がよくなるらしい。
塩については俺も知らなかったのだが、岩塩の中にもいくつかの種類があるようだ。スーパーなどで見かけるピンクロックソルト、まろやかな味のモンゴルロックソルト、真っ白で柔らかなクリスタルロックソルト、そして今回使った独特の風味があって肉にあうヒマラヤルピーソルトだ。他にも様々な岩塩がある。
それを粒の大きさを調整できるミルで少し荒めに削ったのだが、肉の味が濃厚なこの肉ならこれくらいの方がガツンとくる。
同様にコショウもブラックペッパーやホワイトペッパーにピンクペッパーがあるのだが、風味の強い黒コショウの粒をミルで荒めに挽いた。塩コショウだけとっても、これだけ味の違いがあるのだから料理は奥が深い。
「最初は一番肉の味がよくわかる塩コショウで味付けしたけれど、他にもアウトドアスパイスやステーキソース、おろしダレなんかで食べてもおいしいよ。さて、続けてはカツか。まずは塩だけでいこうかな」
「キュキュ~♪」
「楽しみ!」
今回はステーキの他にカツも作った。さすがに高級宿の部屋の中で揚げ物を作るのはいろいろと緊張したな。
とりあえず脂が跳ねないように四方を囲って壁へ飛び散らないようにして、火事にも極力気を付けた。庭や厨房を借りるとガスコンロや調理道具などが見られてしまう。この世界にある魔道具として押し通してもよいのだが、余計なリスクは極力回避したほうがいい。
ハリーとリリスは揚げ物が大好きだから、ステーキ以上にテンションが上がっている。ドラゴンカツか、俺もどんな味がするのかとても楽しみだ。まずはこちらも岩塩のみで肉の味を楽しみ、定番のソースにからしを付けたり、レモン汁をかけて食べたりしてみてもいいだろう。
「うん、ステーキもいいけれど、カツもいいな! 野性味ある濃厚な肉の味を衣がしっかりと包んでいるよ」
「キュウ、キュウ!」
「このサクッとした食感のあとにすごくジューシーなお肉の味が溢れてくるのがたまらない!」
「うめえ! こいつはうめえぜ!」
やはり揚げ物はいいなあ。カラッと揚がったサクサクの衣の中からおいしい肉の味が飛び出してくる。
塩と同様にトンカツ用のソースにもこだわってみた。俺はいつもソースを使う大体の料理を中濃ソース1本で使い回していたが、ちょっといいトンカツソースを使った。このソースにはゴマも入っていて、ソースの中に香るほのかなゴマの風味がドラゴンカツによく合っている。
……トンカツソースだけであれほどの種類があるのだから、ウスター、中濃、その他のソースを含めたら数えきれないほどだろう。
「こんな料理は初めてだぜ! しかもビールに合うから止まらねえよ!」
「師匠、ひとりで取りすぎ!」
「まあまあ。ちゃんと食べきれないほど作ってあるから大丈夫だよ」
初めてカツを食べたヴィオラはだいぶ気に入ったようで、大皿からどんどんカツを取ってそのままかぶりつく。ナイフで切る手間も煩わしいようだ。
カツの方はだいぶ多めに作ってある。揚げ物は結構面倒だから、作るのなら一気に作っておきたい。多すぎても収納魔法に入れてもらえばいつでも揚げ立てのドラゴンカツが食べられるぞ。
そのあとはみんなでひたすらにステーキとカツを食べることに没頭した。




