第101話 決戦
「行ってくる」
「そんじゃあ行ってくるぜ」
そして翌日の朝、いよいよアースドラゴンの群れとの決戦だ。
宿の前でハリーと一緒にリリスとヴィオラを見送る。本当は俺もできるだけ2人の近くで応援したい気持ちもあったが、むしろ俺がついていったほうが2人や他の冒険者の邪魔になってしまうため、俺とハリーは宿でお留守番だ。
ドローンで戦況の状況報告なんかを手伝えるかとも思ったが、戦陣を組んだり戦略を使う対人戦ならともかく、魔物の群れとの戦いではドローンで得られる情報はそれほど意味がないらしい。
「2人とも、本当に無理はしないでね」
「キュキュウ」
2人が俺なんかよりも全然強いことは知っているけれど、俺たちだけ留守番というのはなんだが、少しだけ歯がゆい気持ちだ。
「心配しなくても大丈夫。本当に難しいようだったら撤退するだけ」
「ケンタは心配性だな。俺的には久しぶりに手応えのある相手だとありがてえぜ。それよりもケンタは晩飯の用意でもしておけよ、ぱっぱと倒してくるからうまい飯と酒を期待しているぜ!」
「私もおいしいご飯を期待している!」
……2人とも本当に頼もしいな。うん、心配する必要はなさそうだ。
「了解、夜はご馳走にしよう。くれぐれも気を付けて!」
「キュウ、キュキュウ!」
「……とは言ったものの大丈夫かなあ?」
「キュ!」
「そうだよな、ここまで来たら2人を信じて待つだけか」
2人を見送って、ハリーと一緒に宿の部屋へと戻ってきた。柔らかなベッドへ横になりながら、ハリーと一緒にタブレットで動画を見ているのだが、やはり2人のことが気になってしまう。
今頃は魔物と戦っているころかと思うとまた不安な気持ちが出てきたけれど、ハリーは大丈夫だと言いたげに右手を挙げた。俺の世界の物で何かに役立ちそうな物はリリスに預けたし、あとは2人を信じるだけだ。
「……あれ、地震か。こっちの世界にも地震はあるんだなあ」
「キュウ?」
横になっているとベッドが少しだけ小刻みに揺れた。
「それにしても随分と長いな……。いや、まさかな……」
ベッドで横になっていなければ気付かないくらい小さな揺れだけれど、もう1~2分は続いている。まさかとは思いつつも、なんとなく宿の窓を開けてみた。
「……おいおい、あれも魔法なのか?」
「キュキュウ!?」
窓から見える街並みの遥か先、昨日偵察に行ったアースドラゴンの巣のあった方向に竜巻が見えた。ここから見るとそれほど大きくはないが、距離を考えればとんでもない大きさの竜巻だ。
ビルや大きな建物のないこの異世界で高級な宿の3階だからこそ、あれだけ離れた場所でも見えたのかもしれないけれどすごいな……。普通に考えるとあれはリリスかヴィオラの魔法ということになりそうだ。
あんなものまで魔法で出せるのだから本当に驚かされる。あれだけ大規模な魔法を放てるのなら大丈夫かと思うけれど、それを撃つ必要のある相手ということにもなるから少し不安でもある。
2人とも早く無事に帰ってきてほしいなあ。
「ただいま」
「ふい~疲れたぜ」
「おかえり! 2人とも怪我はないみたいだね!」
「キュウ、キュウ!」
窓の外から見えていた竜巻が消え、そこから1時間ほど経ったあとにリリスとヴィオラが宿へ帰ってきた。
目に見える範囲で2人に怪我はないように思える。
「問題ない。怪我人は出たけれど、死者はひとりもいなかった」
「おお、それは本当によかった!」
強い魔物との戦闘ということで、亡くなってしまう人も多少は出るかと覚悟していたけれど、ひとりもいなかったようだ。
「今回はCランク以上の冒険者が集められていた。それくらいのランクの冒険者になると、みんな無茶はしない」
「なるほど。みんな引き際はしっかりしているんだね」
どうやら冒険者という職業はまだランクの低い頃の方が危険らしい。確かに人はどんな仕事でも新人時代が一番ミスをしやすい。冒険者の場合はそのミスが致命的な怪我に繋がるのだろう。ある程度経験を積めばそういったミスや油断なんかもなくなるわけか。
「ケンタやリリスは心配し過ぎなんだよ。そんなこと考えなくてもなんとかなるもんだぜ」
「「………………」」
「キュウ?」
まあ、中にはヴィオラのような例外もいるのだろう。ヴィオラはリスクとか考えずにすべて突っ込んでいきそうなイメージだものな。
「そういえば、この宿の窓の外から大きな竜巻が見えたんだけれど、やっぱりあれも魔法なの?」
「師匠の風魔法。あれでアースドラゴンの特殊個体を倒していた」
やはりあの竜巻はヴィオラの魔法だったらしい。
「いやあ~やっぱし、たまに大規模な魔法をぶっぱなすと気持ちがいいぜ!」
「……危うく味方の冒険者まで巻き込むところだった。むしろ師匠の魔法で怪我人が増えてもおかしくなかった」
「………………」
やはり俺は現地に行かなくて正解だったようだ。




