第100話 お買い物
「……相変わらず結構なお値段の物ばかりだ」
ずらりと棚へ綺麗に並べられている様々な形をした道具。以前レジメルの街へ行った時にも魔道具屋を訪れたが、その店よりも大きく、多くの商品が並んでいるようだ。
なんなら、店の入り口には武装している護衛が2人もいる。高価な商品が多い分、盗難なんかにも備えているのだろう。
「ケンタ、これとこれはいくら?」
「こっちが金貨3枚で、こっちが金貨10枚と銀貨5だね。どう?」
「正解」
「よし! 頑張って覚えた甲斐があったなあ」
「キュキュウ!」
リリスが指差した商品の前にはその商品の値段がこちらの世界の文字で書かれている。例の世界を渡る鏡を通るとそちらの世界の言語を話したり聞き取ったりすることが可能になるが、文字は読み書きすることができない。
リリスが俺の世界の言葉を勉強して学んだように、俺もこちらの世界の言葉を勉強したのだ。といっても、簡単な数字と貨幣の種類だけである。これだけとはいえ、買い物をする際に自分で物の値段を確認できるだけで買い物が楽しくなるというものだ。前回はいちいちリリスに聞いていたからな。
こちらの世界の数字も10進法だったので、文字だけ覚えてしまえば計算はできて助かる。さすがに2進法とか5進法なんてすぐに計算できないぞ。
「この綺麗な宝石みたいなのが魔石なの?」
魔道具とは別にまるで宝石のショーウィンドウのようにキラキラと輝く大小さまざまな綺麗な石が並べられていた。
それぞれ大きさも数センチメートルの小さな物から、30センチメートルほどの大きな物まである。また色も様々で、赤や青に緑など多くの種類があった。
「おう。こいつ自体に魔力が宿っていて、それを加工することでその魔力を使えるんだぜ。他にも種類によって様々な特徴もあったりする。魔力を使うだけじゃなくて、魔力を貯め込む性質のある魔石なんかもあるぜ」
「魔石は魔物の心臓部に生成されていく。大きな魔物や長く生きた魔物ほどより大きな魔石を取れることが多い。この前倒したクラウドワイバーンにも魔石はあった」
「な、なるほど」
ヴィオラとリリスが魔石の説明をしてくれる。2人とも熱がこもっているというか、本当に魔法や魔道具のことを好きなことが伝わってくるな。
それにしても魔石か。電気でたとえると電池のようなものなのだろう。物によっては充電して何度も使うことができる魔石もあるらしい。
以前に俺の世界でリリスの魔道具を実験してみた時も、使用者の魔力を使用する物は使えなかったけれど、魔石をエネルギーとする魔道具は使えたものな。
「火を出したり、水を出したりする魔道具か。野営をする冒険者には便利そうだね」
「特に水場のない場所で魔法を使えない冒険者は重宝している」
それぞれの魔道具の詳細を聞いてみると、なにもない場所で火や水を出せるという魔道具があった。こちらの世界では魔法を使える人自体がそれほど多いわけじゃないので、こういった魔道具は重宝されるようだ。他にも食材を入れてボタンを押せば、回転してみじん切りにしてくれる調理用の魔道具や、ボタンを押すと風を送り出すドライヤーに近い魔道具なんかもあった。
……今のところ俺がほしい魔道具なんかはなさそうだな。火を出す魔道具はライターでいいし、他の魔道具も俺の世界にはより安価で小さい物で代用できる物ばかりだ。なにかあった時の災害用に飲料水を出せる魔道具はちょっとほしかったりするけれど、たぶん2人なら簡単に作れてしまうだろう。
とはいえ俺の世界で魔法を使えるというのはなんだか格好いいので、今度2人に頼んで護身用の魔道具を作ってもらうとするかな。やはり魔法というものにはロマンがある。
「だいぶ魔石を買ったね」
魔道具屋を出て、宿へと歩いて戻る。
結局ヴィオラとリリスは魔道具を買わず、魔石を大量に購入していた。購入した魔石はすでに収納魔法で中に入れているため、現在は手ぶらである。
「魔力が切れた時の保険になる。それに余っても研究で使えるから、魔石はいくらあってもいい」
「なるほど」
2人とも魔物と戦う時は魔法を使うが、魔法を無限に使えるわけではない。今回のように長期戦となる可能性がある場合には魔力を節約しつつ、魔道具を使って戦闘を行うことも多いようだ。……2人ならエグい威力の攻撃用の魔道具とか作っているんだろうなあ。
それにしても、金貨何十枚、俺の世界では何十万円もする大きな魔石をポンポンと購入していた。やはり2人ともお金にはだいぶ余裕があるらしい。俺もかなりの大金を持っているけれど、2人ほどは値段を気にせず買い物ができない。
やはりこれまでの貧乏人根性が沁みついているのかもなあ。俺の性格的にも大富豪的な振る舞いなんかはできない気もする。




