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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻

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58話 新秩序連合への反撃

 ショッピングモールを襲撃された日の深夜。

 隼人は、桜井から中貫市民病院の見取り図を書いてもらい、現地に向かった。

 新秩序連合のアジトとなっている中貫病院は、6階建ての290床。

 中貫駅の南側3キロメートルに位置しており、駅南市民は市民病院、駅北市民はモールに隣接する中規模病院に通院していたという。

 かつては、二次救急病院で、災害拠点病院にも指定されていた。

 自家発電装置、地下水の汲み上げ施設があり、今は迷惑千万の源となっている。


『道、分かるの?』


 結依からは、夜に行けるのかと問われた。

 中貫市民ではない隼人が、街灯が無い夜道を行くのだから、当然の疑問だ。


『直線で進める道に入るまでは、車で移動する。その後は、徒歩だな』

『夜道、見えるの?』

『集中すると、人間の50倍くらい見える』


 隼人は月明かりが有る夜道では、街灯が無くても木々の輪郭、建物の形状、地面の起伏などが明確に認識できる。

 また動く物の識別も容易で、ゾンビなども見分けられる。


『空間収納で車を出して、ヘッドライトは点けないまま、カーナビで地図を見る。それならバレずに近付けると思う』

『それで何をするの?』

『警察署前、車があった民家、ショッピングモールで、3回襲われた。こうなると組織自体に反撃して良いだろう』


 杏奈をどうするにせよ、桜井の食糧事情は改善しなければならない。

 方法は簡単で、隼人が使い切れないモミを回収できると伝えれば良い。

 するとホテルの人々は、当面の食料確保が叶い、近隣で稲作も始められる。女性でも脱穀、籾摺り、精米の作業は出来るので、杏奈も生きていける。

 ゾンビ対策は、水田を柵やバリケードで囲えば良い。

 ゾンビ以上の障害は略奪者の存在だが、略奪者より厄介なヒグマが現われた。


 やり方は簡単だ。

 隼人の空間収納は、20フィートコンテナ10個分の容量がある。

 そのうち一つは、ガソリンを入れた25リットルの桶を664個入れている。

 それを使って、可能な限り焼けば良い。

 建物自体は耐火構造で焼けないだろうが、他にも焼ける物は沢山ある。


 ――まずはバイク。


 市民病院に到着した隼人は、屋根付きの駐輪場に停めているバイクに向かって、ガソリンを撒き始めた。

 バイクは駐輪場に収まらず、その周囲や、病院の建物に沿って並んでいる。

 それらにもしっかりとガソリンを掛けていった。


 ――今日は収穫が多いから、熱中していて気付かないだろう。


 駐輪場で作業を終えた隼人は、次に病院の正面出入り口に走った。

 正面出入り口には、バリケードが作られている。

 工事現場で見るような黄色と黒のトラ柄の扉付ガードフェンスが、出入り口を塞ぐ長さで連結して設置されていたのだ。

 ガードフェンスには、重そうなコンクリートの土台も付いている。

 しかも二重で、ゾンビは出入り口に触れることすら適わなさそうだった。


「……フン、無駄なことを」


 悪役のようなセリフを呟いた隼人は、ガードフェンスを収納した。

 収納は一時的なもので、帰り道にでも放り捨てる予定だ。

 代わりに50個ほどの桶を並べた後、桶を投げ捨てながら壁沿いを走る。


 しばらく走ると、医薬品や食品などの搬入口があった。

 そこにも桶を30個ほど置いた後、次へと向かった。

 次いで病院建屋の北に、霊安室から繋がる出口があった。霊柩車が横付けして、病院で亡くなった人を搬出する場だ。

 そこにもバリケード代わりのガードフェンスがあったので収納して、代わりに桶を20個ほど設置した。


「次が、問題だな」


 ガソリンを撒きながら走ると、病院の裏手に自家発電装置、地下水を汲み上げるポンプが置かれている区画があった。

 病院の地下水は、災害時には地域住民が汲みに来ても良いとされていて、地元のテレビ局を呼んだお披露目会が行われたので、桜井も知っていた。

 水を汲み上げる電力の質問があり、隣にある自家発電装置の説明もあった。

 自家発電装置の燃料タンクは地下にあるが、操作する機械は地上にある。

 いずれも金属製で、軽く火で炙った程度では壊れないが、隼人が持ち込んだのは大量のガソリンだ。


 ――100個ずつ置いて、念のために直接ガソリンを掛けるか?


 最初に、一番手間が掛かる場所からやれば良かった。

 そんな後悔を抱きながら、隼人はガソリンが入った桶を横に並べた後、いくつかを直接掛けた。

 手早く作業を終えた後、桶を出しては捨てながら、建物沿いに走る。

 すると、以前はドクターカーなどを入れていたらしき車庫があった。

 救急車両は置かれておらず、代わりにバイクと沢山の燃料缶が並んでいたので、30個ほどの桶を設置して、念のために直接撒き散らした。


 車庫の隣は、備蓄倉庫だった。

 災害拠点病院には、非常食や水を入れた倉庫がある。

 現時点であるのかは不明だし、耐火構造のような気もしたが、隼人は鍵が掛かった出入り口の前に30個ほどの桶を並べて、周囲にも20個ほどを設置した。

 そしてガソリンを撒き散らしながら、その場を後にする。


 ――最後は、時間外出入り口か。


 正面出入り口が塞がれていた以上、時間外出入り口で出入りしているのだろう。

 もしかすると時間外出入り口には、新秩序連合の人間が居るかもしれない。

 立ち止まった隼人は、空間収納からプレートアーマーを出すと同時に装備した。そして全身が鎧姿に成った後、時間外出入り口に向かった。


 魔王強襲に特化した鎧は、あまり音が立たない。

 だが皆無とはいかず、隼人が閉じられていた時間外出入り口の前に立ったとき、隣接する防災センターの金網が張られた窓のカーテンが、ザーッと開いた。

 隼人が被っているグレートヘルムと、院内から覗き込んだ男が、窓越しに顔を合わせた。


「うぎぁあああっ!?」


 いきなり窓越しに全身鎧と対面した男が、叫び声を上げた。

 発見された隼人は、時間外出入り口の扉付ガードフェンスを収納した。

 そして代わりに、ガソリン入りの桶を可能な限り置いていく。

 時間外出入り口は閉まっており、開けるには多少の時間が掛かる。

 1、2、3、4、5と、素早く秒数を数えるように桶を並べて置いた隼人は、30秒を数えた後、最後にガソリンを撒き散らして、時間外出入り口を離れた。


 そして正面出入り口側に曲がる角まで行き、火が付いたランプを放り投げる。

 ランプは曲線を描いて飛んだ後、時間外出入り口の前に落ちていった。

 隼人は正面出入り口側に曲がる壁に入って、身を地面に投げ出す。足は閉じて、両手で頭を庇った。

 刹那、時間外出入り口から、正面玄関側に曲がる角に、炎が突き抜けた。


 ――ぐあっ。


 思わず目蓋を閉じた隼人の網膜に、赤い光が入ってきた。

 シューという炎が膨れ上がる音と、チュドオオオンッという轟音が鳴り響き、炎が吹き荒れる。

 それは一度では収まらず、備蓄倉庫、車庫、自家発電装置、霊安室の出口、搬入口、正面出入り口、駐輪場で立て続いた。

 その中でも尋常ではない爆発は、車庫で起きた。

 新秩序連合が持っていた燃料に引火したのだ。

 爆発は車庫を丸ごと吹き飛ばすに留まらず、隣接する備蓄倉庫に爆撃を与えて、車庫に面した病院の窓ガラスを次々と割った。


 炎が飛び散り、引火と誘爆が立て続いていく。

 正面出入り口側に出た隼人に幸いしたのは、バスの待合室が壁になったことだ。

 それが無ければ、正面出入り口に置いた大量のガソリンの爆発に、巻き込まれていただろう。


「やり過ぎた」


 25リットルは、車1台を爆発炎上させる量だ。

 それが50個もあれば、バリケードを撤去した正面出入り口など吹っ飛ぶ。

 備蓄倉庫にも同数を置いており、入口のドアは吹っ飛んだだろう。すると内部に炎が回るのも不可避だ。

 自家発電装置と、地下水の汲み上げ施設には、倍の100個ずつ設置している。備蓄倉庫を上回ることになっているはずだ。


「連れ去られた人も居るはずだから、建物を全焼させる気は、無いが……」


 隼人の目的は、新秩序連合の拠点を機能不全にすることだった。

 目的は、おそらく達成された。

 問題は、想定以上に燃えていることだ。


 ――耐火構造、頑張れ。頼む。


 隼人がガソリンを撒いたのは病院の外側だけだ。

 鉄筋コンクリートは、もちろん燃えない。

 だが窓は割れており、病室のカーテンやベッド、待ち合いソファーは燃える。


 ――次の被害を出さないために、盗賊団のアジトは潰したほうが良いかも。


 そんな風に自分への言い訳も考えつつ、隼人は燃え盛る病……盗賊団のアジトを後にした。

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― 新着の感想 ―
直接手を汚したくないにしても貴重なガソリンを使う理由はなんだろう?
拐かされた人に言及してくれたのはせめてものヒグマの人間性か 火事の巻き添えくらってなくてもここでゾンビきたら逃げられないだろうしなぁ
そして巨大な火の手が上がったことでどこからともなく沸いたゾンビ共が後を片付けてくれるから、誰も彼もが一網打尽ってわけだ!! そういう狙いなんだよね??(前話からいきなり夜になってからのあっという間に…
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