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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻

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54話 隼人の敗北

 ここ数日で、ホテルの雰囲気は一変していた。

 交流スペースには人の出入りが絶えず、皆が活気に溢れている。

 彼らは物資で満載のリュックを担ぎ、持ち帰った品や情報を交換し合っていた。


『ショッピングモール2階まで、かなりのゾンビが排除されたらしい』

『2階は、フードコートがあったよな』

『ああ。缶詰があるはずだ』


 話題の中心は、突如として出現した優良な物資の収集地だ。

 ホテルから遠くないモールには、隼人が回収せず、または見落とした食品類が、相当量があった。

 食品売り場には、生米、菓子類、乾燥食品などが残っていた。酒も手付かずで、ワイン、焼酎、リキュールには、消費期限が切れていない物もあった。

 お土産コーナー、レストラン街、フードコートにも、業務用の食品や調味料が、山のように残っていた。

 2年前の米でも炊けば良いのだし、菓子類や缶詰なども包装や密封されていて、食べられないわけではない。

 乾燥食品には、麺類のうどんや蕎麦、トッピングの昆布、干ししいたけ、海苔、ワカメなどもあるので、回収出来れば立派な食料になる。

 魚介類の干物や豆類など、食べられる物はまだまだあった。


「熊倉君の物資回収が、行動の引き金になったようだね」

「そのようですね」


 情報をくれたのは、隼人と協力関係にある桜井だ。

 1001号室の椅子に腰を下ろした桜井は、勧誘されてしまう隼人の代わりに、宿泊者達から情報を集めてくれた。

 隼人は大量のゾンビを倒した後、ショッピングモールに向かい、数日に渡ってホテル内に物資を運び込んだ。

 その様子を見ていれば、ショッピングモールから物資を手に入れていることには気付くし、欲しいと思う。


 ゾンビ500体を倒す隼人が行ったのだから、ゾンビが殲滅されていることは、想像に難くない。

 隼人から力尽くで奪おうとすると、ゾンビ達のように射殺されるリスクがある。腕力や体力も異常に高いので、弓を持たない時でも勝率は分からない。

 だがショッピングモールに行けば、戦わなくても山のように置いてある。

 ならば自分達も行って、お零れに与ろう。

 そう思った人間は、沢山居た。


「俺一人だと、回収できる量に限りがありますからね」

「それでモールのゾンビは、どうなんだい?」

「食品売り場の付近に居たのは、片付けました。ほかは、知りません」


 隼人はモールの正面出入り口から入り、食品売り場に移動して、薬局に寄って、裏手から出た。

 隼人が通ったルートのゾンビは、掃討済みだ。


「モールの出入り口は、正面側に3つある。そのうち左側の出入り口から入ると、左手には食品売り場しかない。そこが安全なら、右へと開拓していけるね」


 長物を持った数人で行けば、正面からノロノロ歩いてくるゾンビ数体くらいは、脅威ではない。

 後ろが安全であれば、探索は楽だろう。

 数日経っており、今頃は右側への開拓が進んでいるのだろうと隼人は思った。


「ですがモールの右側は、別館のようでしたが」

「あれは映画館だよ。本館の営業時間外にも上映をするから、建物を分けたんだ。映画館は裏側にも、ちゃんと出入り口や駐車場があるよ」

「へぇ」

「本館1階のレストラン街や、2階の衣料品店から先に進むと、映画館に入れる。映画館にはファーストフード店があるから、まだ何か有るかもしれないね」


 桜井の提案に対して、隼人は気乗りしない表情を浮かべた。

 調味料は手に入るかもしれず、それが無価値とも思わないが、既に収納限界だ。後は個人用にした空間分しか、空きが無い。

 だが少し考えた隼人は、結依と菜月に視線を向けて、声を掛けた。


「結依達も、一緒にモールに行くか?」

「どうしたの?」


 隼人の提案に、結依が驚いて尋ね返した。

 これまで物資の調達は、安全を理由として、隼人が単独で行ってきた。

 例外は警察署での探索で、結依と菜月を車内に残しておけなかったからだ。

 ホテルというゾンビからの安全地帯がある現状では、連れて行く理由が無い。


「服や靴が欲しいかと思った」


 結依と菜月の顔が、途端に輝いた。


「モールで服とか靴とか探すの?」

「新品が沢山有りそうですね」


 確認する二人に、隼人は頷き返した。

 結依は自宅、菜月は寮から持ち出しているが、おそらく2年は買えていない。

 成長期でそれは辛いだろう。

 結依は、身長が伸びていない可能性も有る。だが、ろくに洗濯出来ずに着古した服を更新したい状況ではあるはずだ。

 衣服には消費期限が無いので、モールに行けば、未着用の新品が手に入る。


「相当の人間が行っているから、ゾンビは排除されていると思うが」

「もちろん行くけど!」

「沢山残っていそうですね」


 予算を気にせず、好きな物を持ち帰れる。

 そんな状況に、二人は色めき立っていた。

 すると二人が喜ぶ様子を見ていた杏奈が、隼人が座るソファーベッドに腰掛け、身体をぴたりとくっつけて甘えるように言った。


「ねえ、旦那様。私も行っていい?」


 刹那、1001号室の騒ぎがピタリと収まった。

 隼人は、『未婚の杏奈が父親の前で、旦那様と言いながら甘えても良いのか』や、『結依達の反応や如何に』と、周囲に視線を巡らせて様子を窺った。


 桜井は、判断は君に任せるよという態度であった。

 結依や菜月との関係もあるし、人数が増えれば安全確保の難易度も上がる。

 隼人が連れて行っても良いし、連れて行かなくても良いという委任の構えだ。


 ――常識的な判断は助かる。


 一方で結依と菜月は、反対の表情だ。

 現状、桜井親子とは協力関係にある。

 隼人は精米しており、カントリーエレベーターがある中貫市に当面留まる予定で、インバータ発電機を使う際にはホテルから出る。

 ホテルで結依達の安全を向上させる桜井親子には、融通を利かせたほうが良い。

 それは缶詰争奪戦を行った際に説明しており、二人も知らないわけではない。

 だが杏奈を連れて行くと、問題が起こる。


 ――空間収納、大っぴらに使えなくなるからなぁ。


 つまり、結依達の持ち帰れる服が減るわけだ。

 隼人に渡して、コッソリ収納させる工夫は出来るが、多少の制限は発生する。

 そんな事をつゆ知らず、杏奈は隼人に甘えてくる。


「お願い、旦那様ぁ」


 隼人の左腕に、柔らかい感触があった。

 15年物の特秀品である。


 ――果物の攻撃力は、大きさではないな。


 隼人は、素直に参りましたと言いたかった。

 負けを認めることは、恥なのだろうか。そのように悩み、おそらく一般的には、そうではないはずだと考えた。


「……服には個人の好みがあるし、他人が選ぶわけにもいかないからな」


 危険だからと連れて行かず、代わりに服を持ち帰るのは、如何なものだろうか。

 杏奈はお洒落でセンスが良いので、代わりに持ってきても、杏奈が選ぶより質が下がってしまう。

 それに隼人が、杏奈の下着類を持ってくるわけにもいかないだろう。


 ――完璧な言い訳だ。


 そのように隼人は、内心で自負した。

 結依が、『あたしの目を見て言いなさい』と見詰めてくる。

 対する隼人は、野生動物のように、サッと目を逸らした。

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― 新着の感想 ―
 しかしまあ、どんだけ自衛をしようといつまでも続けられるわけもなく……。  ある日、うにゅうにゅと微睡んでいた隼人は鋭い悲鳴を聴いてすぐに目を覚ました。声の感じからして、恐らく女……それも、聞き覚え…
杏奈の強かさ嫌いじゃないw
そろそろ、ショッピングモールを自分たちの縄張りと主張する集団が、いくつか出現しそうですよね。 後は、調達成功した人たちを襲う集団とか。 主人公の油断によって、誰かが死傷しそうな予感がしますねぇ。 …
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