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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻

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52話 モール1階

 ホームセンターで物資を獲得した翌朝。

 隼人の姿は、ショッピングモール前にあった。


「正直、気が乗らない」


 内部の暗がりには、おぞましい容貌のゾンビが未だに残っていると予見できる。

 噛まれて仲間入りさせられるかもしれないとは、思わない。

 だが、汚いオッサンが迫ってきて、嬉しいだろうか。

 気が乗るわけがない。

 それでも行くことにしたのは、食料を獲得するためだ。


 ――米と塩だけしか無いからなぁ


 獣を狩り、野菜を育てるにしても、せめて調味料は欲しい。

 缶詰も、偶の楽しみに必要だろう。

 ゴミを捨てる袋も、結依の家から持ち出した在庫が減ってきた。


「行くしかないんだよなぁ」


 なるべく楽しいことを考えようと、隼人は思った。

 例えば、昨日の左腕の感触である。

 収集した物資は隼人の物で、本来の分配は自由だ。

 少しくらい杏奈に持っていって、外で稼いできた旦那と、家で待っていた妻との新婚さんごっこで戯れるのはどうだろう。

 頭の回転が速そうなので、演技をすると乗ってくれるかもしれない。

 そして江戸幕府も、あまり怒らないかもしれない。


 前田利家とまつは、22歳と12歳で、結婚した。

 豊臣秀吉と寧々は、25歳と14歳で、結婚した。

 熊倉隼人と杏奈は、21歳と15歳で、文明崩壊中。


「……よし、征くぞ」


 なぜか元気になった隼人は、右手に槍、左手に懐中電灯を携えて、モールの駐車場へと歩みを進めた。

 駐車場には無数の車が放置されていたが、ゾンビの姿は数体だった。車両間に立ち尽くしており、隼人を見つけると、歩いてくる。

 ゾンビの歩みは遅く、隼人は相手にせず進んだ。

 今の隼人を止められるものは、居ない。


 正面と裏の出入り口は、誰かが車で突っ込んだのか、大きく開いている。

 はたして車で突入した勇敢な人物は、何かを得ることが出来たのだろうか。


「とりあえず換気されているのは、良いことだな」


 槍を軽く握り直しながら、店内へ足を踏み入れた。

 倒れた棚、床に散らばる商品、転がるカート、何故かある自転車。

 店内は、酷く散乱していた。

 割れたガラスの破片が、隼人の足元で軽く音を立てた。

 大型ショッピングモールに入って直ぐの場所に食品売り場があるのは、多くの客を引き込むための戦略だ。

 中貫市のモールも御多分に漏れず、左手に大きな区画が設けられていた。

 懐中電灯の光に引き寄せられてか、数体のゾンビが唸りながら近寄ってくる。


 ――呻って接近を教えてくれるのは、良いゾンビだ。


 槍を振り上げて、ヒグマの腕力で振り下ろす。

 すると穂先で頭部を叩かれたゾンビは、仰向けに倒れた。

 それからもゾンビ達が、立て続けに迫って来る。

 狭い商品棚の間で戦うと前後を囲まれるし、商品が駄目になりかねない。隼人は迎え撃つことにして、その場でゴスゴスと打ち倒していった。


 その後、間違って踏まないように進路を変えながら、棚にライトを照らした。

 最初に探したのは、店の真ん中辺りだ。

 果実、青果、鮮魚、精肉、パン、ペットボトルなど壁際の商品は、全滅だろう。

 駄目そうな部分を避けながら歩いて行くと、最初に意外な商品があった。


「オー、ワーオゥ?」


 ゾンビがはびこる片田舎のショッピングモールに、似非アメリカ人が発生した。

 目を大きく見開き、両手を軽く挙げた似非アメリカ人は、棚の両側に並ぶ商品を前にして、クルリと一回転してみせた。

 そこにあったのは、隼人が持ち帰れて有用な、数多の商品だった。


・洗剤類(食器・洗濯・台所・トイレ用洗剤)、

・消耗品(ハンドタオル、紙タオル、割り箸、紙皿、紙コップ、ゴミ袋)

・衛生用品(歯磨き粉、歯ブラシ、化粧水、乳液、洗顔料、ソープ類)

・トイレ用品(トイレットペーパー、キッチンペーパー、ウエットティッシュ)

・キッチン用品(ラップ、アルミホイル、クッキングシート、ジップロック)

・ヘルスケア用品(生理用品、オムツ類)

・ベビーケア用品(粉ミルク、ほ乳瓶など)


 棚に並んだ量は常識的だが、そもそも大型ショッピングモールの商品棚である。有って嬉しいと同時に、空間収納の空きが圧迫されると戦慄した。


「とりあえず、全部入れるか」


 収納空間には、1部屋分の空きは作っておきたい。

 持ち帰った後、結依と菜月に分配して二人用の空間に置くなり、ホテルの部屋に備蓄するなり、桜井親子に分けるなりしなければならないだろう。

 嬉しさと、渋い表情を混在させながら、隼人は槍と懐中電灯を持った両手の甲で触れ、数々の商品を収納していった。


 棚を綺麗にして、ホッと一息吐く。

 だが調味料コーナーを覗き込み、缶詰、レトルト、乾燥食品、パッケージ食品、フリーズドライ食品と見ていく内に、目眩を覚えた。

 先ほどにも増して、数多の商品があったのだ。


・砂糖、塩、醤油、ソース、ケチャップ、みりん、酢、味噌、ごま油、カレー粉

・缶詰(魚、野菜、フルーツ、ジャム)

・レトルト食品(カレー、パスタソース、スープ類)

・パッケージ食品(クラッカー、ビスケット、プロテインバー)

・インスタント食品(コーヒー、紅茶)

・ロングライフ食品(プレーン・チョコレート・フルーツ・チーズ・メープル味)

・フリーズドライ食品(羊羹、おかず缶、つま10種)


 いずれも消費期限が2年以上ある商品だ。


「これらは、政府が大増産させたのだったか」


 買われて、増産して、買われて。

 すると陳列されている商品は、陳列した時点では新しいので、消費期限で厳格に切り捨てても、あまり処分できないかもしれない。

 しかも空間収納から出すと期限が過ぎていくので、出しっぱなしに出来ない。


「全部入れるのは、無理だ。結依達の空間にも押し込んで、後で整理だな」


 これだけ有れば、結依も桜井親子に渡すことを渋らないであろう。

 槍を収納した隼人は、ゾンビのように唸りつつ、右手で商品を回収していった。

 棚に手を突っ込み、触れた物をブルドーザーのように入れていく。

 消費期限の確認は、場所を移った後にする。

 ゆっくりしていると、ホームセンターの時のように誰かが来るかもしれない。

 商品が多いので奪い合いにはならないだろうが、隼人は収納を見せられないので持ち帰れる量が大幅に減る。

 いずれの商品も、文明崩壊後には再生産が困難だ。


 江戸時代以前に国内で生産できた物は、おそらく作れる。

 だが江戸時代以前だと、砂糖とカレー粉以外の調味料、乾燥食品が関の山だ。

 誰かが作れても、相応に手間が掛かり、その分だけ手間賃も発生する。

 そのように考えた隼人は、めげずに収納を続けて、棚を空にしていった。

 そして、やっと帰れると思ってショッピングモールの裏側の出入り口に向かったところ、薬局コーナーがあった。


「まー、じー、かーっ」


 薬局コーナーは、手付かずだ。

 つまり霧丘北駅の薬局と大差ないものが手に入る。

 空の水桶を収納している空間にも突っ込み、持ち帰った後に桶と一緒に出して、地道に整理していかないといけない。

 どれだけ手間が掛かるか、想像も付かなかった。


「おう、おう、おうっ」


 似非アメリカ人からオットセイに退化した隼人は、ゾンビのようにフラフラとした足取りで薬局コーナーに歩み寄り、言葉を失いながら収納を始めた。


「おうっ、おうっ……」


 単純作業は、あまり深く考えてはいけない。

 風邪薬、頭痛薬、解熱剤、胃腸薬、外用薬などの用途を考えるのではなく、楽しいことを考えるのだ。

 包帯やガーゼに使用期限は無いとか、消毒液の使用期限はあるかなとか、そんなことはどうでも良い。とにかく楽しいことを考えようと、隼人は頑張った。


「結依が、バスタオルの代わりに、包帯を巻く」


 包帯は、バスタオルよりも薄い。

 そんなことを妄想する隼人の知能指数は、ニホンザルのレベルにまで下がった。今なら2年物のゾンビも、知能レベル的には、隼人を仲間と思ってくれそうだ。

 そして隼人は、結依に馬鹿なことを言った結果として、包帯で両手を縛られて廊下に放り出される自分の姿を想像した。


「はぁ、帰ろう」


 ゾンビの大移動から遅れること2日。

 彼らの知能に匹敵する個体が、ショッピングモールからノロノロと出ていった。

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― 新着の感想 ―
彼らに匹敵してしまう知能に笑ってしまいましたが、笑ってよかったのか
安全な性生活のために必要な相棒、近藤さんは探さないんですか? 「ヤレば出来る。良い言葉だな!我々に避妊の大切さを教えてくれる!」 地獄に堕ちたくないから我慢出来ている陰陽師の方と、我慢なんてしたく…
そう言えば女性陣は何を着てるんだろう はじめ制服だったけど寮や家から持ってきた私服かな でもさすがに成長期の18歳とかもいるし肌着は不足したりサイズ合わなくても無理に着てそう 慣れない手洗いだと結構生…
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