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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻

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51話 モテ期到来?

 沈みゆく夕陽が、10階の窓からオレンジの光を投げかけてくる。

 差し込む夕日に照らされる中、隼人は大きな鞄から様々な品を出し始めた。


「これが今日の戦利品になる」


 結依と菜月、それに桜井親子が、隼人の行動を見詰めている。

 桜井親子が1001号室に居るのは、元から協力関係があって、隼人もゾンビの片付けやホテルの様子を聞きたかったからだ。

 ホテルでは、昼前から二十台ほどの台車にゾンビを積んで往復し、ホテルを通り過ぎて300メートルほど先にある谷に捨ててきたそうだ。

 早々に去った隼人は、大正解であった。


「まずは充電式の電池と充電器だ」


 鞄から出てきたのは、単三が48本、単四が42本、充電器が5個。

 充電式の電池は、充電すれば数百から数千回使える。

 サイズ変換スペーサーも、単一用が8個、単二用が10個あり、それを単三電池に取り付ければ、単一や単二の電池として利用できる。


「ほかにもリチウム電池があったが、車の鍵の電池に使うから分けておく」


 物理的に不可能なので桜井親子には伝えないが、ハシゴ、台車、工具セット、軍手各種、補助錠、屋外延長コードなども選り分けている。


「こんなの良くあったね」

「中貫市のホームセンターは、日本が秩序を保っていた時期に占拠されたらしい。それでも、馬鹿みたいに高かったが」


 電池の山を見て呆れる結依に、隼人が受け売りを伝える。

 そして桜井に視線を投げると、彼は頷いて肯定の意を示した。


「略奪は都市部から広がって、中貫市は少し遅かった。わりと田舎だからね」


 おかげで商品の一部は、辛うじて残っていた。

 もちろん残っていたのは、ぼったくり価格の物だけだったが。

 続いて隼人は、大きめの戦利品を並べていく。

 LED懐中電灯12個、LEDランタン10個、すべて高価で高性能だ。


「懐中電灯とランタンは、充電式だ。菜月が持っているのは一番高いランタンで、ソーラー充電や手回し充電も出来て、連続67時間点けられる」

「凄いですね」


 菜月は、手に取ったLEDランタンの箱を眺めた。

 ランタンには長距離照明用の大径LEDがあり、懐中電灯としても使える。

 また2ヵ所のUSBポートがあって、スマートフォンも充電できる。

 ラジオ、アラーム、人感センサーなどもあって、自分の居場所を伝える緊急用、防犯灯としても利用できる。


「これだけあれば、夜も明かりに困らないな」

「充電はどうするの?」


 結依が指摘したとおり、菜月が手にするソーラー充電可能なランタンを除けば、すべて他所からの充電を要する製品だ。

 オイルランプで明かりには困らないが、出した回収品では解決が出来ない。

 結依から問い掛けられた隼人は、次の鞄を開けた。


「これが今日の大成果だ。2台あるが、まずは1台目」


 最初に隼人が取り出したのは、ホームセンターにあった製品だった。

 取り出した3つの箱のうち1つには『ポータブル電源2042Wh』と書かれており、残る2つの箱には『ソーラーパネル200W』と書かれていた。


「ソーラーパネル2枚なら、最短7時間でフル充電できる。そして充電しながら使うこともできるそうだ」


 机上にあった懐中電灯やランタンを押し退けて鎮座したポータブル電源の箱に、結依達は驚愕の眼差しを向ける。

 だが2042Whと言われても、ピンと来ないだろう。

 隼人は、先に自分が調べた情報を伝えた。


「炊飯器で1日4回、洗濯機で1日5回、電子レンジは1日2時間ほど動かせる。毎日ご飯を食べられて、洗濯できて、電子レンジも使えるわけだ」


 結依、菜月、そして杏奈は、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。

 それは、生活の質の劇的な向上になる。


「714号室のバスルームに洗濯機を置いて、714号室を部屋干し用にしたら、手洗いとか面倒なことから解放されるぞ」


 隼人が告げると、隼人の分を含めて洗濯を担当している結依と菜月が、互いに顔を見合わせた。


「洗濯機用の洗剤、どうしようか?」

「米ぬかが有りますよね。メッシュ素材の袋に入れると、汚れを落とせます」


 二人は視線を交わし合い、頷き合う。

 714号室にポータブル電源を置く場合、炊飯も714号室で行う事になる。

 1001号室との往復が必要だが、3階の上り下りは、洗濯や炊飯に比べて大した手間ではない。


「冷蔵庫の使用は難しそうだけど、電子レンジは使えそう?」

「そうですね。残った電力は、ランタンや電池の充電に使いますか」


 結依と菜月が話し合う横で、杏奈が羨望の眼差しを向けている。

 大人でダンディな桜井だけはポーカーフェイスを保っていたが、それも隼人が、次の製品を取り出すまでだった。


「ちなみに、ホームセンターでポータブル電源を手に入れた俺に対して、10人が強盗を仕掛けてきた。それを返り討ちにしたら、示談金でこれをくれた」


 そう言った隼人は、先ほどとは異なるポータブル電源と、ソーラーパネル3枚を机の上に載せた。

 ポータブル電源は、4096Whが1台。

 ソーラーパネルは、400Wが3枚。


「容量は2倍ある。ただしソーラーパネルが3枚で1200Wあっても、太陽光は1時間に1000Wしか充電できなくて、フル充電は最短でも4時間だそうだ」


 なんともややこしい話だと思った隼人は、説明を変えた。


「さっきのは1時間に400W、こっちは1時間に1000Wを使える」


 隼人は3人に襲われた時に同等品、10人になって2倍の示談金を要求した。

 すると、2.5倍の支払いが行われた。

 おそらくソーラーパネル1枚だけ残っても使えないので、渋々付けたのだろう。メーカーが異なると、充電ケーブルなどの規格が合わなくなる。

 多目の支払いがあったので、隼人は矛を収めた。

 自分自身で、2倍なら示談に応じると言ったのだから、問題は決着である。


「ホテルの部屋にあるエアコン用にしたら、24時間、付けっぱなしも可能だ」


 それは劇的な発言だった。

 現代人は、暑さにも寒さにも弱い。

 35度を超えるような真夏日が続く夏、雪が降りそうなほど凍える冬、いずれもエアコン無しでは過ごせない。

 うだるような暑さでは、一定数が熱中症で倒れる。

 凍えるような寒さでは、厚着して震えるしかない。

 毎年訪れる地獄の夏と冬、それがポータブル電源さえあれば解決できる。


「どうだ、凄いだろう」


 隼人は素直ではない結依に対して、好感度の再評価を求めた。

 目指すは200、吉原遊廓ごっこである。

 すると隼人の邪な考えを察したのか、結依は口元を引き攣らせる。

 隼人と結依は、無言で視線を交わし合い、攻防の火花を散らした。


 すると二人の様子を眺めていた杏奈が、隼人の左側にススッと傍に寄ってきた。そして隼人に身体をくっつけて、振り向いた隼人と見つめ合う。

 ジーッと隼人と見つめ合った杏奈は、やがて試すような甘い声を出した。


「私も付いていくー」


 杏奈の両手が、隼人の左腕を抱えた。

 すると両手の間にある柔らかいものが、隼人の左手に触れる。

 隼人はポーカーフェイスを保ったまま、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「こら、杏奈にはお父さんが居るでしょう」


 観察していた結依が、すかさずツッコミを入れた。

 だが隼人は、駄目とは言わない。

 むしろ、柔らかい何かと戦っている。

 杏奈は、さらに試す声を上げた。


「パパ。杏奈は。お嫁に行きます」

「そうか、元気でやるんだよ」


 桜井は、爽やかな表情を浮かべながら娘の話に乗った。

 隼人が表情を窺ったところ、半分は冗談のようだが、半分は本気のようだった。

 桜井の考えについては、以前聞かされている。


『うちの娘は、どれくらいで自立できるかなぁ』

『文明が崩壊していなければ、そろそろ中学の卒業式だね』

『だけど親は、先に死ぬからね』


 杏奈が隼人に付いていく場合、心理的な独立、居住環境の独立、経済的な独立が全て達成される。

 それは、桜井からの完全な自立であろう。

 こんなご時世であり、普通は娘の行く末を心配する。

 だが相手は、1時間で500体のゾンビを射殺して、各所から様々な物資を回収してくる奴だ。

 ゾンビがはびこる世界において、より良い相手は居るだろうか。

 隼人が想像し得る限り、ゾンビを排除したであろう種子島がより良い環境だが、おそらく島の人数は満員だ。

 したがって桜井目線では、現在は隼人が最良の相手となる。

 桜井は望みを叶えられて、杏奈も炊飯器、洗濯機、エアコンの恩恵に蒙れる。

 流石に隼人も、それで良いのかとは思うが。


 ――だが、俺の左腕がっ。


 抗いがたい感触が、隼人の左腕を拘束して離さない。

 男には、結束バンドなど必要ない。何故なら、より強力で不可避な拘束がある。

 左手に15歳の美少女の膨らみ、抗えるだろうか?

 世の中には、抗える人も居るのだろう。

 だが、隼人は抗えない。

 完全に罠に掛かったヒグマを見て、結依と菜月が視線を交わし合った。


「ああ、馬鹿が、泥棒猫に騙されてる」

「昨日、触らせてあげなかったからだと思います」


 呆れる結依に対して、菜月は展望風呂での一件を指摘した。

 名探偵の鋭い指摘に、隼人は戦慄した。


「それか」


 驚きの声を上げた隼人に対して、結依がジト目を向ける。

 そして、わざとらしく溜息を吐いた後、杏奈に告げた。


「駄目、駄目。714号室の洗濯機と炊飯器は、杏奈にも使わせてあげるから」

「でもそれって、結依さん達が居る間だけですよね」

「そうだけど……」


 隼人達は広い土地に移動して、農作物も育てて、より生活を向上させる予定だ。

 すると杏奈の両手に力が入り、隼人に押し付けられる感触が、より強くなった。


 ――いいぞ、もっとやれ。


 隼人達の集団から、裏切り者が発生した。

 だが国王が裏切った場合、それは裏切りと言えるのだろうか。

 呆れた宰相は、国王を無視して独自に動き出した。


「はい、面接です。杏奈さんは、何ができますか?」


 結依による迎撃行動が始まった。

 ちなみに結依は、家事全般をやっている。

 洗濯機が使えない中、洗濯は手洗いだった。

 炊事はパンなどを収納から出すが、それをサンドイッチにしたりするし、ゴミをまとめて隼人が捨て易いようにしていた。

 隼人はゾンビを殴る、結依は家事をする。役割分担は、成立している。


 菜月のほうは、家事も出来るが、農業全般の知識も持っている。

 カントリーエレベーターを提案して、隼人に大量の米をもたらした。

 米は取り放題で、一生分を食べられるようになったほか、ホテルの宿泊代金や、様々な取引にも使える。

 既に菜月は、一生分の貢献をしているかもしれない。


「えっと……」


 杏奈は、一同を見渡した。

 結依は勝ち気な表情をしており、もう枠は無いと暗に告げる。

 やがて隼人を見詰めた杏奈は、これで良いかと尋ねるように口にした。


「若さ?」


 左腕には、瑞々しく若い果実の感触がある。


 流石に隼人も、そんなに安直には引っ掛からない。

 だが若い果実は、果実自体が瑞々しいだけではなく、果樹自体も全体のバランスが整って美しく生えており、写真に収めれば美しく映えそうだ。

 そして「美味しいよ?」と、隼人に訴えかけてくる。

 本当に美味しいのかという疑惑については、左腕の感触が「ヤバイスゴイ」と、語彙力を喪失しながら、頻りに脳へと訴えかけてくる。

 特段に大きいわけではないが、15年物の特秀品だ。


 ――安直には駄目だが、熟慮して引っ掛かるのは、良いのではないだろうか。


 そんな風に、自分に言い訳をする隼人であった。

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― 新着の感想 ―
ホテル内にも充電池売れるかな
結依さんは宰相閣下でいらっしゃったか… まぁ、国王が甘々だから引き締め係も必要よね。
親父さんが娘を嫁に出す決意をしてしまった この無秩序ヒャッハー世界でここまで実力者で誠実な相手はそう出会えない、むしろ自分もその恩恵に与りたい、家臣になりたいですハイ
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