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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻

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49話 中貫市ホームセンター

 未だ日差しが傾きを残す、午前の終わり頃。

 倒したゾンビから矢を回収した隼人は、周囲に広がる惨状に眉をひそめた。

 周囲には、数百体のゾンビが転がっている。


「600本ほど使ったから、倒したのは500体くらいか」


 死骸など戦場で見慣れており、今更気にはしない。

 問題は、後片付けだ。

 死体が残っていれば、ハエなどが湧く。

 ホテルの従業員と宿泊客は、これから片付けをすることになるだろう。


 ――ここに残っていたら、ゾンビの後片付けに駆り出されかねないな。


 異世界では、ネズミや虫などの発生を防ぐべく、空間収納の空き部分を使って、沢山の死骸を運ばされたこともあった。

 だが、好き好んで片付けに参加したわけではない。

 まして空間収納は隠しているのだから、手作業で手伝わされかねない。

 そのような作業に従事させられるのは、まっぴら御免だ。


「このまま、ホームセンターにでも行くかなぁ」


 現時点では、誰からも片付けの手伝いを求められていない。

 今ならどこかへ行っても、文句を言われる筋合いは無いわけだ。

 そしてショッピングモールやホームセンターからは、ゾンビが連れ出された。

 ショッピングモールは多階層で、ゾンビが残っているだろう。だがホームセンターは1階建てが多くて、殆どのゾンビが連れ出されたはずだ。

 物資を探しに行くには、今が絶好のタイミングに思われた。


「よし、行こう。ゾンビを倒した分で、最大の貢献をしたはずだし」


 決断した隼人は、死骸の山から背を向けて、駐車場の先へと歩み出した。

 そしてホテルの死角に入ると、自転車を出して跨がり、移動を開始した。

 3月の陽射しは程よく温かいが、北風の名残を感じさせる冷気が顔を撫でる。

 隼人は風の感触に心地よさを覚えつつ、前へと進んでいく。


「とりあえず、ポータブル電源とかが欲しいなぁ」


 既に隼人の心は、完全にホームセンターへと向いていた。

 発電機は持っているが、音が煩い上にガソリンを使うので、室内に向かない。

 だがポータブル電源であれば、充電された物を使うだけだ。15デシベルほどの殆ど音が出ない製品もある。

 それが部屋にあれば、冷蔵庫やエアコンが使えるし、米も炊ける。


 ――あれだけゾンビが居たら、誰も回収は出来なかっただろうし。


 隼人は欲しい物を思い浮かべながら、自転車を走らせた。

 ホームセンターまでの道には、多少のゾンビが残っていた。足が遅くて、集団に引き離されて迷った連中などであろう。

 それらは倒さず、大きく迂回しながら避けていく。


 ゾンビを倒せば時間を食うし、ホテルから後続が付いてくるかもしれない。

 隼人が片付ける間に追い付かれて、後続に良い物を取られるのは、癪だ。

 後続にポータブル電源などを取られると、目も当てられない。

 そのため道端のゾンビは片付けずに進んだ。


 やがて、大きなショッピングモールが見えてくる。

 目立つピンクの看板、白い建物、全国展開されている有名店だ。

 その脇には寄り添うように、平屋建ての広大なホームセンターが建っていた。

 隼人はホームセンターの駐車場に進むと、自転車から降りて収納した。


「よし、ゾンビ500体を倒した報酬をもらおうか」


 ゾンビが多かった分だけ期待を寄せつつ、隼人はホームセンターに踏み込んだ。


 店内は、ほぼ無傷の状態で残されていた。

 略奪が起きる前にゾンビが入り込んだのだから、当然かもしれない。

 入口の脇には、ハシゴや台車などが置かれていた。


「一応2個ずつ、もらっておこうかな」


 ハシゴは、何かに使えるかもしれない程度の感覚だ。

 台車のほうは、駐車場からホテルに米を運び込む際に、往復回数が減る。

 両方収納した後、オイルランプを掲げながら店内に入ったところ、最初に乾電池の陳列棚が目に留まった。


「おおっ!」


 棚には、リチウム電池、充電式の単三と単四電池、充電器が陳列されていた。

 単三のサイズ変換スペーサーも、単一用が8個、単二用が10個置かれている。

 リチウム電池は需要の問題だろうが、充電式の電池は値段が跳ね上がっており、それが残っていた理由ではないかと隼人は想像した。


 ――日本が秩序を保っていた頃、ゾンビに襲われたのだったか。


 略奪が始まる前にゾンビに襲われたことも、残っていた理由かもしれない。

 すべて回収して進むと、LEDの懐中電灯やランタンのコーナーがあった。

 商品の隙間は広く空いているが、1本9万円などの懐中電灯は残っている。

 値段を見た隼人は、溜息を吐いた。


「1本9万とか、高すぎる。道理で、残っているはずだ」


 懐中電灯が残っていたことは、僥倖だ。

 隼人はオイルランプを床に置き、一番高い超強力LEDライトと書かれた製品の箱を開封して、出荷時に少しだけ充電されていた専用充電池を取り付けた。

 明るさは、50、350、1000、3000、6000、12000ルーメンの切替式だった。

 1000ルーメンに設定して点灯すると、眩い光が店内に迸った。


「うぎゃああっ、目がぁぁぁ!」


 クマの視力は低いとされるが、それは全くの誤解だ。

 殆どのクマ種は、昼間には人間と同等の視力(1.0ほど)を持ち、50メートル先の対象物をハッキリと識別できる。

 クマの視力が低いという誤解は、聴力と嗅覚が優れており、視覚への依存度が低いために生まれたものだ。

 クマの聴力は、人間の2000倍である。

 嗅覚は、犬で最も優れたブラッドハウンドの7倍、人間の2100倍もある。


 さらにクマは、夜間には人間の視力を圧倒的に上回る。

 目の奥の網膜に、光沢のある物質の層・タペタムルーシダムを持っているので、人間の50倍もの光を集めることができるのだ。

 明かりが必要なのは、月明かりが届かない建物内部を探索する時などだ。

 すなわち現在の隼人は、人間の50倍のダメージを受けた。


「おあああああっ、俺の身体能力、落ちろーっ!」


 隼人は強く意識して、自身の身体能力を人並みに落としていった。

 そして肩でゼイゼイと息をしながら、50ルーメンまで光を落とした。


 落ち着きを取り戻した後、隼人は懐中電灯を収納していった。

 それから組み立て式の家具類や、ゴミ箱などが置かれているコーナーを抜けて、カーテンや文房具類の棚を無視して進んでいく。

 途中で工具セットが目に留まり、高い物を3セット頂戴した。

 工具類の隣には様々な種類の釘が大量にあり、奥には手袋類が並んでいる。


 耐切創性のコーティングメカニック作業手袋。

 ステンレス鋼ヒンジ付き安全作業手袋。

 冬季断熱レザー作業用手袋。

 スタンダードな軍手。

 1組で数千円の高価な品から、1組数十円の安物まで、各種揃っていた。


「腐らないし、貰っておこうか」


 ホームセンターにあれば回収されるが、移動させれば取られない。

 弓を民家に隠したように、一時的に回収して、どこかに移せば良いわけだ。

 隣には補助錠や屋外延長コードなどがあって、それも将来の拠点用に使えるかもしれないと考えて回収した。


 棚の間を歩いて行くと、工業用・園芸用と書かれた結束バンドが目に入った。

 工業用ケーブルや、園芸支柱を結ぶバンドのようだった。

 それを見ていた隼人は、不意に昨夜のことを思い出した。展望風呂に入った時、結依が髪を縛っていたゴムを解いて、隼人の手を縛ったのだ。


 ――これで後ろ手に、結依の手を縛ったら。


 すると隼人の手は、自由である。

 それどころか結依の手は、縛られている。

 その光景を想像した隼人は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


 江戸幕府、激怒案件である。

 だが結依は自称18歳で、大人だ。

 合意があれば、セーフである。


「まあ、合意を取るのが無理なんだが」


 そんなものを使えば、一時的に吉原遊廓ごっこができても、隼人が寝ている間に手を縛られて、廊下に放り出される。

 結依は負けず嫌いで、絶対にやり返すタイプだ。

 縛ったら縛り返す、ハンムラビ法典を心得ている。

 廊下に転がされている時に、ほかの宿泊客に見られると、ばつが悪い。


『あの、何をしているんですか?』

『同居人が、ちょっと過激なタイプでして……』


 あまりにも居たたまれない。

 それでも、やはり捨てがたいと思った隼人は、完璧な言い訳を思い付いた。


「新秩序連合のような危ない連中が居るので、これはもらっておこう!」


 隼人は真面目な顔を浮かべながら、粛々と各種の結束バンドの束を収納した。

 いつか好感度が200くらいに上がったら、一緒に遊んでくれるかもしれない。ちなみに何時になるのかは、まったく分からない。


 そんな事を考えながら収納したところで、隼人は不意に我に返った。

 自分は、ここへ何をしに来たのであろうかと。

 確か、ポータブル電源があると便利だと思っていたはずだ。

 元々の目的を思い出した隼人は、なぜか棚が広く空いたスペースから移動して、ポータブル電源探しへと舞い戻った。

 ゾンビが居ない店内を、グルグルと探し回っていく。

 そして雑貨コーナーで、ようやく目的のものを見つけた。


「おおっ、あるじゃないか」


 棚には2042Whのポータブル電源1台と、200Wのソーラーパネル2枚がセットで陳列されていた。

 値段は、セットで198万円となっている。

 ポータブル電源の相場を知らない隼人でも、明らかに高いと思える。

 それでも棚には1台が残るのみで、飛ぶように売れたのだと推察された。


 商品の箱を掲げた隼人は、箱に書かれている説明を読もうと覗き込んだ。

 気になるのは、どれくらいで充電できるかだ。

 懐中電灯で箱を照らすと、不意に、右肩を掴んで振り向かされる。


「おい、それを寄越せ!」


 後ろを向いた瞬間、拳で顔面を殴られた。

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― 新着の感想 ―
ヒグマ並みの能力だったはずがヒグマ化している
> 後ろを向いた瞬間、拳で顔面を殴られた。 大丈夫か! クマなんて殴ったら拳壊れちゃうぞ
コメント欄落ち着け、主人公はロ○コンだからしょうがない、はい解決
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