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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻

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42話 缶詰争奪戦

 714号室の机は、四方のうち一方が壁であり、向かい合う形で椅子二脚があり、壁の反対側にはベッドがある。

 現在は菜月と杏奈がイスに座り、結依がベッドに腰掛け、隼人が立っていた。


「それじゃあ、分配のルールを説明する」


 半分くらい聞いていないだろうなぁと思いつつ、隼人は三人に呼び掛ける。


「俺と桜井さんは協力関係にあって、分配は6対4だ。それは、俺、結依、菜月で3人、桜井さんと杏奈で2人、つまり3対2だからだ」


 三人が話を聞いていないのは、机の上に山積みの缶詰に釘付けだからだ。

 机の上には、パッケージの多様な缶詰が山積みとなっていた。

 魚は、イワシ、サンマ、サバ、サケ、マグロ、カツオ、カニ、ホタテと豊富で、調理方法は蒲焼き、油漬け、蒲焼き、煮付け、水煮、照焼き、フレークと様々だ。

 果物は、みかん、りんご、洋梨、マンゴー、白桃、黄桃、パイン、フルーツカクテルが、色鮮やかに輝いている。

 総数は、90缶。

 それらが、リュックサックに詰め込まれていた。


「今回は、桜井さんに紹介された場所で拾ってきたわけではないが、協力関係は、俺がホテルに不在の時に結依と菜月の安全を高める保険でもある。だからこれは、お裾分けで分配する。俺の収集物だから、異論は無しだ」


 6対4と聞いた3人が缶詰に目を走らせた。

 どう分けようかと色めき立つことは、隼人の想定内だ。

 隼人は混乱しないように、事前に分配方法を考えていた。


「90缶を5人で分けると、1人18缶になる。俺と桜井さんの分配は後回しで、先に3人でジャンケンして、欲しいものを順に1個ずつ18回選んでくれ。以上」


 隼人が言い切ると、杏奈が口を開いた。


「いつもこんなに稼げるんですか?」


 杏奈が見渡した室内には、隼人が車と部屋を往復して持ち込んだことにした共有物品が置かれている。

 チーズ、乾燥肉、乾燥果物を詰めた30キログラムほどの木箱が1つ。ちなみに1箱で、3人の1ヵ月分の食料になる。

 薬局の医薬品、栄養補給品、プロテイン各種。

 栄養補給品には、栄養ドリンク、シリアルカロリーバー、ゼリー、粉末ドリンクなどもあって、隼人が1ヵ月戻らなくても餓えないようになっている。

 そして持ち込んだ振りをした、中身が不明な数々の旅行鞄類。それらは、後で何かを出したくなった時の言い訳用だ。

 なお一部は、結依が杏奈と交換したらしく、蕎麦粉とつなぎ粉に変わっていた。


「力だけは有るからね」


 結依は、スキル『謙遜する日本人』を発動させて、微妙に隼人を扱き下ろした。

 それでいて杏奈に対してマウントを取るという、完璧な女子スタイルだ。

 そこは「うちの旦那様は素敵なんです」と言ったらどうだと思わなくもないが、ツンデレは素直に言わないし、言ったら言ったで杏奈へのマウントになる。


 ――うちの旦那様は素敵なんですと言え、と言ったら、どうなるだろう。


 結依は「はいはい」と、冗談風に受け流しながら、言ってくれるかもしれない。

 追及すると、「ちゃんと感謝してるけど、他人の前だし、力のことも言えないし、ああいう形になったの。気になっちゃった?」と、言いくるめてきそうだ。

 隼人には、自分が言いくるめられそうな自覚がある。

 根拠は、物資の扱いに関する論戦で、勝てたためしが無いことだ。


 そして菜月は、スキル『奥ゆかしい日本人』を発動させて、だんまりだ。

 隼人のほうをそっと向き、ニッコリと微笑んで、何も言わない。

 隼人は鷹揚に頷き返して、デキる男を演じてみせたが、実はキャッキャと言われたいお年頃だ。

 人生とは、ままならぬものである。


 そのようなことを隼人が思っているなど、つゆ知らず。

 3人は缶詰について、語り始めた。


「消費期限、切れていないね。ゾンビが発生した後、工場が商品を一気に出して、品物があるって言ったときのかな」

「そうかもしれません。それに缶詰は、虐待試験と言って、高温多湿などの過酷な環境に保管して、意図的に劣化を早めて耐えられる期間を定めています。家に保管していたら、半年くらい過ぎていても大丈夫ですよ」


 農高生だった菜月が、食品に関する知識を披露した。


「そうなんだ?」

「半年は間違いないです。わたしは食べても良いですよ」

「へぇぇ」


 結依の確認に菜月が太鼓判を押すと、杏奈が感心の声を上げた。

 缶詰の期限を確認した3人は、種類について言及を始める。


「果物って、貴重だよね」

「そうですね。果樹園に行けば沢山採れますけど、行くのが大変ですし」

「もう2年くらい食べていないです」


 どうやら3人は、フルーツ缶に狙いを定めているらしい。

 魚について一切話題にしないのがその理由で、魚も貴重ですと言おうものなら、それなら魚をどうぞと勧められてしまう。

 今は高度な前哨戦を駆使して、互いの欲しいものを探り合っているのだ。


 ――はよ、選べ。


 もう勝手にベッドで寝てしまおうかと、隼人は思い始めた。

 そしてソロソロとベッドに這い寄ると、横になる。

 ホテルのベッドに身体を預けると、日中の疲労が身体に広がるような気がした。

 町を探索してゾンビに追い回され、家に侵入してゾンビに追い回され、車のバッテリー交換をしていたら盗賊団に見つかりそうになり、なかなかの冒険だった。

 隼人は手を枕の下に差し入れ、天井をぼんやりと見上げる。


「結依、俺の分も決めておいてくれ。但し、桜井さんとは公平になるように頼む。近所付き合いは、大切だからな」


 ベッドから声を掛けた隼人は、争奪戦からの撤退を告げた。


「隼人がどれを好きか、分からないんだけど」


 結依が振り向いて、不満げに答えた。

 魚も果物も無い環境で暮らしていたのだから、好みが分からないのは当然だ。

 隼人は「夕飯は何が良い?」と聞かれたときに「何でも良い」と答えるノリで、大雑把に答えた。


「俺はどれでも食べられる。公平を期すべきは、量だ」


 隼人は簡潔に、要点を伝えた。

 重要なのは、隼人が公平を期そうとして、結依も配慮したことを、杏奈に理解させることだ。

 杏奈が有りの侭に報告して、桜井が納得すれば、公平な分配が達成される。


「分かった。杏奈も、それで良い?」


 結依が頭を軽く振り、視線を杏奈に向けた。

 杏奈は一瞬考える素振りを見せるが、すぐに頷いた。


「分かりました。隼人さんとパパとは、量を同じにしましょう」


 隼人と桜井の分配は定まった。

 残るは、女子3人の分配である。

 机を囲む三者の表情が引き締まり、静かな緊張感がホテルの部屋を包む。

 かくして、第1回・缶詰争奪戦が勃発した。


「いくよ?」


 結依の呼び掛けに、菜月と杏奈が頷いた。


「最初はグー、じゃんけんぽん!」


 三人が、ほぼ同時に動いた。

 どこからその速度が出たのかと、目を疑うような速さで、手が突き出される。


「あたしの勝ち!」


 結依が誇らしげに拳を握ると、菜月と杏奈はチョキを出した自身の手を眺めて、悲しみの瞳を浮かべた。


「じゃあ、これね」


 結依は迷わずに手を伸ばし、1つしかない缶詰を掴み取った。

 それは、5つの果実を楽しめるフルーツカクテル缶。

 中には、梨、黄桃、パインアップル、ぶどう、さくらんぼの5種類が入っており、1缶でありながら、5つの味を同時に楽しめる贅沢極まりない缶詰となっている。

 内容量は、脅威の425グラム。

 ほかの缶詰と比べて、量もまったく劣っていない。

 これこそ、まさに文明の暴力というべき品である。


 ガックリとした菜月と杏奈は、二人でじゃんけんをした。


「じゃんけんぽん」


 杏奈が勝ち、みかん缶を手に取る。

 最後に負けた菜月が黄桃を手にして、第1戦目は決着した。

 各々、各自の足元や脇にある袋に、獲得した戦利品を収める。

 続けざまに、第2戦目が始まった。


「最初はグー、じゃんけんぽん!」


 結依がチョキ、菜月と杏奈がパーであった。


「2勝目!」


 ポカーンと、三者が呆気に取られた。

 そして菜月が、恐る恐る口にする。


「結依さんって、運が良いんですね」

「そうかな。うーん、まあ、良いかも?」


 隼人に視線を向けた結依は、自身の運の良さについて肯定した。

 ゾンビに噛まれたのは不運だが、隼人を引き当てたのは、宝くじを1枚買って、一等を出した以上の強運かもしれない。

 もっとも政府が南の島辺りを安全圏にしているのであれば、そこに元から住んでいた島民のほうが、強運のような気もする。

 そちらでは水、食料、安全が保証されている。


 ――どこの島が、逃げ先として良いかなぁ。


 伊豆大島や八丈島は、電気が無い時代でも1万人くらいが暮らせていた。

 文明を江戸時代くらいに戻せば、それくらいの人間は生活していける。

 さらに日本には、約94平方キロメートルの伊豆大島や、約69平方キロメートルの八丈島よりも大きな島が幾つもある。


 新潟県の佐渡島は、約855平方キロメートル、人口5万人強。

 鹿児島県の奄美大島は、約717平方キロメートル、人口6万人弱。

 長崎県の対馬は、約699平方キロメートル、人口3万人弱。

 鹿児島県の種子島は、約444平方キロメートル、人口3万人弱。


 八丈島で1万人が暮らせるならば、10倍の面積があれば、10倍の10万人が暮らせるだろう。

 新潟県は、冬の降雪で厳しい環境かもしれない。

 だが残る3島であれば、あまり雪は降りそうにない。

 政府と自衛隊の大集団が来て、ゾンビを倒して島の安全を確保してくれれば、江戸時代くらいの文明を保ちながら生活できるだろう。

 なお種子島の食糧自給率は高く、100パーセントを大きく超えている。

 さらに鹿児島県にも近く、日本列島の奪還を目指す場合は地の利も悪くない。


 ――政府の行き先は、種子島だな。


 寝転がっていた隼人は、なんとなく日本政府の避難先に思い至った。

 もっとも、単なる可能性の話であるが。


「白桃ゲット!」


 隼人が室内に意識を戻すと、結依が何回目かの勝利を手にして、僅かに残った果物の缶詰を手に入れていた。

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― 新着の感想 ―
あけましておめでとうございます 大陸から見たら、日本という島国なら自給自足で篭れるとか思われてるんですかねぇ 日本内では更に孤島へと逃げていく有様ですが
缶詰の賞味期限について 法律で定められているもので穴が開かない限りは食べられます。加熱滅菌処理して密封したものなのだからです。 ただし果物などはあまり古くなると味が落ちるかもしれません。 反対に魚など…
確かに私が政府首脳でも種子島はかなりセーフティーゾーンとして良いと思います。 宇宙センターもあり、自衛隊の航空機が着陸できる空港もあり、食料自給率も高い。 北海道も面積に対する人口が少ないし、自衛官が…
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