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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻

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38話 文明崩壊後の米入手方法

 桜井の娘・杏奈と挨拶した後、隼人達は714号室に入った。


「ツインルームですね」


 菜月が判断したとおり、部屋はツインルームだった。

 部屋に入って直ぐ隣には、ユニットバス、シャワー、トイレなどがある。

 真っ直ぐ進むとセミダブルベッド2台があって、その向かい側にテーブル1台、椅子2脚が置かれている。

 部屋の備品には、動かないエアコン、テレビ、空気清浄機などがある。

 部屋の奥には窓があり、わりと田舎な中貫市の長閑な風景が見えた。


「ゾンビが出る前は、1人1泊数千円レベルかな」

「もうちょっと言い方があるんじゃない」


 隼人の直接的すぎる表現に対して、結依の駄目出しが入った。

 そこで隼人は日本人らしく穏和な表現に変えて、一つ褒めてみる。


「田舎の天然温泉ホテルという感じだな。料理は美味しかったかもしれない」

「別に良いけどね」


 どうやら及第点になったらしい。

 そんな部屋には、三台目のベッドを出せるような余剰スペースは無かった。

 ドアを閉じた後、空間収納から荷物を出しつつ、隼人は二人に注意喚起した。


「何かの理由で部屋を見られた時、追加のベッドがあったら、言い訳が出来ない。だから追加のベッドは出せない」

「そうね」「そうですね」


 異口同音に賛意が出た。

 ホテルの出入りは、厳重に監視されている。


「この後、車と部屋を何往復かして、大量の荷物を持ち込んだ風は装う。だけど、どうやってもベッドを持ち込める余地は無い」


 従業員が部屋の掃除には来ないだろうが、桜井親子が訪ねてくる可能性はある。

 そのためベッドを見られると、説明が付かない。


「そういうわけでベッドの使い方は、昨日の警察署と同じで良いか?」


 警察署の最奥では、2つのベッドを横に繋げて3人で寝た。

 先程まで白骨死体が寝ていた床には、とても寝られなかったが故である。

 その際は、結依のシングルベッドと隼人のセミダブルベッドを使った。ホテルはセミダブルベッド2台なので、警察署で寝たときよりは広い。

 追加のベッドを出せない以上、それが妥当な判断となる。

 だが結依は、頰を赤らめながら、ぐぬぬと抵抗の表情を示した。

 結依が駄目なら、菜月から攻略するしかない。

 そう考えた隼人は、攻略対象の変更を試みた。


「菜月、今日から一緒のベッドで寝るからな」


 協調性が高い菜月であれば、現状では仕方がないと言えば、応じるだろう。

 そうすると結依がツンとするので、結依にも声を掛けて3人で寝るぞと言えば、三人で2つのベッドを使える。

 そんな風に、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応した隼人だったが、想定外なことに菜月も口を閉ざして、頰を赤めながら恥ずかしがった。


 ――何故だ。


 そこは素直に「はい」と言うべき場面だろう。

 そんな風に隼人は、自分勝手なことを考えた。

 隼人の期待とは異なる菜月の反応は、隼人に対する協調性だけではなく、結依に対する協調性も発動させた結果かもしれない。

 名状しがたき空気がホテルの一室に漂った後、結依が誤魔化すように訴えた。


「3人分の料金を払ったのに2人部屋って、おかしいと思わない?」


 一緒に寝る件は、おそらく明言しないまま済し崩しになる。

 そう考えた隼人は、結依の話題転換に乗ることにした。


 宿泊料金は、1人につき1ヵ月2キログラムの生米である。

 3年前であれば、素泊まりの1泊分の料金にも全然満たない。

 だがゾンビが蔓延って以降、米の価値は青天井だ。

 せっかく米を使って正規の支払いをしたのだから、3人分の部屋を用意しろと、結依は不満を呈したわけである。


「男だけのグループを下の階に泊めるとか、色々と配慮しているみたいだからな。3人用の部屋を上手く割り当てるのは、難しかったんだろう」

「そうかもしれないけど」

「俺達も、部屋が分かれると荷物や食事を出せなくて、色々と都合が悪い」


 焼きたてのパンなどを思い浮かべたのか、結依は渋々と矛を収めた。

 ホテルの部屋については、総合的に納得できるラインだ。

 隼人が壊れた車の代わりを探す間、結依と菜月には安全地帯に居てもらわなければならない。

 取引で米を使ったのは、決して無駄な行為ではなかった。

 だが使用した米の補充については、考えたほうが良いかもしれない。


「米は、どこかで手に入れようと思う。民家を漁れば、多少あるかもしれない」


 ゾンビウイルスの流入があった3年前、突然ゾンビ化した人達が居た。

 その人達の家が、家捜しされていなければ、米が残っているはずだ。

 そんな風に隼人が口にすると、農業高校の2年生だった菜月が、あまり肯定的ではない表情を浮かべた。


「日本は高温多湿なので、保管状態によりますけれど、生米はカビが発生したり、品質が劣化したりしますよ」


 品質が悪いのは構わないが、カビが発生した物を食べると、健康を害する。

 隼人は治癒魔法を使えるが、それは何でも自動的に直せる万能なものではない。隼人自身がナノマシンと思わしきものに、働きかけなければならないのだ。

 カビが発生した物を食べたら、どのような理屈で健康を害して、どのような方法で治療すべきなのか。

 その部分が曖昧だと、治療が上手く行かない可能性もある。


「うーん、袋に入っているのとかは駄目なのか?」

「密封状態でないと、湿気や酸化を完全に防ぐのは難しいと思います」


 菜月の駄目出しを聞いた結依が、生米を売り払ってしまった隼人に半笑いの表情を浮かべて見せた。

 その様子を見た菜月が、隼人に助け船を出す。


「中貫市のカントリーエレベーターに行くのはどうでしょうか」

「カントリーエレベーター?」

「農家が収穫したモミを出荷して、農協が乾燥、貯蔵、調製してお米屋さんなどに売る中間施設のことです。全国に800ヵ所以上あります」

「ほほう」


 隼人が首を傾げながら続きを促すと、菜月は説明を再開した。

 カントリーエレベーターとは、大規模乾燥調製施設のことだ。

 施設内には、乾燥機や選別装置があり、農家が収穫したモミを粗選機に入れて、保管に適した水分量に乾燥させてから、サイロという貯留ビンに保管する。

 保管後は、籾摺り機で玄米とモミガラに分けて、粒選別機で粒の大きさを揃え、石抜き機と色彩選別機で玄米に混じった石、ガラス、金属を取り除いて、品種別で玄米タンクに保管する。

 そしてタンクの玄米を袋に入れて、精米工場や全国に出荷している。


「出荷時期を調整するために、モミの状態で長期保管する施設でもあります」

「そんなところがあるのか」


 自分にとって未知の世界を説明された隼人は、しきりに感心して頷いた。


「カントリーエレベーターは、全自動式です。電気の供給がなくなったら、サイロに入っているモミや、玄米タンクに入っている玄米は、取り出せません」

「つまり、まだサイロには米が残っているわけか」

「精米すると美味しく食べられるのは1ヵ月ほどですが、モミなら5年から10年くらい保ちます。サイロには出荷待ちのモミがあって、いきなり電気が止まったので、沢山残っていると思います」

「常に入れているなら、あるだろうな」


 菜月は断言こそしなかったが、可能性は極めて高いと説明した。

 隼人も、自衛隊などが回収したので無い限り、残っていると考えた。


「ちなみにサイロって、どれくらいの大きさだ?」

「タンクの高さは、30メートルから50メートルくらいですね。施設によりますけれど、霧丘市だと1基で300トンくらいのモミが入りました」

「……それって、どれくらいの量だ」

「モミは生米にすると7割なので、生米で210トンです。日本人は1人で年50キロを消費しますから、4200人分のお米になります。ちなみに霧丘市は、1つの施設に6基のサイロがありました」


 それでは誰も持ち出せないと、隼人は大いに納得した。

 全自動式の機械の中にあるタンクから、どうやって大量のモミを持ち出すのか。サイロから出せたとしても、施設内にある大型機械の傍で、車を横付けできない。


 ――自衛隊だったら、爆破と人海戦術で回収できるかな。


 数ヵ所くらいは、破壊されているかもしれない。

 駐屯地の近くだと、回収されていそうな気もする。

 だが、国民の投票で当選する政治家が自分の名で略奪を指示するとは思えず、自衛隊も指揮系統がしっかりしているので、全てが壊されているとも思えなかった。


「電気が止まったので、サイロは温度と通気の管理が出来なくなったと思います。でもサイロの下部は、上からの圧力で圧密されますから、空気の動きが少なくて、温度が安定して、乾燥状態を維持できます」

「つまり一番上でなければ、良い状態のモミが残っているわけか」

「そういうことです」


 菜月の情報は貴重で、流石は農高生だと隼人は感心させられた。


「ホームセンターで、発電機、籾摺り機、精米機は手に入れている」

「それならモミが手に入れば、生米に精米できますよ」


 問題は、どうやったら取り出せるかだ。

 結依の顔色を窺ったところ、「あまり期待しないけど、とりあえず行ってみたら?」と、失敗した時のショックを和らげる微妙な表情を浮かべていた。


 ――顔色だけで感情を読み取るよう、しつけられている気がする。


 なんだか釈然としなかった隼人は、渋い表情を返した。


「念のためですけど、モミは貯蔵中にも呼吸して酸素を消費します。貯留ビン内は空気が薄くて、人間が入ると酸素欠乏の危険があります」

「ロープで身体を繋いで、中に突っ込むとかは、危険なわけだな」


 とりあえず行ってみるという方針は出来た。

 中貫市が駄目でも、全国のカントリーエレベーターを探し回れば、どこにも無いという可能性は低いだろう。


「そのタンクにお米が残っているとして、どうやって取り出すの?」


 結依が指摘したとおり、それが難点となる。

 隼人はガソリン発電機を持っているが、その程度の電力で動くような規模の施設には思えない。

 サイロの上部から、モミの中へダイブする手段は、あまり良くなさそうだ。


「なんとかなるだろう」


 高度の柔軟性とは、行き当たりばったりのことだ。

 かくして隼人は、中貫市で車のほかに米も探してみることにした。

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