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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第1巻

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20話 大収穫

 霧丘農業高校と取引を行うべく、隼人は物資を探すことにした。

 隼人が欲しいのは、農作物の種だ。

 霧丘農業高校は、多様な農作物を育てており、所有する種の種類は豊富だ。


 稲=うるち米、もち米。

 野菜=トマト、キュウリ、ナス、ピーマン、キャベツ、レタス、ほうれん草、ジャガイモ、大根。

 果物=イチゴ、メロン、オレンジ、リンゴ、ブドウ、パイナップル、パパイヤ。

 その他=しいたけ、緑化木苗。


 それらのうちパイナップルやパパイヤは、温室などが無ければ育たない。

 普通科の隼人では、育てるのに適した土地でも必ず育てられるとは限らないが、流石に全てに失敗するとも思えない。

 空間収納に入れておけば状態を保持できるので、育てられる環境が整ってから、順番に出していっても良い。

 どれかが育てば食生活が豊かになるので、ここで交換しない手は無かった。


 ――苗木のほうが早そうだけど。


 リンゴで有名な地域に寄って、苗木を手に入れてから目的地に向かう手もある。

 これから暑くなるので、一先ず青森県に移動して、夏が過ぎたら南に移動する行動も取れなくはない。

 そんな取らぬ狸の皮算用をしながら、隼人はホースとポンプを手に入れたホームセンターを目指した。


 ホームセンターはシャッターが壊されており、入れることを確認している。

 そして、未だ沢山の物資が残っていた。

 出入口付近にあった食料や電池などは、もちろん残っていない。

 ほかにも色々なものが持ち出されているだろうが、ホースやポンプはあった。

 そのため、何か交換に使える物があるのではないかと期待した次第だ。


「小林先生とかを連れて行ければ、何が役立つか分かって、早いんだけどなぁ」


 自分では、現在の農業高校が何を必要としているのかが分からない。

 そのことに悩みつつも、隼人は明かりを灯したランプを掲げて、ホームセンターに踏み入った。


 ホームセンター内は、以前と変わらず薄暗い。

 倒れた棚や、散乱した商品が、そのままになっている。

 転移前に何度か来た場所だが、店内を充分に把握しているわけではない。

 出入口付近にはめぼしい物が無いことを確認済みなので、あとは内部を歩いてみるしかないだろう。


「まずは、工具コーナーの隣あたりかな」


 ランプを掲げた隼人は、脳内で店舗の構造を思い返しながら歩いた。

 以前にホースやポンプを見つけた場所は、工具コーナーだった。

 その隣にあるエリアには、変わった道具類が並んでいたように記憶している。

 落ちた商品を踏まないように注意しながら足を進めると、棚にはいくつかの商品が残っていた。


「これは使えるか?」


 目に留まったのは、除草シートだった。

 除草シートとは、雑草が生えるのを防ぐために地面に敷くシートのことだ。

 光を遮断して、雑草の成長を阻む効果がある。

 草むしりをすれば雑草を取り除けるが、防草シートであれば、生えてくる前から防ぐことが出来る。


 ――問題は、重そうなことか。


 霧丘農業高校ならば活用できそうだが、空間収納を使わなければ、畑に敷くほどの量を運んでいけない。

 隼人が持っていけば、不自然極まりない。

 有用ではあるが、回収して運ぶのは躊躇われた。


「除草シートは、使えないな」


 自分用に持っていくのも微妙である。

 断念した隼人は、隣のコーナーを見た。

 隣には、稲や麦などの穀類を穂から分離する小型脱穀機、籾と玄米を分離する小型籾摺り機、一回通し型精米機などが置かれている。

 脱穀機は、1時間で100キログラムのモミを茎から外せる。

 籾摺り機は、1時間で100キログラムのモミを玄米にできる。

 一回通し型精米機は、1時間で30キログラムの玄米を生米にできる。

 だが電気が必要で、脱穀機が100V400W、籾摺り機が100V250W、一回通し型精米機が100V450Wと書かれている。

 専業農家用にしては小型で、兼業農家が自分用に使う機械のように思えた。


「稲の機械は、自分用にするか」


 霧丘農業高校のような本格的なところには、もっと良いものがあるはずだ。

 だが隼人は自分で農作物を育てる予定なので、自分用にあっても良いだろう。

 脱穀機と籾摺り機は1台しか無かったが、精米機は家庭用として使う家もあるからか、2台置かれていた。故障も考えて、両方もらっておくことにする。

 問題は電源を確保出来ないことだが、それは後日の課題であろう。

 そして隣を見て、隼人は目を疑った。

 その棚の一番下には、大きなインバータガソリン発電機が置かれていた。


「嘘だろ」


 そのインバータ発電機は、自動車用レギュラーガソリンで動くタイプだった。

 コンセント個数は、交流/15A×2個+30A×1個、直流/1個。

 定格出力(kVA)交流2.8。

 つまり2800Wなので、450Wの機械は動かせる。

 隼人が集めたのはハイオクガソリンだが、ハイオクでも問題なく動く。


 燃料タンクの容量は12.7リットル。

 エンジンオイルは、『10W30SP(API)CF』の20リットル缶が2つも残っている。

 何故あるのか目を疑いながら調べると、発電機の後ろに防犯用の太いチェーンが取り付けられており、棚としっかり繋がっていた。


「チェーンで棚に繋がっているのか。道理で、残っているはずだ」


 ホームセンター内にある工具を使っても、人力では破壊できそうにない。

 納得した隼人は、長いチェーンを棚の前に引っ張り出した。そして空間収納から槍を出して、高く振りかぶり、力一杯に振り下ろす。

 ガンッと鈍い衝撃音が響いて、チェーンが打ち砕かれた。

 はぁっと息を吐いて、隼人は槍を収める。


 ――発電機の有無は大きいな。


 1台だと軽々しくは使えないが、米を育てられるようになれば大いに役立つ。

 店の在庫への期待値を上げながら、隼人はさらに奥へと進んだ。

 すると棚の下に、何かが落ちているのが見えた。

 しゃがみ込んで手を伸ばすと、作業用手袋の箱があった。

 箱には、「ゴムコーティング、スマートタッチ、洗濯可能、12ペア」と書かれている。


「こういう消耗品は、いくらあっても困らないだろうな」


 農業高校であれば、作業に手袋を使うだろう。

 このような消耗品であれば、農作物の種と交換してもらえるように思えた。

 手袋を回収した隼人は、ランプを持つ手を少し上げて周囲を見回す。

 3年以上前の記憶では、通路の奥には雑貨が置かれていた記憶がある。

 隼人は、そちらに向かって歩みを進めた。


 隼人には、油断があったのかもしれない。

 注意を散漫にして歩いていると、いきなり何かが足を掴んだ。


「うあっ!?」


 思わず声を上げて足を引くと、足首を掴んだゾンビが引き摺り出されてきた。

 ゾンビは倒れた棚に挟まって、身動きが出来なくなっていたらしい。

 焦った隼人は、激しく足を振って、足首を掴んだゾンビの手を引き剥がした。


 強大な脚力による蹴り払いが、傍に有った商品に激突する。

 蹴られた商品棚が吹き飛び、奥のバックヤードの扉に激突した。

 足首を掴んでいたゾンビの身体も、倒れた棚からグイっと引き出されたものの、隼人は自分を掴んでいたゾンビの手を引き剥がせた。


「ウァァ」


 刹那、棚に挟まれていたゾンビが自由を取り戻し、掠れた呻き声を上げた。

 顔の半分が潰れたその姿は、薄暗い店内の中で一際不気味に映える。

 隼人が拾った手袋を収納する間に、目の前のゾンビが這うように隼人へと迫り、醜悪な手を伸ばしてきた。


 嫌な予感がした隼人は、後退しつつ周囲を見渡した。

 するとランプの明かりがかすかに届く範囲で、蹴り飛ばした商品棚がぶつかったバックヤードの奥から、さらに動き出す無数の影が見えた。


「商品が沢山残っていた理由が、よく分かった」


 ホームセンター内には、相当数のゾンビが居た。

 だから人々が商品を持ち出すのに苦労して、残っている物は断念されたらしい。

 バックヤードにゾンビが居たのは、前回の探索者が追われて、そちらへ逃げ込んだからだろう。

 追ったゾンビ達が棚でも倒して、せっかくバックヤードに閉じ込められたのに、隼人が蹴り飛ばして出してしまったわけだ。

 解放されたゾンビ達は、店内の騒ぎに引き寄せられて、続々と迫ってきた。


「お前ら、何体いるんだ」


 隼人は低く舌打ちをし、ランプを拾い上げて後退を始める。

 もはや探索どころではないと判断し、出入口を目指して駆け出した。

 ゾンビ達は薄暗がりの中、不規則な足取りで追いかけてくる。


「俺のほうが速いが、油断して転べば悲惨なことになるな」


 ランプの明かりを失い、暗闇の中で次々と覆い被さってくるゾンビ達。

 そんな光景を想像して、隼人は怖気が走った。

 勝てるか勝てないかの問題ではない。自分が、小型生物Gよりも強いとしても、身体に触れられたくないのと同じ理屈だ。


 ――嫌なものは、嫌だ。


 オッサンゾンビは、絶対に嫌だ。

 元美少女ゾンビでも、遠慮願いたい。

 足元に散乱する商品の山を避けながら、隼人は店の外へと走り続けた。

 やがて壊れたシャッターが見えてきて、そのまま店外に飛び出す。

 それでも振り返らずに、走り続けた。

 シャッターの内側からは、掠れた呻き声が漏れてくる。声は次第に大きくなり、やがて出入り口からは、ゾンビ達がワラワラと溢れ出してきた。


「ここは、もう良いな」


 捨て台詞を吐いた隼人は、自転車を出して、田舎道を走り出した。

 おそらく追ってきているが、全力で引き離す所存だ。

 こうして隼人が主催する第2回霧丘市民マラソンが、盛大に幕開けした。

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― 新着の感想 ―
ああそうか、金庫やコインロッカーなんかに貴重品が残っている可能性もあるのか。 とはいえゾンビワールドじゃ有価証券なんかはトイレットペーパー以下だしな…
そういえば異世界からの持ち込み物に鎧兜はありませんでしたね ゾンビの歯や爪を防ぐ鉄板を身につけようにも常人なら動けなくなるところ、ヒグマパワーならなんのそのかとも思ってしまいますが やっぱりそんなの着…
面白い。続きが楽しみ
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