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国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版  作者: カバタ山
八章 王二人

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堺との決着

 細川京兆(けいちょう)家による淡路(あわじ)国制圧は、多くの副産物を齎す。


 第一に挙げられるのは、何と言っても播磨(はりま)国の完全制圧だ。三木(みき)城を守り切った播磨島津(しまづ)家は、三好(みよし)宗家軍の撤退に乗じて播磨別所(べっしょ)家の城を根こそぎ攻略した。


 大軍を相手に戦い続けていた播磨島津家に何故そんな余力が残っていたのか不思議に思うが、種明かしをすれば何の事はない。備前宇喜多(びぜんうきた)家の力を借りて成し遂げただけである。


 さすがは宇喜多 直家(うきた なおいえ)と言うべきか。三好(みよし)が立て続けに負けた矢先のこの掌返し。これぞ真骨頂である。


 備前宇喜多家は今回の三木城の戦いに、援軍を出さない所か支援物資も提供していない。静観するだけの立場であった。


 このような態度を取ったのは、俺が島津単独で何とかしろと命じたのもあろう。しかしながら、当家からは支援物資の提供は行った。備中細川(びっちゅうほそかわ)家や備後足利(びんごあしかが)家も同様に支援物資の提供は行っている。播磨(はりま)戦線の重要さを考えれば、この措置は自然な流れであろう。ここで三好を追い払えば、陸路での摂津(せっつ)国への進軍が可能となる。皆が祈るような気持ちで島津の戦いを見守っていた筈だ。


 だからこそ播磨島津家が三好の軍勢を追い返すと、皆が喜び合うと同時に備前宇喜多(びぜんうきた)家への不満が沸き起こる。周辺国から孤立するのを恐れた宇喜多 直家は、ここで何とか巻き返しを行わなければならなかった。


 それが島津による播磨国完全制圧の手伝いである。


 城の攻略や地域の制圧自体はそう難しいものではなかったろう。何せ頼みの三好が撤退したのだ。残された者のみで抗う方に無理がある。抵抗は犬死と同じだ。だからこそ備前宇喜多家の軍勢を見た播磨別所家の者達は、こぞって和睦を願い出る。


 三好が守ってくれるからこそ傘下に入る。いなくなれば強い勢力に尻尾を振る。生き残りを命題とした国境の豪族は、悲しいかなこのような思考となっているものだ。


 それは宇喜多 直家も同じと言えよう。それが今回の行動であった。三好軍の退却に合わせて出した兵は、いつの間に準備していたのかと問い質すのは野暮である。


 紆余曲折あったものの、以後は備前宇喜多家が有力な味方となってくれる。例え本人にとって不本意な結果であろうと、そうしなければ生き残れはしない。


 裏切りは用法・用量を守って正しく使わなければ意味が無い。そう思わせる出来事であった。


 また播磨戦線の結末を見て、島津だけに活躍させてはならないと、他の家臣達が色めき立つのも自然な流れである。但馬(たじま)国の侵攻は順調に進んでいた。


 一度白紙にした但馬国侵攻を再度決行したのは、三好の敗戦に付け込んだからである。三好宗家にしてみれば、今ここで無理な動員をして但馬国に援軍に出せば、今度は畿内の守りが手薄となってしまう。そうなれば、淡路国からの畿内強襲に対して成す術が無い。


 つまり現状の三好宗家は、敗残兵の取り纏めと軍の立て直しが最優先の課題となる。これが分かっているからこそ、当初の予定より少ない兵力でも但馬山名(やまな)家に勝てると判断した。もう一つはこれまで入念に準備をしていた吉川 元春(きっかわ もとはる)尼子 敬久(あまご たかひさ)の努力を無に帰す真似はしたくなかったというのもある。


 そう但馬国への侵攻は、中国地方最強コンビの真価を見せる時がやって来たと言った方が良いだろう。本命は丹後(たんご)国での戦いとなる。それも安宅 冬康(あたぎ ふゆやす)長宗我部 元親ちょうそかべもとちかの二人を相手取ったものだ。この戦いに勝利するためにも、二人の実力を測らせてもらおうというのが対但馬山名家戦の主旨となる。だからこそ何としても勝って欲しい。


 ……どうやら俺は、思った以上に吉川 元春に期待をかけているようだ。和製パンジャンドラムに乗って特攻したのは、単なる気の迷いだと思いたい。


 もう一つの侵攻は、遠く九州の地で起こっていた。今回休みを与えた薩摩斯波(さつましば)家と肥前渋川(ひぜんしぶかわ)家が、取りこぼしていた平戸(ひらど)五島列島(ごとうれっとう)を制圧し、九州の完全統一を成し遂げたと報告を受ける。


 何のために休みを与えたのか。それは当然、次の畿内での戦いに向けて英気を養ってもらうためである。だというのに、どうしてこの二家は血の気が多いのか。平戸と五島列島なら国力が低く動員可能な兵も少ない。脅せば降伏する。兵を動員してまで戦う必要はなかったであろう。


 とは言え、制圧してしまったものを今更元の形に戻せと言うつもりはない。今回増えた領地は、責任を持って肥前渋川(ひぜんしぶかわ)家に統治してもらおう。そして休めと言っても休まなかった二家には、次の戦いで激戦地に放り込んでやる。念願の三好との戦いだ。決して嫌とは言わないだろう。


 最後は蛇足気味ではあるものの、足利 義栄(あしかが よしひで)にとっては念願となる「上洛」の二文字が現実味を帯びてきたと言える結末となる。


 ようやく、ようやくここまで辿り着いた。



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



 淡路国の制圧によって、三好宗家との軍事的なパワーバランスはこちら側に傾く。


 そうなれば目敏い者が擦り寄ってくるのが世の常である。商家はその最たるものだ。中でも堺の商家は俺の許しを得ようと、ひっきりなしに現在の居城となる岩屋(いわや)城へと訪ねてくる。


 なお、国主となる細川 藤賢(ほそかわ ふじかた)殿には、中心地の洲本(すもと)に居館を構えてもらった。岩屋城は前線基地として借り受ける形としている。


 そんな岩屋城にやって来る堺の商家だが、俺はある一つの事実に気付く。面会して聞き取り調査をした訳ではない。面会には応じていないが、要件を伝え聞いたのみの考えである。


 結論から言えば、この期に及んで堺の商家達はまだ勘違いをしていた。


 淡路国を手にした当家は、現状和泉(いずみ)灘の制海権獲得に向けて動いている。具体的には惟宗 国長(これむね くになが)が率いる当家の水軍に小早川(こばやかわ)水軍、塩飽(しわく)水軍とが協力して周辺海域で敵対する海賊の撃退を行っているというものだ。近い将来、和泉灘を通る船は当家の承諾無しでは活動できなくなるであろう。


 それと並行する形で、細川典厩(てんきゅう)家が周防仁木(すおうにっき)家の協力を得ながら、淡路国の海賊を管理下に組み込んでいる。畿内の海賊との関係性を断とうとする動きだ。


 何が言いたいかというと、当家は堺に対して海から焼き討ちをする準備を整えている。堺の商家はそれが分かっていない。


 現状堺の選択は、全面降伏の一つのみだ。はした金での和睦は絶対にあり得ない。


 だというのに、抜け駆けして自分一人だけ許してもらおうとする。呼んでもいない公家や僧侶がやって来て、和睦の仲介を買って出る。間違っても、会合(えごう)衆の一人が町全体の代表として俺に面会を求めるような真似はしない。


 堺が町の代表者を選出して俺の元に派遣しないのは単純な理由だ。屈辱的な条件を呑みたくない。その一点に尽きる。以前俺が津田 宗達 (つだ そうたつ)に伝えた和解金の一〇〇万貫を蒸し返されたくないのだ。


 加えて、交渉で俺の妥協を引き出そうにもその方法が分からない。仮に堺が当家に味方すると言った所で、そもそも必要無いのだから無意味だ。むしろこちら陣営の足を引っ張る存在になりかねないため、味方と認めない判断をするだろう。


 ならば銭で支援となれば、一〇〇万貫を要求される。にっちもさっちも行かないとのまさにこの事だ。


 こういった背景があるからこそ、個別で商家が動く形となった。


 言い分は、「堺の町は細川様との決裂を選びましたが、私個人は敵対する意思はありません。以前より協力の機会を伺っておりました。その証としてまずは銭をお納めいたしますので、畿内での戦にお役立てください」となる。会合衆の決定には逆らえなかったが、個人の意思は初めから当家の味方だとするのが典型と言えよう。


 一見筋が通っているように見えても、明らかな嘘だというのが分かる。


 理由は明白だ。本当に当家の味方であったのなら、元堺の商家である宍喰屋(ししくいや)に連絡を取れば良い。俺が丸投げした合板事業がここまで大きくなったのも、実の所会合衆の決定に反発した幾つかの中小の商家が、宍喰屋に直接的・間接的に協力したからである。


 元々宍喰屋には堺の商家の分断を依頼していたのだが、その過程で合板事業そのものに興味を持ち堺を裏切った商家が出たという内幕であった。お陰で当初の目的は何処へやら、元堺の商家達は西国各地での商談に忙しい。

 

 要するに味方は、既にこちら陣営にいるという話である。この実情を知っていれば、今更取り繕った所で演技にしか見えない。当家に近付く方法はこれまでに幾つもあったろう。


 こうした経緯もあり、堺の町は焼き討ちが決定した。


 そうと決まれば土佐に大量の低性能ナパーム弾を発注する。堺には回覧板を回して焼き討ちのお知らせをする。避難民の受け入れには、本願寺の貝塚道場に担当してもらった。 


 家臣達からはそのような甘い対応をすれば、堺の会合衆が一時避難をして焼き討ちが終わるとまた戻ってくるとして渋い顔をされてしまったが、この辺りは想定済みである。


 堺の町が力を持つ理由は、倉庫業にあると言えよう。日の本各地から集めた物資を最大消費地の京へと流す。中国地方から集めた鉄は東海地方へ流す。つまりは中間業者的な側面が強い。


 金属加工が盛んな地でもあるが、これは中国地方の鉄が一度堺に集まるからである。


 詰まる所、堺は土地・建物といった固定資産に打撃を与えれば、機能を大きく損なう。制海権は当家が握るのだから、物流の多くは死に体となる。こうなれば再起の道が無くなり、再度会合衆として力を持つ事は無いという訳だ。


 また堺は、統治上の問題としてもそのままにしてはおけない。独立自治とはとどのつまり、軍事勢力と同じとなる。自衛名目で過剰とも言える数多くの傭兵を抱えているのがその証拠だ。寺社には武装解除を要求しておいて堺は現状維持。これはあり得ないと言えよう。


 商人の町と言えば聞こえは良いが、実質は抜きん出た資金力を持つ豪族と変わりない。

 

「という訳で突然取引を打ち切られた恨みを晴らすため、堺の焼き討ちを行う。あの時は本当に困ったからな。本願寺がいなければ、俺達は破産していた。その報いを受けさせるぞ。皆の奮闘を期待する」


「国虎様、心の声が駄々洩れとなってます」


 根気よく海賊を潰して和泉灘が大人しくなった頃、ついに堺の町の焼き討ちを決行する。


 方法は海上からの砲撃を主とし、一部戦力は上陸をして直接建物に火を点けるというものだ。やるからには徹底的に。中途半端な真似はしない。目指すは一面の焼け野原である。


 三好宗家による妨害が予想されるため、上陸する部隊には護衛に回転弾倉種子島の部隊を付ける形とした。


 結末は実に呆気ないものとなる。


 今回は占領を目的としていない。略奪も行わない。ただ町を丸ごと放火するのみである。海上からの新居猛太改による低性能ナパーム弾は三好では防ぎようがないため、三好は早々に兵を退き、自領に引き返していった。


 船に揺られながら、煌々と燃え盛る堺の町を肴にぐびりと酒を飲む。現在の町中は大変な状況だろう。事前に警告を出して避難するよう伝えた所で、守らない者が数多くいるのは分かっている。中には全身火傷となってのたうち回り死に至る者や、倒壊する建物の下敷きとなって身動きが取れずに泣き叫びながら死を迎える者もいよう。今回の焼き討ちが大量虐殺となっているのは覚悟の上である。


 こうして俺は中村の町に続き、二度目の大罪を犯した。


 避難民の受け入れを引き受けてくれた貝塚道場は、俺をどういう目で見ているだろう。やはり仏敵認定をして敵対するだろうか? 堺と俺とは長年の因縁があったとは言え、もっと他のやり方があったと思うのが通常だ。いつその刃を突き付けられるか分からないと、恐怖を覚えたに違いない。


 また今回の一件で、日蓮宗とは嫌われるのを通り越して敵対したのは確実である。堺の商家には日蓮宗信者が多い。この時代は善行を積む名目で寄付の行為が浸透しているため、堺の商家は日蓮宗の資金源の一つとなっていよう。その資金源を潰したのだから、相当な恨みを買ったのは確実だ。


 そのため次の畿内での戦いは、単なる武家同士の争いの枠から外れ、宗教勢力を巻き込んだより大規模なものになるのが予想される。これで本当に三好 長慶(みよし ながよし)に勝つつもりなのかと誰もが考えるだろう。


 当然勝つつもりではいるが。


「申し上げます! 国虎様、本願寺教団より使者が参りました!」


「ああ、やはりこの展開になったか。しゃあねぇ。覚悟を決めるか」


 そんな他愛ない事をつらつらと考えている時、伝令が使者の到来を告げる。小舟を出し、急ぎで当家の船団に横付けしてきたそうだ。


 堺の町と教団本部の石山本願寺との距離は意外と近い。距離にして二〇キロメートルもない筈だ。そうであれば、今回の焼き討ちにいの一番に反応するのが分かる。付き合いのある貝塚道場よりもこちらが先となった。本願寺教団とは長く付き合いを続けてきたが、ついに決別の時が来たらしい。


「国虎様、本願寺教団からの言葉です。我等は今この時をもって細川京兆(けいちょう)家にお味方するべく挙兵する、と」


「えっ?」 


「ですから、本願寺が当家のお味方になったと急ぎ使者を寄越してきました!」


「な、何だってー!!」


 誰がこのような結末を予想できるだろうか。堺の町を焼いたら本願寺が味方となった。それも資金面での援助ではない。兵を挙げ、積極的に戦に協力するというとんでもない内容だ。


 ……何故こうなる。

ブックマークと評価ポイント、それといいねも頂き、誠にありがとうございました。

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