表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
223/246

第六十四話 Dragon Slayers 6




     ◇◇◇




「――――スピカっ!!」


「…………!」




 跳ね起き、スピカの名前を叫ぶ。

 空を見ていたスピカは、すでにその異変に気づき、ジト目を大きく見開いていた。




「……なんだ? 輪詠唱……? 合体魔法(スペル)かっ!?」


「うわぁ、おっきぃ。ネズミさんチームもよくやるねぇ」




 荒野地帯の青空、光の線で描かれた魔法陣。

 そこから出てくる巨大な物体は――ネズミの魔法師(スペルキャスター)が魔力を持ち寄って作った、『隕石(メテオ)』的なスペルだ。


 サイズはおよそ……20メートルくらいだろうか。

 ごうごうと音をたてて燃え上がるソレは、いかにも世界のクライマックスって感じの視覚的ヤバさがある。


 アレが落ちたら俺たちだけじゃなく、ここら一帯のラットマンたちがどっさり死ねるだろう。

 色んなゲームにおける『隕石』ってのは、大体の場合切り札で、おおよそ強いもんだし。




「サ、サクリファクトくんっ! ならず者(ローグ)技能(スキル)で止めては貰えないだろうかっ!?」


「いや、流石にあんな遠くちゃ無理っすよ!」




 ローグのスキル『シャッター』には、"声がきっちり聞こえたら効果が出る" っていう発動条件がある。

 それならきっと、遠い空でむにゃむにゃやってるネズミ共には届かない。


 ……考えよう。今思い付く案は2つだ。

 1つ目。スピカに対空防御の『冬空』を展開させて、隕石を弾く。そして地上の "超四面楚歌" の中で、なんかとにかく頑張るという方法。

 2つ目。このまま地上防御の『春空』を展開し続け、地上のネズミを押し止める。そして隕石でドームをぶち抜かれて、なんかとにかく頑張って死なないようにする方法。


 …………いや、キツいか。

 どっちも後半は根性要素しかないし。


 なんとかなる気が全然しないぜ。

 こんなのどうすりゃいいんだよ。




「――スピカ!『()』をやれ!」


「――うんっ! "大犬・子犬・馭者・麒麟。星空・天象"っ!『冬空(ふゆのそら)』っ!!」




 ……そうして誰もが混乱する中に聞こえたのは、頼れる先輩……マグリョウさんの声だった。


 それにはっきり返事をしたスピカが、『光球』の配列を素早く変え、冬の星座を作り出す。

 かつてリスドラゴンが放った『針の雨』すら完璧に防ぎきった、対空防御の星の陣。

 それが傘のように俺たちを守り、降り落ちる隕石を受け止める。



「止めてっ! 私の星っ!!」



 ロールプレイ口調もやめて、必死に叫ぶスピカの声に、状況のヤバさを思い知る。


 ……"本当に耐えられるのか?"、と思う気持ちもなくはない。

 だけど、ラットマンの侵入を防ぐバリアが消えた今。

 俺たちがするべき事は、四方八方から来るラットマンへの対応だ。


 不安はあるけどとにかく今は、あいつの星を――『絶対防御』と呼ばれるスピカの力を信じきり、空を気にせず地上を警戒するほかない。




「チュチュゥ~ッ!!」


「『来い! 死灰ぃ!』」




 そんなヒリ付く状況で、地面に渦巻く、重さすら感じるような濃い灰の霧。

 それは俺たちの周りを囲むように広がって、視界をすっかり遮った。



「チュ……チュチュ~?」



 ラットマンの突撃が止まる。その見慣れぬ『灰の壁』に警戒をしたんだろう。

 だけどそれも一瞬だ。

 どれだけ濃くて重くても、結局のところ『灰』は『灰』。

(ソレ)』ではネズミは止められない。


 だからこの行動で得られた物は、ほんの少しの時間的猶予だけだろう。

 ……何をしよう。




「――――やれ! 腐れゴールド!」


「ふん! 余の詠唱完了と寸分違わずかっ」




 そうして叫ぶマグリョウさんが、腐れゴールド……【金王】の名を呼ぶ。

 ……そうか、それか。そういう事か。

 この状況にあいつの魔法(スペル)、それを踏まえた作戦だったのか。


 あぁ、それなら『灰』は最高だ。

 外部と内部を完全に断絶する『春空(はるのそら)』のバリアが消えている今ならば、辺りにスペルを撒き散らす事だって出来る。

 そしてそのスペルが、"対象を指定しない超範囲スペル" だったなら――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 予備動作を探知されない、灰の霧越しにぶっぱなす大魔法。

 間違いない。そんなの避けられるはずがないぜ。何しろ俺だったら、絶対食らって死んでるし。




「"滅せ、穢れた塵芥っ!!"、『黄金郷(エル・ドラド)』ッ!!」




【金王】アレクサンドロスが、手に持った金の鎖――――無数の『魔宝石付き貴金属』を繋げまくった悪趣味な魔法(スペル)触媒(ブースター)――――を地面に滑らせ、散々詠唱を続けた魔法(スペル)を発現させる。


 しゃら、と地面を撫でる鎖。

 その色が移るよう、金色に煌めきだす荒野の地面。

 それは次第に広がって行って、灰の外まで伸びていく。



「チュチュッ!?」



 アレは金ピカが以前見せた魔法(スペル)、『黄金時代(ゴールド・ラッシュ)』の別バージョンだろうか。

黄金時代(ゴールド・ラッシュ)』は石ころを金色の爆弾に変えていたけど、今度は地面がまるごと金色に染まってるぞ。


 ……あ、もしかして。

 ……あの()()()()()()()()()()()が爆弾なのか?

 だとしたらこれはすごいスペルだぞ。

 範囲がどれくらいなのかわからないけど、相当なラットマンを吹きとばせそうだ。


 …………となると、先は明るい。

 今から迫りくる『隕石』を『冬空ふゆのそら』で防御して、周囲を『灰』で覆ってネズミの突撃をためらわせ、その『灰』越しに有無を言わさぬ超広範囲の魔法(スペル)をお見舞いする。

 そうしてひとまず周囲のネズミを追いやってしまえば、また詠唱や準備をする時間が生まれるはずだ。


 すごいぞ、いい感じだ。

 一気に未来が開けた感じがする。

 流石だ、マグリョウさん。あとついでに、このタイミングで詠唱を終わらせていた金ピカも褒めてやりたい所だぜ。




「おぉ! 金ピ――……」


「いいぞっ、ア――……」


「スペルっての――……」




 そんな浮いた気分のままに、アレクサンドロスに声援を送ろうとして、言葉に詰まる。

 ……いや、()()()()()()




「…………?」


「…………!?」


「!!!!、!!?」




 それは俺の隣に来たクリムゾンさんとヒレステーキさんも同じようで、『いいぞっ、ア……』『スペルっての……』まで言った所で、口をぱくぱくさせていた。

 それはあたかも、喋りたくても喋れない事を伝えるような、必死な形相で。


――――なんだ、これ。




「ぁあ? 何黙――……」


「あ、これシャ――……」




 そんな不思議の現象は、俺の左側に居るマグリョウさんとツシマにも巻き起こる。

 おそらく『何黙ってんだ』と言おうとしたマグリョウさんと、何かに気づいて言いかけたツシマ。

 その両方が、()()()()()()()()()()()()、半端な所で言葉を切った。




「…………?」


「~~っ! ン~! ン~!!」




 ツシマが呻く。口を指差し、灰の向こうを指さして。

――――わかった。気づいた。

 そして伝えようとして、それが出来ない事に気づく。


 喋れない。声が出ない。

 だから危険を伝えられない。


 ……ならず者(ローグ)の俺は知っている。

 これはそういう便利なスキルだ。




「余が振る舞い――……」


「……大熊・小――……」




 運がいいのか悪いのか、一番ソレを食らっちゃいけない2人の魔法師(スペルキャスター)は、最後の最後に標的となった。

 隕石の軌道を僅かに逸らし、なんとかこの場を守りきった『冬空(ふゆのそら)』を解除し、もう一度『春空(はるのそら)』を形作ろうとしたスピカ。

 そして、あと一歩、あと一言で範囲攻撃魔法の『爆発効果』を発現させられたはずの、アレクサンドロス。


 その2人のどちらもが、灰の向こうから()()()()()()に打ち込まれた、ならず者(ローグ)技能(スキル)『シャッター』の効果で――――詠唱を強制中断される。




「…………ッ!?」


「…………!!」


「チィ~ゥ~」




 ぷすん と不発する『春空(防御魔法)』と『黄金郷(攻撃魔法)』。

 そのどちらもが最重要で、状況を好転させるためにはなくてはならない切り札だった。


 それを潰したクソッタレローグのネズミ野郎が、灰の向こうでちぅちぅ鳴いた。




「…………」




 ……あぁ、なんだよこれ。どうしたらいいんだよ。

 息もつかせぬ連続のピンチ。必死でこじ開ける突破口、その先に置かれた罠。

 それを回避しようやく見つけた活路ですらも、回り込まれて塞がれる。


 ずっと、いつまでも死にかけ続けてる。

 ワンミスも許されず、ミスらなくたって……多分死ぬ。

 そろそろキツいぞ、本当に。




『……プレイヤーネーム サクリファクト』




――――びく、と体が跳ねてしまった。

 聞き慣れた優しい声色に、とてつもなく嫌な予感がして。


 ……俺はもう覚えたんだ。

 こういう時のこの声は、大体の場合ろくな事を言わねーって事をな。




『準備を。間もなく第8フェーズが開始されます』




 …………あぁ、やっぱり。


 すでに半分ゲーム・オーバーの状況に、新たな最悪、リスドラゴンの復活が告げられる。

 地獄の淵で、更に絶望の上乗せだ。




『7本目の尻尾が消失したシマリス型ドラゴンの強化は、"超再生" です。これよりシマリス型ドラゴンの肉体、及び体毛は、常時再生を続ける仕様となります。具体的に言いますと、シマリス型ドラゴンに対して、あなたの友人であるプレイヤーネーム マグリョウによる斬り付けがあった時、そしてその命が失われなかった際、およそ5秒後には完全に回復した状態となる程度のものです』




 ……はは。

 なんだよそれ。馬鹿じゃねーの。

 そんなのつまりは、大体不死身って事じゃん。




『……【死灰の片腕】、【金王の好敵手】、【黒い正義】、【七色策謀】……【新しい蜂】、サクリファクト。私に神はおりませんので、ただあなた方に願います――――……ご武運を』




 …………ドラゴンが来る。すでに死にそうな俺たちの所に。

 ほとんど無敵の能力を持ったリスドラゴンが、もうすぐ絶望に殺される俺たちを、死体蹴りしにやってくる。



『そして、どうか、諦めないで』



 だったら、"MOKU" 。

 教えてくれよ。


 どうすればいい。

 俺はどうすれば、この状況で……心を折らずにいられる?



『…………』



 ……何か言えよ。

 ……頼むから。




     ◇◇◇




「ギヂヂヂヂヂィィ……ッ!」


「ド……!? ドラゴン……っ!? なんという事だ……っ!!」


「大変だね、大変やよ、どうしようね? わからないや、どうしよう、ねぇ、どうしようね」




 ……この絶望がどこからだったのかと考えれば、そもそもの始まりは、リスドラゴンの危機からだ。

 "それが死んだら戦争に負ける"。そう思ったラットマンが……『中国のプレイヤーたち』が、竜殺しである俺たちを、排除しようとし覚悟を決めたあの時だろう。


 そして始まった、死に物狂いの()()()

 バリアを張れば砕かれて、張り直したなら合間をぬって魔法(スペル)を撃たれて。

 そして今度は『隕石』と地上の同時攻撃から、こっちの魔法(きりふだ)を見抜かれて、まんまと邪魔をされた。


 何をしたって対抗されて、対応されて対策を打たれる。

 それから感じるのは…………強い意思だ。

 ただ "勝ちたい" ってだけの純粋な、だけど深くて真剣な願いにもとづく、烈火の如き本物の戦意だろう。


 …………あぁ、そうか。

 これが奴らの真剣さ――つまりは『本気』って事なんだろう。




『ス、ステーキ! た、退却を……!』


「どこだ!? どこに逃げんだッ!? どっちに行けばいいッ!? なぁ! タテコッ! 言ってくれ!!」


『ええと……ええと……っ! あの、その……っ』




 わかってたようで、わかってなかった。

 ラットマン。それはネズミ頭でチューチュー鳴くけど、中身は確かにどこかの誰かな『リビハプレイヤー』だ。

 だから、今日が俺たちにとってそうであるように、こいつらにとっても今日という日がリビハの未来を決める大決戦で――――お互いの明日のダイブインを賭けた、引けない同士のぶつかりあいだったんだ。


 それなら当然、俺たちもこいつらも全く同じ、混じりっけなしの『本気』で来るに決まってる。

 一瞬足りとも油断せず、持ちうる能力を出し切って、自分が捧げられる全部を捧げて……ただひたすら勝利のために、頑張りまくるに違いない。


 それもこれも、俺たちと同じ。

 とにかくこの戦争に……勝ちたいから。




「…………よし、わかった。来いよクソ共。俺を殺しにやって来い。そうしたならばこの【死灰】様が、全力で殺し返してやるぞ。死なずに殺して、死んでも殺して、死なば諸共、1匹でも多く道連れにしてやる」


「……そだね、うん。そうしよっか。死への門出に不運を撒いて、派手に命を散らしちゃおう」


「死にてぇ奴から殺しに来い……【死灰】がここで待ってるぞ。……冥土の土産はお前の首だ…………死んだ気で来い、クソネズミぃ……!」




 ……そうだ。俺たちとあいつらは――見た目こそ違えど、何も変わらない。


 職業があって、レベルがあって、装備があって……友達がいて、仲間がいて、生活だとか楽しみとかがあって――――そんな全部がある世界を守るため、ここにいる。

 だからこうして剣を取り、願いのために身を捨てて、勝利に本気になっている。


 ……ここにいる俺たちと、何ひとつ変わらない。

 自分たちのRe:behind(世界)を守るため、一生懸命なんだ。"中国のプレイヤー(こいつら)" も。




「ヂィッ! ヂヂィッ!!」



 …………だったら仕方ない。



「ちゅーちゅー!」「チチチチッ!」



 ……だったら負けてもしょうがない。



「ギヂァァァァァッッッ!!」




 同じく『必勝』という意思を持つ、同じ条件のプレイヤー同士。

 それがこっちはたったの8で、あっちは500の大群だ。


『8人』対『500人』。

 そんな大規模対人戦(PvP)が、今ここにある絶望だ。


 だったらそんなの勝てるわけが…………あ。




「………………あぁ……そうか…………」




 ……違う。

 "勝てるわけがない"、じゃない。


 "この人数で勝てたらいけない" んだ。




「…………ここはRe:behind(リ・ビハインド)、ここはMMO……」


「チュウ! チュゥウ!!」「ちちっちぃー!!」


「……だからここには、『特別なプレイヤー』なんて存在しない。1人で何でも出来たなら、みんなで遊べる意味がないから」




『8人のプレイヤー(俺たち)』対『500人のプレイヤー(あいつら)』。

 こんなに数差がある状況で、俺たちが勝ったら駄目なんだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 



「…………決まった主人公なんてどこにもいない。全員同じ、ちっぽけな存在で…………そうだからこそ、手を取り合って……頑張れる」


「ギヂギギギギィィィッッ!!」




 一騎当千はありえない。百鬼無双なんてどこにもいない。

 運営が決めたゲームの主役もいないし、絶対に追いつけない人だって存在しない。


 誰もが平等に些細な存在。公平に平凡な只1人のキャラクター。

 それがDive Game Re:behind(リ・ビハインド)の仕様で、それがVRMMOの面白さ。


 だからここには夢があった。

 だから努力に価値があった。

 だから仲間と本気で頑張れた。


 だからこういう戦場で、プレイヤー同士で争う時は。

 多いほうが…………当然、勝つ。




「…………俺はここが、そういう世界だから……好きだったんだ」




 ここで勝てたら公平じゃない。

 500を退ける8人なんて、そんなのただのクソバランスゲームだ。

 そんな世界だったら俺は、とっくにゲームをやめてるだろう。


 ……だから俺は、負けるんだ。




「…………そうだよなぁ……」




 ……あぁ、ちくしょう。なんだそれ。

 俺はリビハが、()()()()()()()MMOが、どうしようもなく大好きで。

 明日も明後日もこれからもずっと、この世界にいたいと願ってて。



――――だから今から、負けるんだ。




「…………っ」




 それに気づいた、その瞬間。

 ずっと鳴り続けていた心臓の音が、ぴたりと止まった気がした。




     ◇◇◇




「ギィィ……ィィィィィイイイイイッ!!」


「…………」




 大地にはネズミ、空には針、走り寄るのは恐怖のドラゴン。

 これはそういう『負けイベント』だ。


 俺たちはこれから、()()調()()()()()()()()




「ヂィッ! ()ィッ――――地地地地地(ヂヂヂヂヂ)ィィィッ!!」


「…………」




 リスの『震脚』で大地が揺れて、体勢が崩された。

 力なく膝をつくと同時に、手に持つ剣も取り落とす。


 立ちたい。抗いたい。諦めたくない。

 だけど……駄目だ。体に力が入らない。


 だって、俺は。

 もうどうしようもないって……わかっちゃったから。




「チュチュゥ!」「ぢぢぃ~ッ!!」

「チュゥゥァァアアーッ!!」


「…………」




 勝てない。好きだから。

 負ける。好きだから。

 諦めたくないと思えば思うほど、諦めるしかなくなってくる。


 ……ふざけてる。ちくしょう。そんなの無いだろ。

 仕方がないってわかるけど。ここはそういう世界だってわかるけど。

 だから好きで、だから楽しかったんだってわかってるけど…………それでも、俺は、こんな最後は……。




「……悔しい…………悔しいなぁ…………」



 ……せっかく、ここまで…………ここまで来たのに。

 チイカを無理やり連れてきて、【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】をなんとか集めて、リスの尻尾だって7本も減らしてさ。


 でももう終わりだ。全部おしまいだ。

 道半ばで、折られて、終わる。


 ちくしょう。



 あぁ。



 それでも。



 やっぱり……諦めきれない。




「…………リビハ、続けたかった、なぁ」







「ろーぐ」




 ……チイカ。




「あのね」
















――――ビィィヤァァァッ!!



「……ぁ……?」



 鳴き声、突風、黒い影。

 翼竜だ。とびきりデカい、例のやつ。



「……あぁ…………」



 援軍か。でももう、無理だ。

 今更数人ぽっちが来たって……何の足しにもならないんだ。



「……しろ?」



 それを見上げるチイカがつぶやく。

 何の事かと目を凝らしてみれば、翼竜の上にある……何かの布だ。

 地面すれすれを飛んでいる、翼を広げた大きな鳥の、その上に堂々とはためいてるのが、大きな大きな白いソレ。


 ……白。

 その中に……トゲトゲの何かが描かれた……布。

 白地に……七角形の……星の模様の。


 ……あれは。


 あれは。


 スピカが作った、()()()()…………。




「……旗…………か……」


「……ん……! ん! ん!」




 チイカが珍しく大声を出す。泣いてたはずなのに笑った顔で。

 そして元気に、嬉しげに、俺の背後に指を伸ばして。




「…………旗…………」




 それは、東。

 俺たちの『首都』がある方向。


 そこに立ち上る土煙と、徐々に膨らむ喧騒と――――


――――何本あるのかわからないほど、無数にたなびく『七角形のとがり星(俺たちの戦旗)』。




「……旗…………!」







 …………"来るはずない" 、と、そう思ってた。

 だってここにはドラゴンが居て……それに危ないネズミだって、こんなに居るんだから。

 だから来ない、と。【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】と俺にすっかり任せるのだと。

 そう思ってた。



 …………だけど

 …………いや。

 ……ああ、そうか。


 そうだよ、そうだ。そうだよな。

 なんだよ、はは。


 やっぱり俺は……わかってたようで、わかってなかったよ。




「…………おおーっ!」


「……進めぇ~ッ!」


「隊長ーっ!!」





 "中国のプレイヤー(こいつら)" と『竜殺し(俺たち)』は、何も変わらない存在で。

 誰かに任せる訳じゃなく、自分がやらねばならないと、強く熱く心に決めて。

 恐怖と危険とリスクばかりの戦場に――――自分で世界を守るため、自分の意思で立っている。


 一緒だ。そうだ。何も違いはない。

竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】も、ラットマンも、全員何も変わらない。

 全員とてもちっぽけで、中身はただの人間で、それぞれ唯一のリビハプレイヤーだ。


 ……だからっ。




「突っ込めぇぇぇぇッ!!」


「だらぁーっ!」


「オール・ハンドゥ・ガァンパレェェード!!」




 中国(お前たち)がそうやって……勇気と覚悟で前を向き、剣を手に持ち立ち上がったように……!


 俺たちも……『竜殺し(俺たち)』も……!『日本国(俺たち)』も……っ!!

 お前らと同じ、『日本国の全プレイヤー(俺たち)』だって!

 剣を手に持ち! 覚悟を決めて!! 自分の意思で立ち上がるって決まってるっ!!




「戦旗を掲げろぉ! 俺たちはここにいるぞぉぉぉ!」


「ドラゴンが! 恐怖が! なんぼのもんじゃぁあああ!!」


「ここで終わってたまるかよぉ!」


「のりこめのりこめー」


「勝利のために! 勝利のためにぃ!!」


「俺たちも! 戦うぞぉぉぉ!!」



「――――総員、突撃!! リビハの未来を掴み取れぇええ!!」




 荒野の地平を埋め尽くす、風にたなびく無数の戦旗。

 それを掲げる英雄たちが、世界を救いにやって来た。



 あぁ、やっぱり。

 俺はRe:behind(MMO)が、大好きだ。




     ◇◇◇





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ