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83 黒騎士、怒りの呪殺

「なんなんだ、これは――」


 今の黒い陽炎と関係があるのか……!?


 ふたたび前方に視線を戻すと、さらにいくつかの黒い陽炎が見えた。


「……起爆用の『引き金』なのか」


 僕はようやく理解した。


 あれは僕らの存在を感知し、一定程度近づくと仕掛けられた魔導爆弾が爆発する仕組みではないだろうか。


 ただ、通常の魔導兵器なら【鑑定の魔眼】で解析できるはず。


 ということは――、


「超古代文明の魔道具……か」


 僕の【魔眼】を強化した超古代の魔法文明。


 それと同種の技術であれば、いくらこの【魔眼】でも完全に解析することはできないのかもしれない。


「防護壁は失われたぞ! 今だ!」

「撃て! 撃てぇぇぇぇっ!」


 崖の上から敵兵たちの声が響いた。


 無数の矢が、攻撃魔法が降り注ぐ。


 今まで僕たちを守ってくれた防護壁は、『聖乙女部隊』がほぼ戦闘不能状態になった時点で完全に消え失せている。


 フラメルも魔力が尽きて、新たな防御魔法を使うのは難しいだろう。


「くっ……!」


 僕は歯噛みした。


 矢の群れに兵たちが貫かれる音。


 攻撃魔法が炸裂し、爆発する音。


 それらが響き渡り、兵たちは次々に倒れていった。


「やめ……ろ……」


 僕は唇をかみしめた。


 破れた唇から血がツーッと流れ落ちる。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 絶叫だった。


 僕は崖を駆け上がるようにして飛び上がる。


 空中に身を躍らせ、崖の上にいる敵兵たちとの距離を詰める。


 それによって――【魔眼】の効果範囲まで近づいた。


 そして、発動する。


「お前たちは――一人残らず呪殺する!」


【呪怨の魔眼】を。


「ごぼっ……」

「がはっ……」

「げはぁ……」


 敵の弓兵や魔術師が次々に血を吐き、倒れていく。


「こ、こいつ……っ!」


 空中の僕に矢が射かけられるが、それらは剣で残らず弾き飛ばした。


 攻撃魔法も放たれるが、こちらは【吸収の魔眼】ですべて吸い取り、ふたたび【呪怨の魔眼】で残りを掃討していく。


 この魔眼はそれほど効果範囲が広くないため、跳び上がっては着地し、また跳び上がっては着地し……と何度か繰り返し、崖の左右に陣取る敵を片っ端から呪殺していった。


 ――魔眼を使いすぎれば、暴走の危険がある。


 すでに峡谷の前半部で【吸収の魔眼】を使っているし、これ以上の使用は避けたい。


「分かってるんだ、そんなことは……」


 そう、理性では分かっている。


 けれど味方が次々に殺される中で、冷静さを保つことはできなかった。


 この事態を招いたのは、僕の判断ミスだ。


 黒い陽炎を見たとき、もう少し考えるべきだった。


 そうすれば、あれが未確認兵器の引き金だと気づくことができたかもしれない。


 脳裏に、爆死した兵たちや聖乙女たちの姿がよみがえる。


「僕のせいで……!」


 さらに【呪怨の魔眼】を発動する。


 敵軍を呪殺し続ける。


 一人残らず――。




 そして、戦闘は終結した。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」


 僕は荒い息をついていた。


 ――結局、僕は敵軍の九割近くを殺し尽くした。


 残りは完全にパニックになり、逃げ去っていった。


 これで峡谷を通れるだろう。


 ただし――、


「こっちの被害も……」


 僕はうめいた。


 兵たちの死傷者は少なくない。


 そして、こちらの防御の要である『聖乙女部隊』の大半が死亡し、残りも再起不能の傷を負ったものが少なくない。


 満足に戦える者は二割いるか、どうか――。


「いやぁぁぁぁぁぁぁっ……」


 さっきからフラメルの慟哭が響いている。


 彼女にとって『聖乙女部隊』は単なる部下じゃない。


 幾多の視線を乗り越えた大切な仲間であり、友でもあった。


 そのほとんどが失われてしまった。


「フラメル……」


 僕は彼女の元に歩み寄ろうとして、そこで足を止める。


 それ以上、近づけなかった。


 僕のせいだ……その罪悪感で胸が苦しくて。


 残り数歩の距離を、縮められなかった。


「……いや、違う」


 だからこそ、僕はフラメルの元に行かなくちゃ。


 逡巡を振り切り、歩き出す。


「姉上」


 と、フラメルに声をかける。


「クレスト……くん」


 振り返った彼女は泣きはらした顔だ。


 いつも明るく、優しく、気丈な彼女のこんな顔は初めてだった。


「……僕の判断が甘かった。そのせいで多くの兵や……聖乙女たちを死なせてしまいました」

「……クレストくんのせいじゃないよ」


 フラメルは首を左右に振った。


「そんなふうに自分を責めないで」

「でも、僕は――」

「君は強いし、誰にもない力も持っている。けれど、万能の神様じゃないのよ」


 フラメルが言った。


「一人で抱え込むのは止めて」

「……すみません」


 僕はうなだれた。


「フラメルの方がつらいはずなのに、こんな……」

「姉上、でしょ?」


 フラメルが微笑んだ。


 悲しさをこらえて、僕のために微笑んでくれている。


「戦争だもの。みんな、覚悟はしているから」

「……姉上」

「あたしたちは生き残った。だから、前に進みましょう」




 その後、僕らは全軍で峡谷を進んだ。


 敵兵はそれ以上現れることがなかったため、おそらくさっきの戦いで出てきた連中が最後なんだろう。


 こうして――僕らは難所と呼ばれたルドーレ峡谷を突破した。


 犠牲は小さくなかったけれど、フラメルの言う通り、生き残った僕たちはさらに進まなければならない。


 勝利のために。


 帝国に平和をもたらすために。

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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