82 ルドーレ峡谷突破戦2
僕らはさらに峡谷を進む。
「――待て」
半ばまで差し掛かったところで、僕は進軍を止めた。
【鑑定の魔眼】で、すでに敵の動向を捉えている。
ほどなくして――両脇の崖から大勢の弓兵が現れた。
さらに、二十人ほどの魔術師が控えているのも見える。
前半の防衛線が破られた時のために、後半で待ち構えていたのだろう。
一度に姿を現さないのは、こちらの広範囲攻撃を警戒してのことか。
「フラメルは魔力がほとんど尽きているし、さっきみたいに【リアクトウォール】で防ぐ手は使えるだろうか……」
僕は思案する。
【吸収の魔眼】は、敵の魔術師の攻撃を吸収して無効化できる。
けれど、それは魔法攻撃などの『エネルギー』が対象だ。
弓兵が放つ物理的な矢を【吸収】することはできない。
【魔眼】で無効化できるのかは分からない。僕は、自分の能力をどこまで信じていいのか迷った。
「クレスト殿下、私たちにお任せを!」
背後から凛とした声が響いた。
振り返ると、白い制服姿に銀色の髪飾りを付けた女魔術師たちが現れる。
フラメル配下の『聖乙女部隊』だ。
彼女たちは皆、フラメルと同じように治癒や防御魔法に特化した魔術師だった。
「聖女様の、そして自軍の盾となることが、私たちの使命です」
部隊長の女魔術師が誇らしげに語った。
「それに……」
と、僕を見つめて微笑む。
「クレスト殿下。私たちは、あなたの戦いぶりをずっと見てきました」
「えっ」
「レイガルドでも、ガレンドでも、そしてここでも。あなたは、いつでも私たちの希望でした」
彼女の言葉に他の聖乙女たちもうなずく。
「だから……私たちの命を懸けて、あなたと聖女様を、軍の全員をお守りします」
「みんな……」
僕は『聖乙女』たちを見つめる。
「それに――聖女フラメル様は、私たちにとって主であるとともに戦友です。そして、あなたはそんなフラメル様と深い絆を結ばれたお方」
「だから、守りたいんです」
「いえ、守ってみせます」
彼女たちが胸を張る。
その心意気が嬉しかった。
「ありがとう」
僕は微笑を返す。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
僕はフラメルとも相談の上、あらためて彼女たちに敵軍の矢と魔法の防御を任せることにした。
「【ソリッドウォール】!」
「【マジックウォール】!」
後衛に並んだ『聖乙女』たちが、それぞれ対物理や対魔法の防御結界を張っていく。
彼女たちはフラメルほどの莫大な魔力はないけど、それでも十数人が一斉に防御魔法を使うことで強固な防護壁を作り上げた。
その防護壁に守られ、僕たちは進軍を再開する。
ほどなくして崖の左右から無数の矢が降り注ぎ、さらに火炎や雷撃といった攻撃魔法も飛んできた。
ごうっ、ばちぃぃっ!
色とりどりの爆光が峡谷を照らし、無数の爆音が響き渡る。
こちらからも魔法師団からの攻撃魔法や弓兵たちの矢を放つものの、相手の防御に弾き返された。
「攻撃の威力と手数はさっきほどじゃないが、代わりに防御が硬いか……」
僕は【鑑定の魔眼】で戦況を分析する。
敵の魔術師たちは、攻撃魔法の担当を減らし、その分、防御魔法を使う術者を増やしているようだ。
峡谷前半が攻撃重視の布陣なら、こちらは防御重視の構えといったところか。
「このままでは膠着状態だ……」
なんとか、ここを打破しないと消耗戦に持ち込まれてしまう。
地の利は向こうにある以上、なるべくその展開は避けたいが――。
と、そのとき、僕の視界にあるものが映った。
【鑑定の魔眼】を通して、前方に黒い揺らぎが見える。
まるで陽炎のようだ。
「なんだ……?」
具体的に【鑑定】しても何も分からない。
通常、この【魔眼】を使うと対象の情報が表示されるんだけど、それがない。
正体不明の何か、ということか――?
警戒しつつ僕らが近づくと、その黒い陽炎は揺らめきを増していく。
――ごうんっ!
次の瞬間、背後で大爆発が起きた。
慌てて振り返ると、【鑑定の魔眼】を通して後衛の様子が見えた。
「あ……ああぁ……」
「うあ……ああ……」
いくつもの、苦鳴。
後衛の兵士たちが焼け焦げ、ほとんど原型を残さないほど吹き飛ばされている。
「なっ……!?」
僕は呆然となった。
『聖乙女部隊』も大きな被害を受けており、半分以上が即死したようだ。
さらに残りの半分もひどい火傷を負ったり、手足を失ったり、とほとんどが重傷を負っている。
「なんなんだ、これは――」
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