46 僕は怒りのまま王国兵を斬り捨てる
僕は農村を飛び出し、今まで以上の速度で走っていた。
【黒騎士】クレスト・ヴァールハイトの圧倒的な走力は、常人のそれをはるかに凌駕する。
馬と比べても、それほど見劣りしないほどの速度で、僕はあっという間に救護所の近くまで到達する。
と、そこで前方に巨大な影が立ちはだかっていた。
全高10メートルを超える石像。
それが、三体。
「こいつらがゴーレムか……!」
報告によれば、王国が繰り出したゴーレムは二十体ほどだというから、その一部をここに配置しているんだろう。
ずしん、と地を揺らし、一体のゴーレムが巨大な拳を振り下ろしてきた。
僕はそれを紙一重でかわす。
ごおおっ……!
地面に叩きつけられた拳が生んだ衝撃波だけで吹き飛ばされそうになった。
「なんてパワーだ……!」
僕は体勢を立て直し、剣を構える。
ふたたび振り下ろされた腕を駆け上がり、分厚い装甲に剣を叩きつけた。
がいいんっ!
両手に走る重い衝撃。
ゴーレムの腕には傷一つついていなかった。
「くっ、硬すぎる……これじゃ剣が通じない」
僕がうめいた瞬間、こちらを振り向いたゴーレムの目が赤く輝いた。
同時に胸部装甲が開き、そこから極太の熱線が放たれる。
「っ!?」
とっさに大きく跳んで避けた。
そのまま突き進んだ熱線は地面を蒸発させながら薙ぎ払っていく。
人間の体なんて、かすっただけで炭化して跡形もなくなるだろう。
「一発当たったら終わりだ……」
対抗策は二つだけ。
回避し続けるか、あるいは【吸収の魔眼】を使うか。
戦場で【魔眼】を多用すれば、また暴走する危険がある。
けれど、今はフラメルの元に最速でたどり着くことが最優先だ。
たとえ房総のリスクを冒してでも……!
ボウッ!
ふたたびゴーレムが熱線を放つ。
僕はそれに合わせて【吸収の魔眼】を使った。
熱線が一瞬にして単なる魔力へと変換され、霧散し、魔眼を通して僕の体内に吸い込まれていく。
さらに二発目、三発目――。
吸い続けるうちに、内側から力があふれて暴れ出しそうになる感覚に襲われた。
これを続けていれば、いずれは【魔眼】が暴走を起こすだろう。
それでも、今は立ち止まれない。
と、そのとき――。
「あれは……」
熱線を放つ際、ゴーレムの胸部装甲が一瞬、開く。
その奥に、青白い核が脈動しているのが見えた。
「あの場所なら剣が通る!」
僕は地を蹴り、一気に距離を詰める。
そして、またも放たれた熱線を吸収しつつ、開いた装甲の隙間に向かって剣を突き出した。
ざしゅうぅっ……!
僕の剣は、輝く核を正確に貫いていた。
ぎぎぎ……と耳障りな音を立てて、ゴーレムの動きが止まる。
動作を停止したようだ。
残るゴーレムは二体。
その後方には百人ほどの兵士が隊列を組んでいる。
「よし、要領は分かった」
僕は残る二体のゴーレムに向き直った。
同じように熱線攻撃を【吸収】し、むき出しの核を破壊していく。
ここまで、すでに二十回以上も【吸収の魔眼】を使っている。
使わざるを得なかった。
その反動か、体中が軋む。
あと何回、【魔眼】を使えるだろうか。
最後の一体を倒すと、僕は王国兵たちに向き直った。
「次はお前たちだ……!」
道中、目にしてきた農村群の悲惨な光景が脳裏によみがえり、燃えるような怒りと憎悪が同時に湧き上がる。
「外道は、等しく掃討する」
僕はまっすぐに駆けだした。
「彼らの無念を僕が晴らす!」
そう宣言して、一直線に敵陣へと突っ込む。
「くっ……」
正面にいた十数人の兵士たちが剣や槍を構える。
が、その動きは僕からすれば、あまりにも遅い。
ざんっ!
すれ違いざまに、そいつら全員の首を刎ね飛ばし、さらに加速。
「力なき者たちの苦しみを、痛みを、断末魔を……思い知れ!」
僕は怒りのままに剣を振るう。
ざんっ!
兵士の体が真っ二つになった。
ざんっ!
兵士の首が宙を舞った。
ざんっ!
兵士の手足が斬り落とされた。
容赦はない。
平和に生きてきた民を虐殺し、略奪するような奴らに、容赦などするものか。
ただ斬って、斬って、斬り殺していく――。
「ば、バケモンだ……!」
「勝てるわけねぇ……!」
「に、逃げろぉっ……!」
王国兵たちはすぐに恐慌状態になった。
逃げる奴も全員殺してやろうかと思ったが、寸前で踏みとどまった。
今は、フラメルの元に一刻も早く駆け付けることが最優先だ。
おそらく苦境に立たされている彼女の元に――。
僕の脳裏に、フラメルの優しい笑顔が浮かんで消えた。
「……待っていて、フラメル……!」
と、そのときだった。
逃げようとしていた兵士たちが突然、足を止める。
そして――まるで糸の切れた人形のような不自然な動き方で振り返ると、ふたたび僕の方に向かってきた。
「なんだ……!?」
兵士たちの目は虚ろで、明らかに様子がおかしい。
「逃げちゃ駄目だよ~。罰として、みんなの精神を壊してあげたからね」
頭上から声が降ってきた。
見上げると、上空10メートルほどの高さに一人の少年が浮かんでいる。
無邪気に笑う彼の顔を、僕は知っていた。
「……【氷嵐の三魔剣】ロヴィンか」
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