30 勝利と雪解け1
ウェインガイルを討ち果たした僕の周囲に、帝国兵たちが駆け寄ってきた。
「クレスト殿下、お見事でした。まさしく神業――」
その先頭にいたドルファ将軍が、感極まった様子で叫ぶ。
さらに、
「六神将を討ち取るなんて信じられねぇ……!」
「うおおお、黒騎士様万歳!」
「俺たちの英雄は無敵だ!」
地鳴りのような大歓声が、戦場に響き渡る。
僕は先ほどまでの感傷を振り払い、剣を高く掲げた。
「敵将は討った! 残る王国兵を掃討せよ!」
そう、今は感傷に浸っているときじゃない。
戦いを終わらせることだけを考えるんだ。
兵士たちは雄叫びを上げて、王国軍の追撃へと向かっていった。
「英雄――か」
兵士たちの背中を見送りながら、僕はその言葉を反芻する。
脳裏に焼き付いているのは、ウェインガイルをかばって死んだローディや、彼の部下たちの姿だった。
そして、そんな多くの想いを背負い、命を燃やして戦ったウェインガイル自身の姿も。
王国が僕を処刑した憎むべき仇であることは変わらない。
王国軍の非道についても、話はいくつも聞いている。
けれど、どうにも気持ちが晴れなかった。
――どさり。
そのとき、背後で誰かが崩れ落ちるような音が聞こえた。
振り返ると、フラメルが倒れている。
「あ、姉上!?」
僕は慌てて彼女に駆け寄った。
「しっかりしてください――」
ぐったりとした上半身を抱き起こすと、彼女の体から伝わる異常な熱に驚く。
白い戦闘服のあちこちが焼け焦げ、その下の肌には痛々しい火傷がいくつもあった。
僕を守るために、彼女がウェインガイルの炎をその身に受けた結果だ。
「クレストくん……よかっ……た……無事……みたい……だね……」
と、フラメルが弱々しく微笑む。
「僕よりも姉上が――」
「ふふ、姉なんだから……弟を守るのは……当たり前……だよ……」
でも、僕は――あなたの弟なんかじゃない。
それに、出立前にあなたに疑念を抱き、ひどいことを言ってしまった。
その事実が、苦い気持ちとなって胸の中に広がった。
「これからも……あたしが……守るから……ね……」
そこまで言うと、フラメルの手が力なく落ちた。
「フラメル!?」
僕は思わず、彼女の名前を叫んでいた。
と、
「救護所へ運びましょう」
いつの間にか隣に来ていたドルファが冷静な声で言った。
「殿下、今は――」
「……分かっている」
できることなら、このままフラメルの側に付き添っていたい。
けれど、僕はこの軍で最強の戦力だ。
掃討戦を放棄するわけにはいかない。
「フラメル……いや、姉上を頼む」
僕は自分の感情を押し殺し、ドルファに言った。
「僕は残りの敵兵に追撃をかける」
この戦いを、一刻も早く終わらせるために――。
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