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16 要塞都市レイガルド防衛戦1

 フラメルの転移魔法によって、僕たちは一瞬で目的地である要塞都市レイガルドに到着した。


 城壁のあちこちが焼け焦げ、黒煙が上がっている。


 負傷した兵士たちのうめき声があちこちから聞こえる。


「負傷兵が多いね……」


 フラメルが、痛ましそうに周囲を見回した。


「伝えられている以上に劣勢のようですね」


 僕は静かに答えた。


 皇帝は『陥落寸前』だと言っていたが、実際、もう半分は落ちていると言ってもいいかもしれない。


「これはこれは両殿下。このような場所まで査察ですか。ご苦労なことです」


 僕たちの前に、厳めしい顔つきをした老将軍が進み出てきた。


 いくつもの深い傷跡のある顔に、分厚い鎧に覆われた巨躯。


 歴戦の勇士、ドルファ将軍だ。


 その名は、僕がメルディアの王子アレスだったころから何度も耳にしていた。


 帝国が誇る不屈の老将だ、と。


「査察じゃない。僕たちは援軍に来た」

「ええ。あたしは負傷兵の治癒と要塞の防御を、彼は敵への攻勢を――」


 フラメルが説明しようとしたが、ドルファ将軍はそれを遮るように口を開いた。


「お言葉ですが」


 鋭い目が、僕たち二人を忌々しそうににらみつけた。


「中央でのうのうとしている皇族に、最前線の我らの手助けになるとでも?噂に名高い【黒騎士】に【癒しの聖女】も、しょせんは噂に尾ひれがついただけでありましょう?」

「皇族が嫌いなのか、君は」


 僕はまっすぐに彼の目を見つめた。


「左様です」


 ドルファ将軍は傲然と告げた。


「以前、ジークハルト殿下がここにいらっしゃったことがあります。手柄が欲しかったのでしょうな。戦術をわきまえぬあの方のご命令で、部隊の半数は無駄死にしました」


 厳めしい顔に、憤怒の表情が浮かんだ。


 拳がわなわなと震えている。


「私は長年、帝国に仕えてまいりました。そんな中、何人もの皇族が戦場に立ち寄っては……下らぬ見栄や浅薄な戦術眼によって多くの兵を犠牲にするところを見てきました」

「僕らもそれと同じだ、と?」

「左様です」


 ドルファ将軍はまたも傲然と告げた。


「私の言葉が不敬であると感じるなら、どうぞこの首をお刎ねください。ですが、我が部下は一兵たりとも――」


 その眼光に、異様なほどの力がこもる。


「貴様らに犠牲にはさせん!」


 重い沈黙が、僕たちの間に流れた。


 彼の言葉は、ジークハルト兄上への怒りだけじゃない。皇族という存在そのものへの、根深い不信感に満ちていた。


「――なるほど、分かった」


 しばらくして、僕はうなずいた。


 ドルファはニヤリと笑う。


「ご理解いただけたなら何より。我らの邪魔にならぬよう、おとなしく帝都にお帰りください」

「そうじゃない。僕が『分かった』と言ったのは」


 僕もニヤリと笑みを返す。


「僕らと君の間に必要なのは信頼関係を築くこと。つまり、僕が力を見せればいい」

「なんだと……?」


 ドルファが顔をしかめた、そのときだった。


 一人の伝令兵が血相を変えて駆け込んでくる。


「敵襲です! 東門に敵の一隊! 数はおよそ一千!」

「いい機会だ。僕が蹴散らしてこよう」


 僕はドルファに向かって言った。


「……はあ?」


 眉根を寄せるドルファ。


「まさか単騎で一千の兵に立ち向かうつもりではありますまいな?」

「そう言っている」


 僕は城壁の端へと向かった。


「姉上、ちょっと行ってきます」

「クレストくん!? ち、ちょっと待って、この前の戦場とは全然違うのよ! 敵の数も、質も――」


 フラメルが慌てて僕を止めようとする。


 彼女の言う通り、ここは最激戦区の一つ。


 敵兵も、前回よりも猛者がそろっているだろう。


「だからこそ、僕の力を示すいい機会でしょう」


 僕はためらわずに城壁から身を躍らせた。


「馬鹿な! この高さから――」


 ドルファ将軍の驚愕の声が聞こえてくる。


 城壁の高さは十メートル以上ある。


 普通に飛び降りれば、ただでは済まない。

 だけど――、


 とん、とん、とんっ……。


 僕は落下しながら、城壁の凹凸を何度も軽く蹴り、衝撃を吸収していく。


 やはり、この【黒騎士】の身体能力は常人とはケタが違う。


 僕はなんなく着地すると、そのまま東門へと駆けだした。




 東門の前に、メルディア王国の兵士たちが押し寄せていた。


 報告通り、その数は一千ほど。


 彼らは巨大な破城槌を構え、城門をこじ開けようとしている。


 帝国の兵士たちは完全に及び腰の様子で、士気は低そうだった。


 これだけの劣勢では無理もないか――。


「クレスト・ヴァールハイトだ。全員、下がれ」


 僕は剣を抜き、兵士たちの最前列まで飛び出した。


「単騎で突っこんでくるだと! 舐めるな、射殺せ!」


 敵の指揮官らしき男が、僕に気づいて叫んだ。


 無数の矢が雨のように降り注ぐ。

 ――けれど。


 僕は一気に加速した。


 矢の雨を突っ切り、あるいは剣で斬り散らしながら、一直線に敵陣へと駆ける。


「ば、馬鹿な! 矢よりも速く疾走している――!」


 敵兵たちが驚愕の声を上げた。

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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