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88 最後の難所、要塞都市ビランジェ2

 僕たちはビランジェ近郊に広がる平原に陣を敷いた。


 対する王国軍は30万の軍勢。


「奴らがどう出るか――」


 僕は【鑑定の魔眼】を発動する。


 対人で使うときは相手の微細な筋肉の動きや呼吸の変化まで見切り、それによって次の攻撃を予測する……という使い方をしてきた。


 その対象を『敵軍』にしたらどうなるか――。


 軍略に関しては素人に近い僕だけど、彼らの陣形や各部隊の配置から、次の動きが予測できる。


「ナナハ・リゼは、敵の動きを先読みする用兵を得意とするそうだけど――そのお株を奪い、僕らが彼女の動きを先読みしてやる――」


 僕は指揮官たちに向き直った。


「ドルファ将軍、あなたが率いる主力部隊を右翼に配置してください。騎士団は左翼に展開。中央はあまり厚くしないように。魔法師団は僕の後ろに続いてください」


 おおまかな指示を出すと、僕は最前列に進み出た。


「いよいよね、クレストくん」


 隣にフラメルが立つ。


「あたしがサポートするからね」

「お願いします、姉上」


 言って、彼女の耳元に口を近づけ、


「信じています、フラメル」

「あたしもよ、クレストくん」


 フラメルも僕に顔を寄せ、


「愛する君を――必ず守ってみせる」


 僕の唇にかすめるようなキスをして、ささやいた。




 ――そして、いよいよ決戦の火ぶたが切って落とされた。




「では、作戦を開始します!」


 僕は朗々と叫んだ。


「帝国全軍、進撃開始!」


 最前列の部隊が進み始める。


 それを合図にしたかのように、


 ごおおおおっ……!


 轟音とともに王国の本陣から火炎や雷撃などの遠距離魔法攻撃が飛んできた。


 ――想定通りだ。


 僕は【吸収の魔眼】を発動する。


 その力で攻撃魔法をことごとく吸い込んだ。


「っ……!」


 以前レイガルドの戦いでこの【魔眼】を使い、僕は暴走状態に陥ったことがある。


 二の轍を踏むまいと、それ以来【吸収の魔眼】はなるべく使わずにいたんだけど――。


 久々に体感するこの【魔眼】――魔力を吸収するにつれて、全身に力が満ちていくようだった。


 ごおおおおおおおおっ……!


 王国陣からさらに追加で攻撃魔法が飛んでくる。


 今度はさっきよりも魔法の数が多い。


「だけど問題はない――フラメル!」

「任せて、【リアクトウォール】!」


 まずフラメルが防御魔法で飛んでくる攻撃魔法の威力を減衰させる。


 そのうえで僕が【吸収の魔眼】を発動し、すべての攻撃魔法を吸い込んだ。


 敵の手数が増えても、フラメルの助力を得れば【吸収】の負担は減らせるはずだ。


 さらに第三波、第四波――。


 次々に放たれる魔法を僕は【吸収】し続けた。


 おそらく敵側にも僕が【吸収】の能力を持っていることは分かっているだろう。


 だから、彼らとしては僕を暴走させるか、あるいは限界まで消耗させる狙いで撃ってきているんだろうけど――。


 あいにく、彼らの想定よりも僕の【魔眼】とフラメルの防御魔法は強力だ。


 と、そのとき――相手の敵陣に動きが見えた。


【吸収の魔眼】と並行して【鑑定の魔眼】も発動しているため、僕はその動きを即座に察知できたのだ。


 どうやら敵軍が突撃陣形に切り替えようとしているようだ。


 騎士団による接近戦を挑むということは、つまり魔法師団の魔力を相当消耗し、これ以上の大規模遠距離魔法攻撃が難しくなった、ということか。


 あるいはいたずらに魔法攻撃を続けていても無理だという判断か。


 どちらにせよ、これは好機だった。


「フラメル、伝達魔法で魔法師団に連絡してください。大規模攻撃魔法の一斉発射準備を進めよ、と」

「了解よ、クレストくん」


 僕の指示にフラメルがうなずき、先ほどの言葉を魔法師団の指揮官たちに伝える。


 ほどなくして、


 うおおおおおおっ……!


 鬨の声ともに王国軍がいっせいに突撃を始めた。


 30万の大軍の大半が向かってくる光景は、すさまじい威圧感がある。


 けれど、僕の心に焦りはない。


 不安も恐怖もない。


「むしろ、的が近づいてくれて助かるよ――放て」


 僕の指示をフラメルが伝達魔法で連絡し、


 きゅごごごごごごごごごごごごごおおおおおおっ!


 後衛から無数の攻撃魔法が、飛んだ。




 次の瞬間、王国軍は阿鼻叫喚に包まれた。


 さながら地獄絵図――。


 火炎に焼き尽くされ、稲妻に黒焦げにされ、風の刃でズタズタにされていく。


 ――その後も攻撃魔法の一斉発射をある程度続けたところで、僕はさっと右手を上げた。


「戦況の変化に対応できるよう、魔法師団の魔力をある程度残しておきたい。フラメル、攻撃を止めるように伝達を」

「了解よ」


 僕の指示を先ほど同様に魔法師団に伝達するフラメル。


 彼女は強力な治癒魔法や防御魔法だけじゃなく、こういった補助魔法全般に高い能力を持っている。


 特に伝達魔法は本当に重宝する――。


 僕も総司令官の立場になって、それを実感していた。


「ありがとうございます、フラメル」

「ん?」

「あなたの伝達魔法のおかげで、こちらは無駄のない効率的な攻撃ができていますよ」

「あたしだってクレストくんの役に立ちたいもの」

「いつも助けられています。あなたがいなければ、僕は――」

「助けてもらったのは、あたしも同じ」


 フラメルが微笑んだ。


「命を救ってもらったことだってある。だから、あたしも君を支える。あたしの力の全てを尽くして」


 真摯な顔で、フラメルは宣言した。

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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