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2話

 リリーはすくすくと育ち、8歳になった。ますます愛らしさに磨きがかかり、日々私を癒してくれている。

 父さまは帰宅後、一通の招待状を私達に見せた。


 「これは何?」

 「今度王家主催のお茶会がある。と言っても子供だけの簡単な物だが」

 「お茶会……。ではこの招待状は私とリリーに?」


 二人揃って呼ばれたと言うことは、リリーも招待を受けているに違いない。子供だけのお茶会と言っていたし、堅苦しいものではないのだろう。さしずめ、良家の顔合わせと言ったところか。

 父さまは肯定するように頷いた。そしてその視線をリリーに向ける。リリーは8歳の子供らしく好奇心旺盛で、活発な女の子になった。目を離すと興味が湧いたものに突撃して、周りをハラハラさせている。

 まあ、そんなところも可愛いのだけど。


「リリーなら私が見ているから大丈夫よ。ね、リリー?」

「はい、姉さま!」


うん。良いお返事です。さすが私の――(以下略)!


 「そうだな。サラが一緒ならば問題ないだろう。……お前は私たちが驚くほどしっかりしているから」


 父さまと母さまは動き出すのも言葉も早かった私を、気味悪がることなく愛情深く育ててくれた。

 私が私という存在だと認識したのは生後半年ほど。周りの大人たちの会話を聞いて言葉を学習したが、声を言葉として発するのには苦労した。なにせ口が上手く動かないのだから。

 同様に歩くのにも時間が必要だった。これは単純に筋力が足りなかったせいだと思っている。

 まあ時間が掛かったと言っても、同年齢の子供と比べるとかなり早かったのは間違いない。リリーの成長を間近で見てきたのだから、自分が異常だったのは変えようのない事実だろう。


 「ええ、安心して父さま。リリーに害虫は近づけさせませんから」

 「ははは。サラは本当に頼もしいな」


 私の天使に近付く不埒者は切って捨てる。リリーに恋なんて早すぎるわ、せめて後10年は一番近くで愛でさせて!


 お茶会の日、今日は生憎の雨ということで室内に。集まった子供は下は8歳、上は第一王女のカナリア王女殿下12歳。カナリア殿下はずっとニコニコしている。その両脇に居るのは二人の弟殿下。私と同じ今年10歳の第一王子殿下のアルフォード殿下は、つまらなそうにツンッと横を向いていた。

 なんだ、あれか?反抗期ですか?

 弟の第二王子殿下、確か名前はギルビック殿下。御年8歳のなかなか可愛らしい王子様だ。不安そうにカナリア殿下のドレスの裾を握りしめ、落ち着きなくキョロキョロしている。

 お茶会に参加するにあたり、ちょっと勉強した。バーハード家が王家の血を受け継いでいると言っても、王族だったお祖父様は私が生まれる前に亡くなっている。

 お祖父様は先王の母違いの末弟で、お祖母様と恋に落ちて爵位を与えられ、臣下に下った。仲睦まじい夫婦だったと、二人を知る人は皆口を揃えて言う。それは自宅に飾られた二人の肖像画で見てとれた。

 

 「お初にお目にかかります。バーハード公爵の娘、サラ・バーハードと申します。こちらは妹のリリアベルでございます。本日はお招きいただきまして誠に感謝いたします。カナリア王女殿下、アルフォード王子殿下、ギルビック王子殿下」

 

 子供だけのお茶会とはいえ、バーハード家の名に傷が付いてはいけない。私は子供ながらに必死だった。カナリア殿下は一瞬きょとんとしてにっこり笑った。


「丁寧な挨拶痛み入ります。サラ様はおいくつですの?」

「今年10歳になりました」

「まあ!アルと同じですのね!バーハード家と言えば私達の親戚なんですもの、そんなに緊張しなくてもよろしいですわ」


「よろしいですわ」と言われても、産まれて初めて会う王族に親戚だから気軽にね、と言われて出来るはずないし……。

 困ったときは笑うに限る。私は精一杯の愛想笑いを披露した。


「姉さま、お腹が空きました」


 私のドレスの裾を引っ張って、上目遣いで訴えるリリー。そう言えば朝食べたきりでお昼は未だだった。

 バーハード家のあるリステリア領から王都までは馬車で二時間程掛かる。遅れないようにと早めに出てきたから、リリーがそう言うのも仕方のないことだ。


 「気が付かなくてごめんなさいね、リリー。カナリア殿下、御前を失礼致します」

 「気になさらないで。リリアベル様、楽しんで下さいね」

 「はい、カナリアさま。ありがとうございます。失礼いたします」


 リリーは恭しく頭を下げ、私と手を繋いでテーブルのある方へ歩き出す。私は離れた所まで移動すると、リリーをぎゅっと抱きしめた。


 「丁寧な挨拶、偉かったわ。でもね、お話している時は我慢しなくてはだめよ」

 「はい。ごめんなさい、姉さま」


 ああ、しゅんとしたリリーも超絶可愛い。でも初めてのお茶会で良く頑張っていると思う。本当に偉い。そんな想いが溢れ出て、思わず抱きしめる腕に力が。


 「姉さま、痛いです」

 「あら、ごめんね。さ、頂ましょうか」


 二人で席に着き、お茶を頂きながらちらりとカナリア殿下達を観察する。引っ切り無しに次から次へと人が挨拶に来ていた。しかし良く見ると挨拶じゃなく、自分を売り込んでいるようだ。上手くいけば王家と縁ができるかも、とか思ってるんでしょうねぇ。取り巻きも大変だ。


 「アホらしいわね」

 「同感だな」

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