後はあなた達の仕事です
キリーさんの決定は、前進だった。
「本当に行くんですか?」
「ランちゃんとなら、行き着くところまで行けるよ。きっとね」
自棄になってなければ良いんだけどね……。
実際チャンスではある。魔物達は恐怖して、僕達から逃げる者まで出る始末。ここで行かなければ、また大立ち回りを演じなければならない。
それに、どちらにしろ僕は奥まで行くつもりだ。今行くか、後で一人になってから行くか。労力の面から考えるなら、行くべきなんだろうね。戦力的にも、キリーさんがいてくれるなら心強い。
「わかりました。それなら、急ぎましょう」
減らした魔物の数が戻る前に、最奥部まで到達してしまいたい。
「頼りっきりだけど、お願いするね」
方針は決まった。早速魔力操作でスピードを上げ、走る。魔物は邪魔をする者だけ片付けて、先へ進む事を優先した。
そうして急ぐと、どうやら近くまでは来てたみたい。既に三時間以上潜ってるしね。ともあれ、僕達は最奥部に到達する。
真っ黒な立方体のある行き止まりへと。
そこでは重力が正常な方向に戻った。一番奥の壁に近付くにつれて重力の向きが変わって少しずつ斜めに、やがて奥の壁が下になる向きへ。
ロランシルトの魔穴でもそうしたように、魔力の流れを辿る。そうすると中央に向かっているので後を追った。立ち塞がる魔物達を倒しながら進み、持久力の不安を覚え始めた頃ようやく見えて来た中心部には、立方体が浮いていた。
あの時の球体同様に光を照り返さない黒。その輪郭から立方体だと知る事は出来た。今回は低い位置に浮いてる。僕の胸の高さだ。大きさは一辺が一メートル程度。
キリーさんは興味津々に見つめている。
「これ、何だろ?」
そう言って、そっと指先で触れようとした。
「危険ですよ」
手首を掴んで止める。
魔導器から魔力を奪おうとしたんだ。きっと直接触る事でも奪われる。もしかしたらそれ以上の事だって起きるかもしれない。例えば、魂を引っこ抜かれるとか。
そんな危険な事はさせられない。
キリーさんはびっくりした様子で僕を見る。
「魔力がここに流れ込んでるんです。触ったら、魔力を奪われますよ。それどころか、魂だって危ないかもしれません」
「ご、ごめん。迂闊だったね」
とか言いつつ、僕は魔導器ぶっ刺すけどね!
「ちょ、えー!?」
さすがに驚かせちゃったか。でもそんなに時間をかけてられないと思うんだ。
魔物達が黙ってるとは思えないから、ここまでの魔物は殲滅した。でも、あくまでもここまでだけだ。距離はあるけど遭遇出来てない魔物がまだいる。その群れが来る前に片付けてしまいたい。
剣からは前回同様魔力を奪われ始める。その魔力を操作して侵攻開始。けど、今回は様子が違った。弱くない、と言うより物量が違い過ぎる。奪われないよう抵抗はするけど、それで精一杯だ。攻めに転じられない。
これはまずいぞ……。
「何してんのランちゃん!」
「魔力が足りません。このままでは、じり貧で……」
額に汗が噴き出す。さっきの戦闘どころでない包囲の厚さに、じりじりと押し込められてる。剣は引き抜けず、消す事も出来ない。
このままだと魔力を奪い尽くされてしまう、取り込まれて全て失う事になる。その時僕は、無事で済むだろうか。
「ランちゃん、魔力操作は受け入れられれば他人に使えるよね?」
「はい、そうですけど……?」
「なら、私の魔力を持っていけない? ランちゃんの中に」
……おお、なるほどー。許可さえあれば、他人の身体をも扱えたんだ。魔力そのものを扱えない道理は無いね。
キリーさんの魔力さえあれば、何とかなるかもしれない。
『そういう事ならば、我の魔力も使え。四神に奪われはしたが、人族並みには残っておるからな。それで足りるか?』
「良いんですね?」
「もちろん!」
『無論よ』
「感謝します!」
キリーさんに手を伸ばして、その手を握る。一方でファリアに意識で手を伸ばすようにして、繋がりを持とうとする。
そして魔力を借り受ける。
「私を受け取ってね」
『我も受け取れ』
君らね。
「気が散るでしょ!?」
全くもう。それじゃ、もらうからね。
一気に抜くと危ないかもしれないから、ゆっくり移動させて剣へ。立方体の中で戦うこちらの勢力に少しずつ増援を送り込み、今はひたすら耐えさせた。籠城戦の構えだ。
「うわあ……。何か、変な感じ。心地良い脱力感って言うのかな。ランちゃんが優しくしてくれてるからかもね」
『こちらはもっと直接的だからかのう……。お主にまさぐられておるようでな……ああ、得も言われぬ心地よ……』
ちょっとファリアさあん!? こんな時に卑猥過ぎません!?
『仕方なかろう、我とてこのような……ああ……』
無心になろう、無心に。
……今後も借りれたら、なんて思ってたけど、これは却下だなあ。
ところで僕も、不思議な心地だ。二人に励まされているような、背中を守ってもらってるような。そんな心強さがある。負ける気がしない。鼓舞されて、勇気付けられてる。
これならやれると、強く思った。
籠城戦で消耗を抑え、充分なだけの魔力を投入した。ここからは攻めも行う。
守りの一部をわざと開けて誘い、囲い込んで取り込む。上手く機能する事を確認したら誘い込む穴を増やし、敵勢力をどんどん削った。
勢力は増えてるけど、思考力は大して変わってない。次々削っては取り込み、こちらの勢力を増やす。そうして次第に立方体の瑠璃色が拡大し、黒は駆逐され、やがて占める割合が逆転する。
そんなところで魔物の姿が見え始めた。おびただしい数の魔物が集まって来ている。走り、或いは飛び、僕達を殺そうと包み込むように迫っている。
キリーさんはそれを見て、表情を引き締めた。
「ランちゃん、ちょっと行ってくるよ。この黒いのを青く出来れば、ランちゃんの勝ちなんでしょ? だったら、邪魔なんてさせない」
離そうとする手を、僕はしっかり握った。一人であの数と戦うなんて無謀はさせられない。冗談じゃない。
それに。
「多分、ここまで来れませんよ。もう、終わりにします」
魔力を網の目のように広げさせ、包囲から殲滅。次々こちらの色に染め上げた。一気に勝負を仕掛けて瞬く間に黒を駆逐して行く。
そして最後の最後。角に残った僅かな黒も、瑠璃色に染まった。その瞬間、立方体が強い光を放つ。瑠璃の輝きは周りの黒を塗り替えて、何もかもを染め上げる。その光に触れた魔物は一瞬で、塵にもならずに消滅した。手前から奥へと、波が広がるように消え去ってゆく。キリーさんはそれを唖然と眺めた。
光は壁を駆け上がって行く。僕達の足元にもあったたくさんの顔は、全て笑顔に変わっていた。そして聞こえなかった声が聞こえ、僕達は喜びと感謝の言葉に包まれる。光の中に消えゆく彼らは一様に幸せそうで、一目で救えたんだと理解出来る。
見上げた先には鮮やかな青い輝きが何処までも続いて、まるで空に浮かんでいるように錯覚する。
そして空の中央に一際輝いて見える光に、僕は魔導器を掲げた。
「後はあなた達の仕事です。奪い取ったその地位とその役割、しっかり果たして下さい」
刀身に光は集束し、あの時と同じように長大な刃を形作った。そしてたくさんの魂達を乗せて、天高く舞い上がる。
光り輝く、ソールに向けて。
これで二ヶ所目。僕は感慨深く思いながら、ソールを見上げた。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 四
筋力 六
敏捷 一六
魔力 二〇
魔導器 属性剣 【取得可】
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍 【取得可】
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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