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中をね、覗きたいんだよね

 谷と呼ぶ程深くはない大きな岩石と岩石の間を進んで行く。魔力感覚で構造と魔物の位置を正確に把握し、僕はその情報から適切なルートを選んで先導するだけだ。戦闘はルート上どうしても避けられない時や、奇襲だけで終わりに出来る時くらい。


 道中は極めて順調。こうなるとこの起伏の激しい……と言うか凸凹が極端過ぎる地形は僕達に有利だったね。進むのに時間がかかるくらいで、特に問題も無いまま目的地を目指せる。


 魔穴の位置はこれまでの調査ではっきりしてる。端末の地図に印を付けてもらってるから、その南側へ回り込みつつ魔物を避けて向かった。


「魔力感覚って、すごいんだね……」


「便利ですよ」


「話には聞いてたんだけどさ。こうして一緒に行動してみると実感するよ。やっぱりランちゃん誘って良かった」


 こういう複雑な地形の場所では猛威を振るうね。


 さらには魔力操作による身体操作も活躍する。岩石の高さは大体五メートル前後。この程度の高さなら、跳躍を持たないキリーさんでもジャンプで上に跳び乗れた。一人ずつに使う事で魔力操作の影響を最大限受けられる。そうするとキリーさんは僕より少し重い程度だからか、そのジャンプは充分な高さだった。


 そうして山のような岩石の上へ身を隠して、魔物をやり過ごす事が出来る。通り過ぎるのを待っても良いし、反対側へ飛び降りても良い。もちろん、上から奇襲する事も可能。


 ただし、ずっと上にいる事はなるべく避けた。空を飛べる魔物もいたんだ。鷲か何かの魔物や人と鳥を合わせたような姿のハーピーが見えていた。さすがに距離があるから魔力感覚も無力。見つかると面倒な事になるのは明らかだったから、空の魔物は徹底して避ける。幸い数は多くなく、見つからずに進むのはそう難しい事でもなかった。


 そんなこんなで、僕達はここでも順調に歩を進めた。







 岩の上からその穴を眺める。大地にぽっかりと開いた穴は、ロランシルトで見たものに比べると遥かに小さい。何せあちらは反対側どころか、本当に穴なのかどうかも良くわからない広さだった。それを思い出せば、反対側の見えてるこちらは小さいと言わざるを得ない。


 けど、あちらと違ってこちらは進行形で魔物が這い出していた。……本当に這い出て来てるし。そんなに深くないのかな。それとも重力とか関係無い?


 この状態だと、近付くのはちょっと危険過ぎる。


「どうします?」


「んー……。中をね、覗きたいんだよね。でも、難しいね」


「ですねえ」


 うじゃうじゃ湧いてるわけじゃないんだけど、途切れないんだ。途切れないから数が揃う。揃ったら何処かへ出発する。その繰り返しがあちこちで行われてる。殲滅なんて到底不可能だし、覗き込む隙なんて無い。近寄ったら襲われるだろうし、戦闘になれば集まって来るはず。そうなれば多勢に無勢で押し潰されるだけ。


 とりあえず僕は動画を撮影してる。魔物の出て来る様子はこれでわかるはずだ。既に誰かが撮ったとは思うけどね。


 キリーさんは歯がゆそうな様子で魔穴を見つめた。


「しばらく様子を見るね。途切れるか、勢いが弱まるかするかもしれないから」


「了解です」


 ただし、場所は変えた。ここだと飛ぶ魔物には丸見えだ。岩山は複雑な形をしてるものもあるから、段になってる場所に潜んでクロークを二人でかぶった。色が暗い茶色だからちょうど紛れて迷彩になる。


 大きさは、急遽買ったから僕に合わされてない。でもそれが功を奏して、二人でもすっぽり覆い隠せるサイズだ。


「私が羽織って、ランちゃんを隠すね」


 桃色の髪をフードで隠し、僕を後ろから包んで隠す。二人羽織りですか……。


 ぴったり密着されるけど、胸当てのおかげで柔らかい感触は無い。ほっとしたような、残念なような。


「あ、胸当て無い方が良かった?」


「大丈夫です!」


 耳元でそういう事言う?


 まあ僕も男だし、どちらが良かったかと言えば……ねえ。でもそうなったらそうなったで気恥ずかしくて落ち着かないから、胸当てがあって良かったんだよ。


 後ろからくすくすという小さな笑い声が聞こえた。







 空を飛ぶ魔物の動向にひやひやしながら隠れていると、チャンスは思いの外早くやって来た。


 念のためと耳に付けていた集音の耳飾りがその音を聞き付ける。金属のぶつかり合う音に雄叫び、悲鳴、時折雷か何かのような魔術の音。それは戦闘の音だ。


 方向は北西、そう遠くない距離で誰かが戦ってる。


 魔穴から這い出す魔物達はそちらに引き寄せられ、流れ始めた。出て来る場所もそちらに寄り、南側は少しずつまばらに、やがては現れなくなった。


「やった、今なら行けるね!」


「急ぎましょうか」


 クロークをすぐに仕舞って、魔力操作を使いながら降り立つ。そして魔穴の縁まで静かに、けれど出来る限り急いで向かう。


 魔物達は戦闘の気配に気を引かれてこちらに気付かない。僕の魔力感覚にも引っかかる反応は無く、何事も無いまま到着出来た。膝を突いて身を屈ませ、二人で縁に手をかけてそっと覗く。


「うわあ……深いね。それに、何だろ……。黒い? 何か動いてない?」


 剣をホルダーから引き抜いて刀身を発生させ、放り投げる。魔力操作の有効な範囲の端まで飛ばし、照らした。


 そこには一見、何も無い。でもよく見ると、壁が僅かに蠢いていた。ここからだと詳細まではわからない。照らされた黒い壁が揺れるように動いてる事だけが、見て取れる情報だった。


 撮影はしてるけど、近くまで行かないとこれ以上は調査出来ないね。


「ランちゃん、荷物出してもらって良い? 杭とロープを持って来てるんだ」


 あらまあ、準備の良い事で。魔穴の調査だってわかってたから、それくらいは当然か。


 鞄からは短めの杭数本と五十メートル程度の細いロープが出て来た。キリーさんはロープに杭を取り付け、穴に垂らす。魔力操作でサポートすれば、間違っても落ちたりはしないで済むね。


 安全のために、まずは僕から。ロープを掴んでするすると下りる。けど、十メートル程のところで異変が起きた。


「わ! ……え、は?」


 僕の身体が、壁面にべったりとくっ付く。まだ土の壁なんだけど、そこへ引っ張られるように密着した。


「何!? どしたのランちゃん!?」


「あー……何と言うか。ここ、重力の方向が変わってます……」


 要は、壁面に落ちた。ロープをそっと放したら、僕は壁に垂直な体勢で立つ。そして顔の引きつりを感じながら笑った。


 キリーさんの顔はぎょっとしてる。こちらから見ると、崖下から覗き見てる形だね。


 しかしこれはまた、奇妙な事になってるな……。




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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