私はキリー・マークス。よろしくね
戦士ギルドは貴族地区へ入る南門から通りを挟んだ南東にあった。
広い敷地は鉄柵に囲われ、中を覗くと訓練場のような広場が見えた。そこでは対人の模擬戦が行われているところで、木製の武器を持った戦士達の戦う姿が窺える。教えてる人もいるようで、ちょっとした戦闘技術に関する教室が開かれてる一角もある。
そんな光景を眺めながら敷地内の北西部、一番手前に位置する大きな建物へと歩いて向かい、その中へと足を踏み入れた。
最初に見えたのは酒場の光景。幾つも並ぶ円形のテーブルでギルド所属だろう戦士達が賑やかに食事やお酒を楽しんでる。二階まで吹き抜けのそこは開放感ある広々とした造りで、壁際にある階段を上がる事で行ける二階部分から見下ろせるようになってた。
漫画とかアニメとかだと酒場ってどんちゃん騒ぎで騒がしかったりする事もあるけど、ここは割と節度のある感じ。何て言うんだろ……あちらの居酒屋? 皆ちゃんと座って飲んでて、騒々しいとは感じない程度の賑わい。お客はプレイヤーもこちらの人もいると思うんだけど、元々こうなのかプレイヤーの影響なのか。
ともあれ、酒場には用が無い。階段の手すりに受付が上にあると案内する札がかかってるので二階へ。一段ずつ上がって行けば、酒場の全体が徐々に見えて来る。今は昼前くらいの時間だからか結構な人数だ。
不意に、ごっという音が後ろからした。振り返って見れば頭を押さえてうずくまった若い男性がもう一人の中年男性に怒られてる感じ。目が合うと何でも無いと言う風に手を振られた。
小首を傾げて……傾げたね。本当に傾げてた。無意識だよ……。
とりあえず軽く会釈して階段を上る!
何だったんだろ?
『くくく……。大方、お主のスカートの中でも覗こうとしておったのだろう。この短さだからのう』
えー……。じゃあ、怒ってた人は止めてくれたんだ? お礼言えなかったね。
『お主は気付かなかったのだ。それで良かろ』
そうかなあ。まあ、また会えたらお礼言おう。
二階は階段から繋がる手すり側、酒場を見下ろせる辺りが待合所になってる。長椅子が幾つも並べてあって、そこで待ち合わせだったり時間潰しだったりしてて良いみたい。待合所を挟んだ階段の反対側には掲示板が幾つか見えた。行って眺めてみると、依頼やギルドからのお知らせ、町からのお知らせなどに分かれてるのがわかった。
最近起きた事の掲示板も設置されてて、そこにはロランシルトでの戦いの事やアーシルトで発見された迷宮の事が貼り出されてる。魔穴の事を知らせる掲示物は無い。無かった事にするのかな。それとも単に情報が遅れてるだけ?
あれは特に広める必要の無い話だけどね。発見から消滅までが短くて、知ってる人がほとんどいない情報だ。そして既に過去の事。
僕としても変に広まって、辿られて行き着かれたら面倒だしね。このままの方がありがたいかな。
依頼の掲示板も覗いてみた。けど素材集めの依頼が主で、例えば護衛とか荷運びとかの依頼ってイメージぴったりのものは一つも無い。人気だから無くなっちゃうとか?
さて、受付に行こう。待合所の正面に広くカウンターがあって、そこで職員らしき制服姿の人達が対応してる。白いワイシャツに藍色のジャケットとネクタイ、スラックスやスカート、それに革靴という装いだ。まるでお役所。酒場からのこの違いは何?
でも温度差があるって雰囲気には感じない。明るく受け答えしてくれてるし、杓子定規じゃなくて個人の裁量での対応がここでは当たり前みたい。
聞いた特徴の職員を探すと、ローズクォーツのように綺麗な瞳と視線が合う。桃色の髪を白いリボンでポニーテールにした、愛嬌のある顔立ちの美人さんだ。背は高くもなく低くもない。若干垂れ気味の大きな目で微笑みかけると、彼女は僕に手招きした。
ちょうど空いたのかな? 彼女の前からは数人のグループが離れて行ってる。次の人もいないみたいだし、呼ばれてるから行ってみた。
「いらっしゃい。どんな用事で来たのかな?」
「もしかしてキリーさんですか? ゲイルに紹介されて来たんですけど」
「そうなの? ゲイルなら確かに知り合いだよ。私はキリー・マークス。よろしくね」
「ランと言います。こちらこそよろしくお願いします」
……ん? マークス? 何処かで聞いたような……?
「紹介で来たって事は、登録するので良いんだよね?」
「しないでも良いんですか?」
「しないままでもギルドは利用出来るよ。ただその場合は信用して仕事を任せられないから、紹介出来る依頼が掲示板にあるものだけになるね。素材の買い取りは普通に対応してる。依頼に興味の無い人は登録しないで利用してるよ」
ほうほう、そういうシステムなんだ。登録して信用を得れば報酬の良い依頼を紹介してもらえるとか、そんなやり方なわけだね。実際、信用出来ない相手に仕事を任せられるはずがないし納得だ。
でもこのシステムで、人手って足りるのかな。
「報酬の金額は結構違うから、お金を稼ぎたいならした方が良いと思うよ。それと魔術ギルドとも提携してて、魔道具の作成依頼はこっちからでも出せるね。その時にかかる作成手数料が幾らか割引されるよ。ギルドへの貢献にもよるけど登録した時点で一割、最大で二割まで引かれるね。魔道具の価値で手数料は決まるから、良い物を作ってもらう程費用がかさんじゃう。魔道具の購入にも割引があって、これも作成手数料と同じだけ割り引かれるよ」
魔道具関連は登録一択か、納得。これなら登録したくなるね。特にプレイヤーなら攻略情報とか仕入れられるし、そしたら魔道具なんて最初から念頭に置くはずだもの。
高いらしいからなあ。その値段を少しでも下げられる上に依頼をこなした報酬で稼げるんだから、登録しない理由は無いか。
「他にも馬車とか装備の修理とか色々優遇されるんだけど、どうかな?」
「お願いします」
「了解。それじゃ、端末のステータス見せて?」
え。
ゲイルー、聞いてないよ? 見せたらやばいでしょ……。
僕の顔色が変わった事に気付くと、キリーさんはにやりと笑う。
「なるほどね。それでゲイルは私を紹介したわけか。ランちゃん、任せて。絶対、誰にも漏らさないから」
そう言えば、ゲイルもレジーナさんも信頼出来るって話してた。あれってこういう事なの? 話しといてくれれば良かったのに、意地悪。
……からかったのは僕が先だった。ごめんよ。
そういう事ならと、端末にステータスを表示させて見せた。キリーさんはそれを覗き込んで、まず一言。
「男の子だったの!?」
まあ、そこからだよね。わかってた。
苦笑いで察してくれたのか、それ以上は追及されなかった。
「……あー、納得したよ。うん、これは私で良かったね。わけわかんない……」
恩寵でしょ? そりゃそうだよ。
キリーさんは所定の書類に情報を書き移し始める。ただしその情報は正確じゃない。魔力は十五とされたし、恩寵なんて欄すら無い。IDは書く場所があって、これはそのまま書かれた。
その書類を一旦手渡され、確認するように言われる。このつもりでいるようにって事かな? 恩寵はそもそも極秘事項だし、気をつけるのは魔力くらいだね。
階級三の能力値合計は三十五になる。僕は三点多いから、その分引いた数字を魔力に書いたんだろう。人前では気にした方が良さそう。
まあ最悪、魔力の回復方法を見つけた事話すから良いけどさ。
書類を返したら端末は回収。キリーさんは後ろ側、事務所になってるそちらから人を手招きで呼んで、僕の書類を新規登録として渡す。その職員さんはさらに奥へと向かった。
「登録した証明の認識票を作るから、少し待ってね。その間に守って欲しい事とか注意点とか説明しようか」
との事なので話を聞く。
大雑把には、常識的な行動を心がけていれば問題無い話だった。特別行動を縛るような内容も無く、疑問に思うところも無い。依頼についての事も依頼人によってまちまちだったりするようで、その都度説明してくれるという。
そんなわけで、さして気にしておくべき話も無かった。気楽で助かるね。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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