魔道具を作るのだ
僕がASを始めて一週間が過ぎた。
……まだ、一週間だった。四倍速って偉大だ。
そしてまだトリシアに辿り着けてない。今日は到着するよね?
二十時のログインだと、アルスでは朝の八時だ。今はヒルダ様の姿が無く、隣の部屋にホークさんもいない。辺りには誰もいないみたいね。
『ほう。これは好機ではないか?』
好機? 何の?
『魔道具を作るのだ』
おお、なるほど!
でもどのくらい時間かかるかな?
『大してかからんぞ。三十分もあれば充分であろう』
それなら大丈夫かな? 来てるのは今のところゲイルとレジーナさんで、リーフが来てない。揃ってないから問題無いよね。
それじゃ、ぱぱっとやっちゃおうか!
まず、ふわりとファリアが飛び出した。そして部屋にあるソファへ腰掛ける。
「ではここに、全て出すのだ」
目の前のテーブルをぽんぽんと叩いた。端末のインベントリを操作して、風盾の魔石と風属性のミスリル、そしてミスリルの腕輪を出現させる。
次に、ファリアは僕の魔導器を要求した。
「魔石を少々加工する。ついでに内側の魂も解放してやらねばな」
そうだった。もしかして、他の魔石にも入ってるのかな?
剣を渡せば、その刃を器用に持って魔石を削り始めた。腕輪の台座に合わせて加工してるみたい。器用だね……。
削る事で出た魔石の粉末は、端から消えてしまってる。ファリアと二人で驚いた。ゴミにならなくて良いね。魔力感覚で微小なエーテルへと変わってるのがわかる。
ついでに他の魔石も出せば、彼女が確認してくれた。こちらの二つにも魂が入ってるそうだ。けど加工は見ての通り魔道具とする本体に合わせて行うから、今は下手に弄れないらしい。
「ま、お主が持っておるなら大丈夫だろう。そっと撫でるようにして、いたわってやると良い。気持ちが伝わるやもしれん」
そういうもの? それぞれの魔石を優しく撫でてあげると、内側で魔力の動きが穏やかになったような気がする。
これからも暇な時はこうして、撫でてあげると良いのかな。
「もうしばらく待ってて下さいね」
完全にこちらの都合だから、申し訳ないんだけどね。
この二つを使う本体も、早いところ見つけてしまおう。そしたら解放だけ先にしてあげられる。
ちなみにブーレイの魔石は黒の中に緑が宿る大きめの物、シュテンの魔石は真っ黒な小さめの物だ。この色とか大きさとかも何か意味があるとは思うんだけど。誰かに聞いてみようかなと考えたところでそれが起きた。
「ほう!」
ファリアの声でそちらを見ると、ちょうど魔石からするりと魔力反応が抜け出るところだった。魔石の青はそのままに、内側にあった魔力の反応だけが抜けて浮かび上がる。目には見えないけど、これが魂なのかな?
その反応はゆらゆらと漂って、僕達にじゃれ付くような動きを見せた。ファリアは笑顔を見せて撫でるようにし、僕は唖然としてされるがままだった。感触は無い。
そしてそれはゆっくり薄れ始めて、やがて消えてしまった。
「ふふ、礼を言っておったぞ」
「消えてしまいましたけど、闇と精神の領域に?」
「うむ。無事に向かった」
良かった。これでまた一つ、魂を救えたんだね。
「こうなると、残りの二つも早く解放してあげたくなりますね」
「何、焦る必要は無い。お主がそうしてやっておれば、居心地も良いだろうよ」
そう? それなら嬉しいんだけど。
「ふむ、これで良かろ。さあ、始めるぞ。お主はエーテルを集め、自分の魔力も限界までここに出して留めるのだ」
そっか、周りのエーテルも使えるんだよね。当たり前だ。
多い方が良いそうなので、一旦ふらっと出かける。そして魔力感覚でエーテルを捉え、魔力操作で集めた。それを持って帰ったら僕自身からも魔力を引っ張り出して、まとめ上げて束ねる。
「大きさはどうします?」
「腕輪が包める程度だな。厳密でなくて良いぞ」
じゃあ、少し広めで。
テーブルの上に置かれた腕輪を包むように魔力を留める。すると魔力が腕輪に、正確にはそのミスリルに流れ込み始めた。少しずつ染み入るように注がれてる。
そこへファリアが風のミスリルをゆっくり近付けた。風のミスリルの纏う魔力が抜けて僕の魔力の方へ、腕輪の方へと流れて行くのを感じる。
「何ですそれ?」
「属性の力を移しておるのだ。魔力の流れの良い素材という物は、魔力を引き付ける物でもある。そしてその力は秘める魔力の強さに比例して大きくなる。お主の留めておる魔力が腕輪のミスリルに力を与え、風の魔力をこちらのミスリルから集めているのだ」
「そういう事なんですか!?」
「風の素材にこのミスリルを選んだのも、そこに理由がある。ミスリルは魔力の通りが良い素材だ。つまりこのミスリルには、風の力がよく集まっておるというわけだの」
ほーっと納得しながら眺める。風のミスリルは力を奪われて、魔力の無いミスリルに変わった。そこでそれを脇に置いて、ファリアは魔石を腕輪の台座に触れさせる。魔石はそこへしっかりとくっ付き、台座にぴったりはまり込む。まるで磁石がくっ付くかのようにして、かちりと密着した。
留めている魔力は時間をかけてじわじわと腕輪に吸収されてる。腕輪の中を循環して魔石にも通っているようで、全体が僕の瑠璃色に輝く。やがて魔力は一部を残して収まり、輝きも内側へと消えた。これ以上は流れ込んで行かない。
「完成、ですか?」
「うむ、出来ておるぞ」
うん、不思議だ。ともあれ腕に付けてみた。大きさ的に二の腕がちょうど良い。金具でぱちんと留める形状の物で、若干まだ余裕がある。でも肘は通らないから、ずり落ちたりはしないね。
魔石は腕輪から外れないみたいだ。魔力感覚でわかったけど、物理的にじゃなくてエーテル的にくっ付いてる。エーテル的に結び付いて一体化してる。
黒の中に青のある魔石を外側へ向け、ファリアに見せた。
「よく似合っておるぞ」
「えへへ……」
ちょっと照れ臭い。
そう言えばと、思い付いた事がある。
「魔力操作があるからこうして魔力は集められましたけど、無かったらエーテルの濃い場所で行うんですよね? どんな場所なんですか?」
大気中のエーテルはソールが世界に撒いてる。なのに濃い薄いがあるというのも変な話だなと疑問に感じたんだよね。
この質問に、ファリアはにやりとして答えた。
「生命を葬った場所、つまり墓場よ」
「えー……」
微妙な顔をしてると彼女はくつくつと笑う。
「魂は巡るが、肉体は残る。これをどう葬ったとしても、そこにはエーテルが残る。少しずつ拡散して大地や大気に宿り紛れてゆくが、かつての人族はこれを魔道具に用いた。形見として持ち続ける者が多かったの」
あー、形見か。その考え方は良いかも。
「他には戦場なども利用しておったの。こちらはさすがに非難の対象であったが、戦時においてはそれも許された。我としては既に魂などそこに無いのだから、好きに使えば良いと思うておったのう」
ドライな事で……。
ともあれだよ。とうとう僕も魔道具を手に入れた。風の盾が使えるはずだ。
「魔道具の扱いについて、改めて話しておこう」
との事なので、レクチャーを頼んだ。
まず、魔力は内部に蓄積したものを使う。蓄積させる方法はエーテルにさらす事。つまり外に干すのが一番手っ取り早い。洗濯物かな。
使い方は魔導器とほぼ同じ。思うだけで発動出来る。触れている必要がある事だけ、魔導器とは違った。
魔道具の耐久性は、本体に用いられる物に当然左右される。破壊されると魔力が漏れ出てしまうため、修復は不可能。ミスリルなら相当頑丈だから、ひとまず心配は要らないそうだ。
「ま、そんなところであろうか」
「またわからない事があったら聞きますよ」
「そうだな。我らは常に一つ。いつでも聞けるからの」
そういう事。
ファリアは僕に手を触れ、すっと近寄って唇を奪う。そしてそのまま中へと戻った。くつくつ笑う声が、しばらく頭の中に響く。
……もう! またそうやって不意討ちするんだから!
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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