いやあ、貴族って本当に面倒臭いもんですね
「ヒルダ、久しぶりね」
そう言って姿を現したのは、長い金髪のほっそりとした美人だった。優雅に歩く姿はヒルダ様と真逆に楚々としていて、妖艶さなどは全く感じられない。お綺麗なんだけど何処か冷たい印象のある女性だ。
「お久しぶりですわ、母上」
露骨に嫌そうな顔を見せるヒルダ様。声も少し棘があり、バルディア様をお父様と呼ぶ一方で彼女は母上と呼んでいる。その距離感が、二人の関係を表しているように感じた。
あまり、仲は良くなさそうだね。経緯を聞いたから当然だとは思うけど。
「単刀直入に言うわ。ゴラースティン家の次男に嫁ぎなさい」
「お断りですわね」
「あなたはもう二十歳。いつまでも独りでいるわけにはいかないのよ」
「それは母上の価値観ですわ。それにゴラースティンは家格こそ同じ子爵家ですけれど、シルエレートとは常に反目し合う間柄。そのような家に嫁げとは、一体どういうおつもりですの?」
またレジーナさんが補足説明してくれた。レジーナさんも気遣いのお人だ。感謝!
ゴラースティン家とはランドバロウ伯爵領の南方面を任されてる貴族で、シルエレートと同じく武門の家柄。ただ、事あるごとにシルエレート家と衝突するライバルみたいな貴族のようで、関係は良くないらしい。
そんな貴族との縁談を持って来た背景には恐らく放浪者が関わっている、と話したのはホークさん。武門の家柄にもかかわらず放浪者に良いところを持って行かれがちな現状において、両家はいよいよ反目し合っている場合ではないと関係の改善を図るつもりなのだろうと、ホークさんは分析した。
そこで白羽の矢がヒルダ様に立った、というわけだ。
確かにこれは、両家のためにはなるんだろうね。でも多分、ヒルダ様のためにはならない縁談だ。彼女が自ら望まない以上、僕は何とかしてあげたいんだけどなあ。
従者如きが口を出す問題じゃないんだよ。もどかしい。
『奇妙な話だ。この娘は近衛騎士なのであろう? それが家の事情に縛られるのか? そのような事で勤めが果たせるのか?』
あー……確かに。
その辺どうなの? とホークさんに確認。するとこれはファリアの言う通りで、実のところヒルダ様の扱いはシルエレート家から独立していた。ただし伯爵家としてはこの事が元で各貴族家との関係にひびが入るのを恐れていて、関与しないのが通例になっているのだそうな。
という事は、だ。
「……わたし次第?」
そういう事。
ヒルダ様はリーフの近衛騎士。リーフが直属の上司。リーフが駄目と言えば、この縁談は絶対に通らない。
けれどそれはシルエレート家やゴラースティン家との間に溝を作りかねない言葉だ。良い話なのにそれを伯爵家が阻んだとあっては、両家に不満が生じる。シルエレート家はバルディア様がヒルダ様寄りっぽいから大丈夫かもしれない。しかしゴラースティン家はそうも行かないはず。
いやあ、貴族って本当に面倒臭いもんですね。
「リーフ様。ここはわたくしに」
「……ヒルダは必要。許可しない」
ばっさり言った。リーフに怖い物なんて無かったみたい。僕は辛うじて笑いを堪えたけど、ゲイルはそんな事しようともせず大笑いした。止めてたヒルダ様も、唖然とはしながらその表情が笑みに変わるのを必死に留めてる感じ。
でも、良いのかなあ。
「リーフ様! これはシルエレート家の問題です! ゴラースティン家も黙ってはいませんよ!?」
「メリダ、諦めろ。それにシルエレート家の問題だと言うのなら、決めるのは俺だ。シルエレート家はリーフ様の言葉を受け入れる。この話はここまでだ、良いな?」
バルディア様の言葉にメリダ様は悔しそう、と言うより無念そうな表情を見せた。聞いた彼女の人となりから察すれば、彼女なりに家の事を考えた結果の事。だったらそれは無念なはずだ。
でもこれはヒルダ様の人生に関わる事。人を物のように扱う貴族の考え方なんて、現代日本を生きる僕達には到底受け入れられない。
だからかリーフは見事に斬ってくれたね。自分次第だとわかった彼女の決断の早さは、考えてないんじゃないかってくらい即断だった。
いや、多分考える必要なんて無かったんだ。彼女の中でははっきりと受け入れられない事が決まってて、単にヒルダ様の問題だと思っていたから口出ししなかっただけなんだろうね。
僕なんて受け入れられない事はわかってるのに、相手の事情も理解出来なくないからってぐだぐだ考えてた。この差は大きいなあ。素直に格好良い。
でもメリダ様はまだ諦め切れない様子だ。尚も言い募る。
「きっと、ゴラースティン家は納得しませんわよ、あなた」
「どうとでもなる。第一、伯爵家の不興を買ってこのランドバロウにいられるか? 気に入らないなら本国へ帰れと、そう言われて帰れるか? 本国にはランドバロウに来たがっている貴族が長蛇の列を成しているのだ。代わりなど幾らでもいる。ゴラースティンがそれを理解しない程に愚かだとは、俺は思わない。この話は無かった事になる。そうする以外に無いんだ」
「ゴラースティン家は、確かに愚かではないわ。けれど、蔑ろにされた事を我慢出来る程大人しくもないのよ。きっと、伯爵家に何らかの形で報復するわ。……リーフ様、お考え直し下さい。この縁談は必ずランドバロウのお役に立ちます!」
「……無理」
「そう仰らずに!」
だんだん可哀想になって来たよ。でもリーフの決定だからね、仕方ないね。
しかし……大人しくない、か。何とも、嫌な予感しかしない言葉だよ。僕も巻き込まれるのかなあ。
リーフもヒルダ様ももう他人とは思えないから、何かあれば協力するけどさ。貴族絡みの面倒事は、出来るだけ避けたかったな……。
その後、僕達は二つに分かれて部屋に入った。もちろんリーフ組とヒルダ様組。ただしホークさんはこちらだ。理由はログアウトの関係。放浪者の僕達がログアウトすると、残されるのはヒルダ様とホークさんの二人だ。次のログインまでは、ホークさんがヒルダ様に付き添う。
そんなわけでこのメンバーだ。
「シュテンの時以来ですね」
「そうだな。あの時はここまで深い関わりになるとは思わなかったが」
「寝室はわたくし達が使います。あなたはこちらを使いなさい」
「はっ。心得ております」
いや、ナチュラルに僕を連れ込まないで!? 普通に引きずられてるんだけど!?
やっぱりヒルダ様、力強いよ……。
「ホークさん見てないで助けて!?」
「ははは。しっかりヒルダ様に楽しんでいただきなさい」
見捨てられた! あんまりだー!
……意外な事に、節度は守って下さいました。色々、色々されたけども……。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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