縁談を持ち込んで来たのですわね?
話の内容はロランシルトでの事が多い。主にヒルダ様が話し、ホークさんが補足している。魔穴の事は、ヒルダ様からは特別話を振らなかったけど、お父様らしき体格の良い赤髪の男性から振られた。
これに対し、脅威は去ったとだけ話す。それで納得出来る話のようで、お父様が頷いた事で魔穴の話題は終わった。
以降は、これから通る予定の増援に来ている戦力への対応はマグヌス様がやるとか、戦争によって減った戦力の程度だとか、そういった話が続く。南の鉱山についても事態は沈静化出来たそうで、ヒルダ様も一安心といった様子だ。
結局場の荒れるような事は一度も無く、身構えていた僕としては拍子抜けのまま報告などが終わった。
それからは列を成していた貴族達の挨拶。こちらが難儀だった。リーフやヒルダ様への婚姻の話が嫌になる程繰り返されて、リーフの方はホークさんがしっかり対応してるんだけど、ヒルダ様は本人が対応しなきゃいけない。
僕は手で制されてしまったので、口を挟む事すら出来なかった。それをしたら厄介な事になるだけだから、やるつもりは無かったけどね。
あまりしつこいようだとお父様が一応声をかけてくれて、それで何とかしてた。やっぱり大変だね、貴族って。
ちなみにヒルダ様の機嫌はすこぶる悪くなってる。笑みは浮かべてるけど、すごく仮面だ。怖い。
そんな事があってから、僕達は上階のサロンへと通された。そこでようやく一息吐いてる。ソファに座ったのはリーフとヒルダ様だけ。他の四人は近くに控えて立ったままだ。
「ああいう事は、俺達には無理だからよ。助かったぜ、隊長」
「ふ、お前にあれをこなす事など期待していない」
「言いやがる」
楽しそうじゃないのさ。
引き続き召使いさんがお世話してくれるみたい。お茶を全員に出してくれた。レジーナさんに声をかけられて、まずは僕と彼女が一口いただく。もしかしなくても毒見? 異常が無い事を確かめたところで、他の四人も口を付け始めた。
召使いさんの手前でどうなのと思わないでもないけど、これが当たり前なんだそうで。
壁際には他にも召使いが何人か控えていて、僕なんかはちょっと居心地悪いんだけど皆慣れてるみたい。伯爵令嬢に、伯爵家を守るための従士だもんなあ。ヒルダ様は生まれ付きの貴族だし。
そんな事を思ってると、お父様と思しき先程の男性がやって来た。さっきまでよりは幾分砕けた様子で挨拶の言葉を口にする。
「リーフ様、ありがとうございました。粗相はありませんでしたかな?」
「……大丈夫」
「粗忽者ばかりで、お恥ずかしい限りです」
苦笑いで軽く赤髪の頭を下げている。感じの良さそうなお方だね。
「ヒルダも、済まなかったな。どうしてもと聞かんのだ」
「まあ、ここへ来る以上は覚悟しておりましたわ。けれどわたくしが剣を抜かなかったのは、ひとえにリーフ様の御前だからですわ。そうでなければ腕の一本や二本は」
「いや、一本で勘弁してやってくれ! 仕事が出来ん!」
思わず吹き出しかける。何とか堪えたけど、ゲイル達は普通に笑ってた。笑って良かったんだね。貴族相手だとどうにも勝手がわかんないよ。ヒルダ様はもう慣れたと言うか、結構はちゃめちゃな方だからね。振り回されてる内にそういうのは飛び越えちゃった。
ところでまだお名前を聞けてない。勝手にお父様認定してるけど、これも確定してないな。従者が直接尋ねるのも駄目だし後でヒルダ様に聞こう。
「そうだ、ヒルダ。その娘はお前の従者か? 随分と可愛らしい者を連れていると、気になっていたのだ」
「わたくしの従者にして、夜の相手ですわ」
むせた。勝手な設定付け加えないでもらえませんかね!?
「冗談ですわ」
「お前は相変わらずか。その娘の事、快く思ってはいるのだな」
「もちろんですわ。けれど色好い返事をくれないんですの」
「わ、わたくしはただの従者でございますれば、お嬢様のお相手などとても……」
「同性同士でというのはなかなかなあ。気が向いた時にでも、構ってやってくれれば良いぞ」
「は、はあ……」
反対側でにやにやしてるゲイルを殴りたい。
ところで、とお父様は話を変える。表情は柔和なままで眼差しだけが真剣みを帯びて、何か面倒な事や厄介な事に巻き込まれる気配がひしひしと感じられた。
「お前が望まない事だと常々言い聞かせているのだが、メリダがな……」
「縁談を持ち込んで来たのですわね?」
「うむ……」
ほーら来たよ。勘弁してくれないかな……。
ヒルダ様が僕に補足説明してくれた。
まずこの男性はやっぱりと言うか当然と言うかお父様で、お名前はバルディア・シルエレート様。代々武門の家系であるシルエレート家に生まれて当主の座に就いたお方。かなりお強いらしい。
ただし彼にも弱点があって、それがメリダと言う今の奥方様。後妻らしく、ヒルダ様との血の繋がりは無い。
メリダ様は決して悪い方ではなく、聡明な方でよくバルディア様を支えているそうなのだけど、良くも悪くも貴族的な考えの持ち主。つまり、娘は他家との繋がりのための道具であるという認識のお方なのだそう。
それは前妻の娘であるヒルダ様に対してでも同様で、事あるごとに何とか婚姻を結ばせようと躍起になっていると、そういう話だった。
この場合、貴族としてはメリダ様の方が正しいというところが厄介なんだね。子供であろうと貴族の家に生まれた以上は家の繁栄のための道具に過ぎない。だからヒルダ様が今のお年……二十歳らしいよ。若い! でも、貴族としてはこの年まで独身でいるのは許されない事だった。
そんなわけできっとまた何処かから縁談の話を引っ張って来ているだろう、とバルディア様は仰った。
「わたくしはリーフ様の側近ですわよ? そのような勝手など許されませんわ!」
今度はレジーナさんがそっと来て教えてくれる。申し訳ない!
側近とは言っても当然それは本来の肩書きとは違う呼び方で、ヒルダ様はリーフの『近衛騎士』に当たるらしい。この『近衛』と言う言葉、発音は『このえ』ではなく『きんえい』。『近く』で『衛る』、と言う意味なのだそう。これはこちらの言葉を日本語に翻訳する際にこの文字が当てられたという設定で、ちょっとややこしい事になってるみたい。
しかも『このえ騎士』は、本国に存在してるというからさらにややこしい。『近衛』と言うと、本来は王様や王族を守る人達だ。だから仕方なくプレイヤー達は『このえ騎士』と『きんえい騎士』とで使い分けてるそうな。
そうは言っても『このえ騎士』は本国にしか無い。だから『近衛騎士』と書いたら、このAS内ではほぼ『きんえい騎士』の事になる。
そんなわけで、ヒルダ様はリーフの近衛騎士。そば近くで衛るための騎士だ。
……度々リーフがお忍びで出かけるせいで、置いてきぼりになる事が多いそうなんだけども。可哀想に。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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