……恐るべきは神人のもたらした魔術とやら、か?
斜面を走って、従士達は爪痕へ下りて来る。それを魔力感覚で確認しながら、僕は先行するゲイルを追った。爪痕に落ちた魔物達は二十から三十というところ。こちらと同じか少し多い。
けれどゲイルにしても従士達にしても、怯む事無く当然のように飛びかかって行く。
「手前ら邪魔だ!」
とかのたまいながら。惨い。
ツヴァイハンダーで頭をかち割られたオーガ、ブロードソードで心臓を一突きにされたオーク、薙刀で良いようにあしらわれたヒュージスパイダー、そしてミノタウロスも弓と大鎚の前に沈む。
先行してた僕も刀身を飛ばす事で二匹程片付けて、見回せば制圧が終わっていた。戦闘向きの人員を集めただけあって、瞬く間の事だった。皆さんお強い。
ゲイルは再び走り出す。大剣を肩に担いで鎧を揺らし、がしゃがしゃと騒がしく斜面を上った。そうすれば本陣までに遮るものなんて無い。とは言えここは敵軍のど真ん中。後方の左右から、魔物の群れが戻って来ている。
「二パーティ残って、それぞれ足止めに当たれ」
「任せろ」
「こっちは私達がやるよ」
決断は早い。すぐに左右へ散って戦闘を始めた。その間に僕達は先を急ぐ。
敵本陣からは屈強なオーガの一団が駆け込んで来る。幾らかの武装を備えた彼らはオーガソルジャーと言うようだ。階級は五。ホブゴブリンファイターと同格。それが八匹。
「ちっ、案外やる連中じゃねえか。仕方ねえ、全員残れ。ラン、お前は俺に付き合ってもらうぜ」
「はいな」
「美味しいとこを持って行かれるのは癪だが、仕方ない。ボスは任せるぜ」
「やっつけちゃえば、駆け付けて良いんでしょ?」
「おう。待ってはやらねーがな」
従士達が攻撃を仕掛け、その隙にゲイルと僕は駆け抜けて進む。何とか追い縋ろうとした一匹に刀身を飛ばして牽制し、べえっと舌を出して離れた。
「やばい可愛い」
「あれはずるいわ」
何か聞こえたけど無視!
辿り着いた本陣には、例のオーガ以外にもう一匹魔物がいた。
「ここまで来るとは。……恐るべきは神人のもたらした魔術とやら、か?」
人の言葉を発した魔物は、まさに悪魔と言った姿だった。額にねじれた太く黒い角が一対あり、青銅の肌は夕日のようなソールの光を受けて尚深く緑に近い青のまま。根源的な恐怖を思い起こさせる顔立ちは不快そうに歪み、瞳の無い黒の眼で僕達二人を睥睨した。
翼は無い。身体は細く締まった筋肉に覆われて、スマートな印象。背丈は隣のオーガよりは低く二メートルに少し届かない程度。見た目の威圧感はそれ程でもないのに、纏う空気が風格を伴っているように感じた。
端末を見れば、そこにそれぞれの種族と名前がある。
オーガはレジーナさんが言い当てた、オーガキング。個体名は無いけど、ブーストと言う表示がある。階級は六。
悪魔はレッサーデビル。個体名を風盾のグリズール。ユニークだ。階級は五と、オーガキングに一つ負ける。
「強えのはオーガキングか。だが、厄介なのはレッサーデビルだな」
「階級六のブーレイには、剣が全く通らなかったんですよね……」
「なら、レッサーデビルに当たってみるか? 尻爆散の犬っころに比べりゃ、まだ何とかなんだろ」
「ブーレイって呼んであげて下さいよ……」
もう可哀想で可哀想で。
「お前が言うかよ」
「爆散させた張本人ですけど何か?」
「酷え」
まあ、それは置いとこうよ。今はこの二匹だ。妙な事を言ってたよね。
「神人、ですか」
「今奴が言ってた事か。どういう意味だ?」
「くくく……。自分達の崇めている神々が元は人族であった事など、やはり忘れ去っているようだな。思い上がった者どもが本来の神を追い、神を騙り、世界の摂理を阻んでいるなどと、貴様らには不都合極まりない事実であろう。その思いは理解出来る。都合の悪い事実を伏せ、隠し、ねじ曲げて書き換える。貴様ら人族のお家芸というわけだ」
「あー、これよ。撮影してんだが、公表して良い類いの話か?」
「まず運営に送って、聞いてみたらどうです?」
「おう、そうすっか」
「……何だこの温度差は」
悪魔さん……グリズールだっけ? 戸惑っちゃったじゃないの。ちょっと不憫。
魔物達は四神を神人って呼んでるんだね。確かに元々人だったわけだし、ファリア達姉妹神と分けて呼ぶにはちょうど良い呼び方かも。
『馬鹿者。四神も今は立派な神なのだ。半端者のように言うその呼び名を使うなど言語道断よ』
そう? ならやめとこ。
一匹だけ蚊帳の外にいるオーガキングが、そろそろ痺れを切らした。何事かグリズールに喚くような声をかけ、腰の剣を引き抜く。それに対してグリズールも言葉を返し、こちらへと視線を戻した。
「お喋りの時間はここまでだそうだ。如何に言葉を交わそうと、我らと貴様らは相容れぬ存在。戯れの時は終わりとし、惨たらしい死と永遠の束縛をくれてやろう」
「お、やる気になったか。色々聞き出してえとは思ったが、戦いを終わらせる方が先だしな。始めようぜ」
戦争が終わるのは、早ければ早い程良いからね。僕も賛成。
ゲイルはツヴァイハンダーを振りかざし、僕も光の刀身を作り出して構える。
オーガキングは好戦的な笑みを浮かべて大剣を高々と掲げ、グリズールは鋭い爪を煌めかせて手を広げる。
一対一で対峙する組み合わせはゲイルと話した通り。僕が睨み合うのは悪魔のグリズールだ。
「愛らしき者のか弱き喘ぎは、さぞかし甘美であろうな」
「……どS?」
「何?」
「嗜虐的って事です」
「ほう? 新しい言葉か。ならば、その通り。我はどSよ」
ぶふっ。
ちょっと。その口調と雰囲気でその言葉を口にするのは卑怯。シュール過ぎて笑うじゃないのさ。
「失礼。似合わなかったので」
「ふむ、そうかもしれんな」
指摘したら普通に認められた。自分でもそう思っちゃったのかな。
「お前ら隣で面白い事すんのやめろよ」
ごめん。
しかし、何でこんなに締まらないんだろう? このところずっとこうな気がする。
……このところじゃなくて、昔からかも。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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