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僕を受け入れて下さい

 エーテルによって霞む地平の先に、雲霞の如く見え始めたものがあった。既に物見の兵士がその接近を告げていて、誰もが緊張した面持ちで遠くを見据えている。兵士達はこれから始まる殺し合いを思って精神をすり減らし、プレイヤー達は一大イベントの開始を予感して逸る気持ちを抑え込む。


 対照的な二者の間にあって、僕もようやく腹が据わって来た。


 結局来るものには対抗しなきゃいけないし、犠牲も避けられない。命は奪われても、魂を奪い返せば存在そのものは救える。最低限のところでは守れる。それで良しとするしかないんだよね。


「それで、ゲイル。この可愛い子は?」


「俺の古いダチよ。学生時代によくつるんでた奴でな」


「はあ!? お前確か三十路越えてたろ!?」


「うっそだろ!? この子これで一回り年上かよ!?」


「ついでに男だぜ」


「マジ?」


「マジで」


「男の娘かよ……!」


「女の子過ぎだって……!」


「これはやばい。扉が開く」


 開くな。


 今更ながらに周りにいる従士のプレイヤー達がゲイルに質問してた。別に同い年な事も男な事も隠すつもりは無いから構わないんだけどさ、それがわかってるからほいほい答えてるんだと思うけどさ!


 まあ、いいか。


「スカート短過ぎておみ脚がやばい」


「待てよ? ゲームでは男だろうと、アレは無いな……!」


「お前天才かよ」


「ちょっと変態ども。自重してよね」


「女性プレイヤーもいるって事、忘れてない?」


「いや、俺達はほら、可愛い男の子を愛でてるだけなわけでして」


「それもまた背徳感が仕事し過ぎる台詞だな」


「この子……じゃなかった、年上だった。彼はリアルでも当然この容姿なんだよな?」


「やべえな」


「可愛い男の子は好きだけど、ちょっと女の子過ぎるなあ」


「お前の趣味からは外れてるよな」


「あんたに私の何がわかる」


「半袖短パンの似合う美少年」


「くっ……!」


 大丈夫なのかな、この従士隊……。







 さて、中世時代のヨーロッパを題材にした映画なんかじゃ軍勢が対峙すると色々作法もあったりして、そんな場面が描かれていたけども。


 魔物達が作法なんて、持ち合わせてるわけがないんだよなあ!


「行くぞ、手前ら! 俺の魔術を合図に続け!」


 おう、と返事が響き渡り、ゲイルが魔術を発動させる態勢に入った。


「ラン、手はず通りやるぞ!」


 脇構えに大剣を持つその後ろに立ち、風を纏い始めた長い刀身に手を向ける。手の平に瑠璃色の光が宿り、ふわりと柔らかに溢れた。


「ゲイル、僕を受け入れて下さいね」


「何阿呆な事言ってやがんだ?」


「魔力操作は、許可を得ないと他の人に使えないんですよ。ですから、僕を受け入れて下さい」


「言い方」


「僕を受け取っ」


「喧しいわ! 許可してやるから、とっととしやがれ!」


 怒られちった。でも許可はもらった。さあ、上乗せしてみようか。


 外へ放出した魔力は当然三点。これをツヴァイハンダーが纏った魔力五点の風に込め、混ぜ合わせる。ゲイルの魔力へ僕の魔力がゆっくりと、染み入るように溶けてゆく。初めには絡み合い、すり合わせるようにし、次第に境目が無くなって一つとな……この表現は良くない。やめよう。


 ともあれ多少時間が必要だったけど、ゲイルの魔力に僕の魔力を込める事は成功。目には見えていなかった渦巻く風が瑠璃色に輝いて膨張した。


 驚きのあまりに従士達は一歩離れる。でもまだこれからだ。まだ魔術は放たれていないんだから。


 魔力は上手く混ざっている。ゲイルと僕とで制御しなければ荒れ狂って抑えられないけど、何とかなってる。これならいける!


「ゲイル! いつでもどうぞ!」


「はは、こいつはすげえぜ!」


 押し寄せる魔物の軍勢へ、後衛部隊からの攻撃は既に降り注いでいる。矢の雨が僕達前衛の上を飛び越えて、或いは幾多の魔術が空けられた隙間を通り抜けて魔物達を襲う。けれどそれをものともせずに、おぞましい怒涛が眼前まで迫った。


 ゲイルは一歩、その左足を大きく踏み出す。そして次の右足を踏み出すと同時、大剣を横薙ぎに振るう。


 次の瞬間その場にいた全てが、時でも止められたかのように動く事をやめた。響く轟音ともたらされた影響だけが、その中で時を刻んでいた。


 それは衝撃波だったのだと思う。けれど瑠璃色の輝きを宿して迸ったそれは、光の塊にも見えた。ただしあまりにも巨大で、及ぼした被害は甚大。僕達まで後数歩のところに来ていた魔物達は全て吹き飛び、一瞬で姿を消した。大地は抉れて長く爪痕が刻まれ、そこに何匹もの魔物の落ちる姿が見えた。


 そして、一際大きな哄笑。


「うはははははははははははは! 何だこりゃ、滅茶苦茶じゃねえか! 何匹逝ったよ、手前ら!? もう一発くれてやろうか!」


 魔物達は、明らかにゲイルを怖れた。一睨みだけでじりと遠ざかり、逃げ出す者まで出る始末。


 たったの一撃で、軍勢の士気は大いに削れたようだった。


「撃て! 手を休めるな!」


 兵士長の誰かが叫ぶように声を上げた。確かにそうだ。今は圧倒的な好機。撃ち込めるだけ撃ち込んで、数を減らせるだけ減らさなければ勿体ない。


 再び矢と魔術が降り注ぎ始め、同時に従士達も同様に攻撃し始めた。


 その弾幕をにやにやしながら眺めるゲイルの隣に立ち、見上げる。


「もう一発、ですか?」


「いや。俺達の前は手薄になっちまった。さっきみてえな効果は上がらねえだろ」


 ざっとだけど、二百近い魔物が消え去ったはずだ。扇状に広がった途方もない風は僕の魔力感覚が届く倍程の距離まで達したように見えた。偵察で見た隊列と同じ程度の密度だと考えて、大体それくらいの数が巻き込まれてるはず。


 まあ、いい加減な目見当だから信頼性は全くもって無いけど。


 従士隊の前、つまり中央だ。そこには明らかに穴が開いてる。谷みたいだ。魔物達はそこを避けるようにして、左右へ分かれてしまっていた。


「それにやりてえ事もあるしな。……見ろよ。本当に真ん中を食い破れそうじゃねえか」


「なるほど、確かにそうですね」


 抉れた大地の爪痕の向こうに、敵本陣が見えていた。距離はおよそ二百メートル強。護衛の姿はあるけど、数は少ない。


 深い爪痕の中を通る事にはなるけど、真っ直ぐ向かう事が出来るはずだ。そこには落ちた魔物達がいるから戦って通らなければならない。でも上を通るよりはずっと数が少ないから手早く片付けてしまえる。そうすれば、あっという間に本陣だ。


「野郎ども、行くぜ!」


 ゲイルが示した先は当然、爪痕の中。その意図を察した従士達は口元に笑みを浮かべて続く。


 その中には苦笑いの僕も含まれていた。




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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