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北の地に、『魔穴』が開いたそうで

 着ていた服は補修してくれた。ヒルダ様に愛でられてたら終わってた。ああ、メロメロになるー……。


 とりあえずシルクのワンピースは物が良過ぎて勿体ないので、元々の服に着替えた。靴は後で、お店に行って買おう。


 そうそう、着替えなんだけど。インベントリ使うと滅茶苦茶早い。選んで装備ってやるだけで切り替わってくれた。重ね着設定とかも普通に出来るし、やっぱりこれ便利だよ。


 さて、それじゃトリシアを目指そうか。ゲイルと合流したいんだよ。


「行くんですのね」


「はい。トリシアに行きたいんです」


「それならまた会う事もあるかもしれませんわね。普段はわたくしもトリシアにおりますの。楽しみに……」


 なんて話をしていたら。


「これはこれはご婦人方。本日も麗しゅうございますな」


 あの太ましいスキンヘッドの貴族が現れた。


「あら、ブローデン男爵。ご機嫌のようですわね」


「もちろんですとも。美しいご婦人方の姿を眺めていれば、世の全てが素晴らしく見えましょう」


 胡散臭さがすごい……。にやにやしながらヒルダ様の身体を上から下まで舐め回すように眺めて、さらにその隣にいる僕の事も同じようにする。ぞわっとした。視線がいやらしくて口元もゆるゆる。わかり易く、ろくでもない貴族だ。


 関わりたくないよ。逃げて良い? 早く旅立たせて。


「可憐なお嬢さん、私はマグヌス・ブローデン。男爵の位をいただく者だよ。君の名を尋ねても良いかな?」


「ラ、ランです」


「ラン、と言うのだね。愛らしい響きだ」


 にまあ、とした笑みでこちらを眺めている。その視線が脚に留まると、表情はさらにだらしなくなる。


 えーと、控えめに言っても気持ち悪い。少しは隠したり取り繕ったりしようよ。


「はあ、男爵……」


 ヒルダ様が溜め息吐いた。


「あなたが好色なのは今に始まった事でもないのですし大目に見ますけれど、わたくしの客人に向けて良い視線ではありませんわ」


「おっと。これは失礼致しましたな。ラン、済まなかったね」


 おや、顔が引き締まったよ。ちゃんとする事は出来る人? まあ、好色な人間の全部が全部駄目なわけじゃないか。ちょっと安心した。


 でも普段からしっかりしてて欲しいなあ。今のは無いと思うの。


「それで、何かありまして?」


「伝令から話は聞かれましたかな?」


「まだですわね」


「北の地に、『魔穴』が開いていたそうで」


「何ですって!? では、やはり……」


「過去の例の通りですな。関連はあるのでしょう」


 何の話? と言うか、僕が聞いてて良いの?


「それで、ホークは何と送って来ていますの?」


「かなり大きい、と。それに、魔物の数も相当との事。特にオーガが組織立っていて、危険性が高いと報告にはありましたな」


「……まさか、シュテンはただの足止め? 目を集めて留め置くための、囮だったとでも言うんですの!?」


 何か、雲行き怪しいね……。


 察するに、僕達が戦ったよりももっと北にやばいものがあった。そういう事? シュテン倒して終わった気になってたけど、まさか始まってもいない?


 ……トリシアに向かってる場合じゃなさそう。


「マリシエントへ連絡を! すぐにでも兵を派遣させなくては!」


「それは難しいでしょうな。マリシエントは南の鉱山が一部崩落して魔物が現れたとの報告を受けて、そちらへ兵を出したと聞いております」


「鉱山が!? 悪い事が重なりますわね!」


「戦士ギルドと魔術ギルドには話を通してあります。けれど魔術ギルドは、素材不足で上手く動けないかもしれませんな」


「全く、何て事……! 仕方ありませんわ。領庫を開き、素材の買い取り価格を引き上げて掻き集めなさい。魔道具の作成を急がせますわよ」


「それしかありませんな。ホークは帰還次第トリシアへ向かわせます。あちらで戦力を集めさせましょう」


「従士を何人か欲しいところですわね。ゲイルとレジーナに連絡出来れば……!」


 ん? ゲイル? 知り合い? 従士だって言ってたし、それもそうか。


「ゲイルなら、僕の端末で連絡出来ます」


「本当ですの!? 頼みますわ!」


 タイミング良かったね。もう少し遅かったら、僕向こうに出ちゃってたし。


 さて、ゲイルは……いたいた。日曜だから来てるね。


「ゲイルー」


「よう。順調かよ?」


「ヒルダ様が呼んでますよ。音声入力で繋げますね」


「おいおい、何であいつと一緒にいるんだよ? まあいいか、繋げ」


 というわけでヒルダ様、どうぞ。


「ロランシルトの北に魔穴が開きましたわ! 魔物の軍が編成されている動きもありますの! 閣下に報告をお願いしますわ! それから戦力を!」


「わかったわかった、落ち着け! 良いようにはしといてやるからよ。持ち堪えて、待ってろ」


 何だかとんでもない事になって来たね。魔物が多いとは今言ってたけど、軍なんて言えるレベルに来るの確定なんだ。


 当然たくさんの兵士で迎え撃って、たくさんの人が亡くなるんだよね……。戦争になるんだ。


「こんなに早く連絡が取れるなんて! ラン、感謝しますわ!」


 抱き締められた。顔が、顔が幸せ……! 不穏な話にちょっと沈んだ気持ちが吹っ飛んじゃったじゃないのさ。


 まあ、それで良かったのかな。やらなきゃやられるだけだし、軍なんて規模の魔物をプレイヤーだけで押し留める事なんて不可能だ。何もかも、もう避けられないんだ。


 ……ところで、リーフ様もログインしてるね。ちょっとメッセージ送ってみようか。


「お疲れ様です。リーフ様は今、どちらにいらっしゃいます?」


「……後四、五時間でロランシルト」


「そのロランシルトで魔物との戦争が起きそうです」


「……すぐ行く。それと、リーフで良い。……友達だから」


 どうしよう、女子高生と友達だって! 嬉し怖し。


 リーフ様……じゃなかった。リーフは大丈夫だと思うよ? でも周りはそう思わないでしょ? ずっと年上の、世間一般ではおじさんと呼ばれる年の男性と


『ぶほっ』


 ……何さ。


『お主の容姿でおじさんと言われてものう、くくく……』


 年齢的にはそうなの! 仕方ないじゃん!


『気にするだけ無駄よ。お主はあの娘より年下に見えるのだぞ? 見た目ならば年相応の二人よ』


 そうかもしれないけどさ! 年齢詐称みたいで、もっと危なくないそれ!?


『くくく……! お主、我を笑い死にさせる気か! 存在が年齢詐称とは……!』


 誰もそんな事言ってないってば! 酷い!


 でも否定出来ない! 辛い!


「えっと、了解です……。でも、人前では勘弁して下さい。リーフは伯爵令嬢なんですからね」


「……知っちゃった? 仕方ない、我慢する」


 我慢して。


 これでリーフにも話が行った。後は特に、出来る事無いかな?


 ……あ、靴は買いに行っとこう。この靴じゃ戦えない。




 革のショートブーツ一足、大きな銅貨五枚だった。ちょっと良い物で、丈夫且つ柔軟。




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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