……これも、神の配剤という事ですのね
何て答えようか。あんまり嘘ばっかり並べるのも好かないんだよね。だから出来るだけ本当の事を話して、確信部分を巧妙に隠したい。ファリアの事を話せばどうなるか、全くわからないんだから。わからない以上、少しの危険でも避けておきたい。
それにはどう話せば良いかな。
「東に、行きました」
「東……。このロランシルトよりも東、ですの?」
「はい。東で、人に会いました」
「その者から聞いた、と言うのですわね?」
「信じていただけないかもしれませんけれど、そうです」
全く巧妙じゃないね! 僕には無理だったよ!
でも嘘は言ってないもんね。人……あ、そこは嘘か。人じゃなくて、元神だから。
まあ大した問題じゃない。あまりに嘘臭いって大問題の前には霞む。
「……その話が本当だとして、その方は放浪者かしら?」
「それはわかりません。見た目では区別出来ませんので」
「そうですわね。聞いて確かめていないのであれば、判断は出来ませんわね。それで、混沌について他に何か聞かされてますの?」
滅茶苦茶聞いてる。でも、話して大丈夫な事かな? 生命には精々終末の破壊を先延ばしにする事しか出来ない現状を知ったら、絶望しちゃわない? 魔物に殺される度に魂は奪われてしまうから、その絶対数は常に減り続けてる。この世界は、必ず滅びを迎えてしまう。その先には新しい世界が待ってるけど、今を生きる人達にとっては残酷な話だ。
そんな世界の理を聞いて、認められる? 信じられる? 信じたとして、絶望せずにいられる? これまで通りにいられる? 僕達プレイヤーと違って、この世界に生きてる彼女が?
……話さない方が良いように思えるなあ。
でも、伝えるべき部分はある。
「混沌は終末の破壊をもたらすもの。避けるためにはこの世界の誰も魔物に殺されない事が肝要だと、そう聞いてます」
「誰も殺されない事、ですの?」
「はい。それ以上の事は……」
首を振る。『知らない』、『聞いてない』って事のように見えるはず。でももちろんその意味は、『言えない』って事。
ずるくて申し訳ない! でもきっと、話さない方が良い事だから! ごめんなさいね!
「それはつまり放浪者の力を借りて戦えと、そういう事かしら」
「確かにそう取れますね。僕達なら殺されても大丈夫ですし。積んだ経験を幾らか失いますが、完全に死んでしまうわけではありませんから」
「……これも、神の配剤という事ですのね。そのためにあなた達放浪者が来たと、わたくし達はあなた達に頼らざるを得ないと。そんな話ですのね」
ヒルダ様は口惜しげに、その優美な表情を歪めた。
戦いの場に参じていた事からわかるように、彼女は守るために戦う事を良しとする人なんだろう。その志がまるで否定されるかのような僕の情報には、思うところがあって当然だ。
誇り高い貴族であるなら、悔しいに決まってる。
ところで、信じてもらえてるって事? まあ、仮に嘘だとしてもあんまり変わりが無い話だとは思うけど。結局魔物とは戦わなきゃならないし、その相手をするのはプレイヤーである事が望ましい。真実でも嘘でも、そこは変わらないんだ。
僕が言葉で、明確にしちゃっただけで。
そう考えてみると、失敗だった? 酷い話だったかな。
「話は理解しましたわ。けれど放浪者だけで全ての民を守る事は不可能。結局わたくし達のやるべき事は変わりませんわね。ただ、これまで以上にわたくし達自身の命は重いと、心がけておきますわ」
そうしてもらえると嬉しいかな。ファリアの言う通りなら、こちらの人達は殺されたらそれで終わりのはずだ。魂を取られちゃうんだから。僕達と違って死に戻りで復活なんてしないわけだよ。
そんな事にはなって欲しくない。だからプレイヤーにどんどん頼って、仕事を回して欲しいね。もちろん報酬が無いと引き受けないと思うけどさ。頼りきりになって依存してしまうのは問題かもしれない。でも生命が殺されて魂を奪われるくらいなら、それもやむなしだ。
放浪者だって多分まだ十年は……こちらなら四十年か。それくらいはこちらに来続けると思うんだ。パソコンのMMORPGだって物によっては十年以上運営が続いてる。アップデートを繰り返して、プラットフォームも広げて、まだまだ現役として続けられてるタイトルもあるんだ。
このゲームも、ASもきっとそれくらい続く。swivelの後継機もその内に開発されるだろうけど、そちらにも対応させたりして続けられるでしょ。
そしたら四十年どころじゃない。五十年でも六十年でも、放浪者はこちらを訪れ続けるはずだ。
僕も多分続けてるだろうね。今よりもずっと強くなって、強力な魔物をばったばったと薙ぎ払ってるよね。
……リーフ様はどうなってるだろ。想像するのが既に怖ろしい……。
話が一段落したところで、扉がノックされた。こちらに近寄って来ていたヒルダ様が何故か一瞬不満そうな様子を見せて、その音の主に答える。
「お入りなさい」
「お楽しみのところ失礼致します。ヒルダ様、ご希望の品が整いましてございます」
「終わりましたのね? ではこちらへ、ランに着せなさい」
「……へ?」
一礼した侍女さんは、一着の衣服を持って寝室へと入って来た。そして座っていた僕をそっと立たせて、服を脱がしにかかる。
「ちょ、待って、待って下さい! 自分で着替えますから!」
「遠慮は要りません、お客様。全て私にお任せを」
「いやいや、そういうわけには! ちょっと待って、ご勘弁を!」
結局聞き入れられず、ひん剥かれて着させられた。あんまりだ。
着替えさせられた服は大変着心地の良い生地で出来てる。絹かな。色も手触りも絹そのまま。形はワンピース。袖らしい袖は無く、肩から二の腕にかけてひらひらとしたものがかぶさって覆う。首回りは広めという程度。くびれは幅広のベルトを締めて細さを露わとし、下はフレアスカート。またミニの丈だけど……。
胸回りやひらひらの袖、スカートの裾などに銀糸でシンプルな装飾があり、とっても上品。それだけにミニスカートなのが勿体ないと思う。
「シルクの色も、やはり似合いますわね」
「あ、ありがとうございます……。でも、何故こちらを?」
「個人的な贈り物、ですわね。先日報奨は支払いましたけれど、あなたの成した事には到底足りないと思ったのですわ。あなたがあの魔物を止めていなければ、このロランシルトが戦場となっていたはず。そうなれば兵だけでなく、民に犠牲が出ておりましたわ。その事に、個人的な礼をしたいと思いましたの」
大きな働きには公的にだけでなく、こうして私的にも報いて下さるって事? 何その理想的な上司。
でもさ……。男だって僕、言わなかったっけ!?
何気に靴も白なんだよね。最初から合わせる予定で渡してた? 周到なんだから……。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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