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『混沌の睥睨』と呼んでいますわ

3/26 ご指摘を受けて、後半部分を修正致しました。年月の計算に間違いがございました。具体的にはアルス側の時間で話すべきところを日本時間で話してしまっていた事について手直ししております。ありがとうございました!


 諸々済ませてログインしたのは、やっぱり午後だった。ゲーム内では朝方の時間だ。


 借りた部屋のベッドに起き上がり、インベントリの確認をしなかった事を思い出して端末を見た。狩りした魔物の素材が山程とシュテンからの戦利品、『赤壁の魔石』。


 これ、他の三人も手に入れてるのかな? まあいいか。


 オーガの角は高く買い取ってもらえるはずだから、戦士ギルドに持って行こう。


『そのオーガの角だがな。魔道具の作成に使えるぞ』


 あ、そうなの?


『そのために、依頼を出して集めておるのだろう』


 ほうほう、納得。となると売らない方が良いか。僕達は僕達で使えるからね。それで何に使うのかな?


『属性の合う素材が必要だと話したな。そこに使える。オーガの角ならば、物理的な効果を及ぼす魔道具全般の作成に役立とう。つまり、かなり多くの魔道具に利用出来る』


 それで幾らあっても良い、なんて依頼だったわけね。需要に供給が追い付かないなら、そりゃ幾らあっても足りないよ。


 結構な数を確保出来てるけど、僕達もどれだけ使うかわかんないからなあ。これは確保しとこう。お金には困ってないしね。


 おっと、そうお金。報奨金もらったんだった。絹で作られた小袋を覗いてみると、大きな銀貨が三枚も入ってた。三千イルだ。どうしよう、お金がすごい。服を上から下まで揃えても二百イルだった事を考えると、相当な大金だよ。


 何か大きな買い物でもする? 特別欲しい高価な物って、思い付かないけどね。




 さて、服のお店に行きたい。


 靴は昨夜ヒルダ様が用意してくれたから大丈夫なんだけども、服がね。あちこち損傷が目立っちゃってて。このままじゃまた止められちゃう。


 部屋を出て、ひとまず挨拶に向かう。と言っても、何処にいるのかはわからない。見かけた兵士さんにホークさんの居場所を尋ねると、今はヒルダ様の朝食に付き添っているとの事。少し時間をずらした方が良いね。


 待ってる間は、ロビーの窓から訓練場を眺めた。兵士の皆さんが訓練に励んでる。多分剣の技術なら僕の負けだ。魔力操作で動けるから戦えば勝てるとは思うけど、扱いが皆さん上手だよ。


 僕もああやって素振りと言うか、振り方とか形とかの練習した方が良いのかな?


『お主はそれよりも、身体の動きを修練した方が良かろう。運用が根本的に違うのであろうに』


 でしたね。


 人がこうして武器の練習してるのを見ると、不安にはなるんだよ。これで良いのかなってさ。


『シュテンと渡り合った事がその証よ。剣に注力するあまり動きが疎かであったなら、お主も拳で宙を舞っておったわ。無論武器の習熟を疎かとして良いわけではない。だが物事には優先順位がある。お主の戦いにおいては、武器の技術よりも身体を自在とする事の方が優先されるのだ』


 それで良いんだよね?




 そうして時間を潰していると、お二人がやって来た。


「予定通り、今日はこちらへいらしたのですわね」


「おはようございます」


「ヒルダ様。では私は一度失礼致します」


「ええ、任せましたわ。ランはこちらへ。わたくしに付いて来なさいな」


 そうなの? 何だろ、ちょっと怖い。僕、色々無事に帰って来れるかな。


 ホークさんは僕に挨拶して、外出した。何か頼まれてるみたいだったね。忙しいんだ。


 呼ばれるままヒルダ様に付いて行くと、四階の一室に連れ込まれた。そこは彼女が使っている部屋のようで、侍女っぽい人が一人作業中だった。手を止めて一礼する。繕い物かな?


「ヒルダ様、もう少々お時間をいただきとうございます」


「ええ、構いませんわ。しっかり頼みますわよ」


 侍女さんは作業に戻る。僕達は奥の部屋に移動した。そこはさあ、寝室だよね? あ、やっぱり。


 ……何するんですかね。


「いらっしゃいな。取って食べようというわけではありませんわ。もちろんあなたが望むのなら、別ですけれど」


 妖しく微笑むと、ヒルダ様は手招きする。の、望んだらそういう事を!? やばい顔から火が。


 と言うか、ヒルダ様もどスケベ? いや、ヒルダ様は見るからにどスケベか……。


 全身からフェロモン全開なヒルダ様に誘われると、くらくらしちゃってまずいね。一緒の部屋に入る時点で貞操の危機が予感されて二の足を踏む。でも呼ばれてるし違うって言うし。


 ……ええい、ままよ!


『ままでは困るが。最初は我だからな?』


 え、そうなの?


『……少なくともお主の心が認めぬ相手など、我とて認められんわ』


 そこは冗談で、そうだって言って良かったんだけど……。顔が本当に熱いから!


 いきなり真面目なトーンで言われると、どきっとするよね。ちゃんと僕の意思を尊重してくれるみたいで、嬉しい。


『ふむ、そういうものか。どちらも覚えておこう』


 さいですか……。


 部屋に踏み込むと、お香か何かが焚かれているようだ。良い匂い。別に変な物ではなさそう。


 ヒルダ様にソファを勧められて、大きく豪奢なその端っこにちょこんと座る。うわ、沈む沈む。相当良いソファじゃないこれ? 高そう。


 そんな僕の様子にくすりと笑って、彼女も腰掛けた。そしてしばしじっと見つめて、おもむろに口を開く。


「ラン。あなたは例の黒い目。どう考えてますの?」


 おっと。意外……って言ったら失礼だけど、真面目な話だった。


 あの、空に現れた黒い目の事だね。どう考えている、か。僕はファリアからある程度話を聞いてるから、多少は想像出来てる。もちろん全体像とか仕組みの詳細なんて事はわからない。ただ、あれがどういう存在なのか。それくらいなら推測してる。


 ……話した方が良いよね?


 ヒルダ様はシュテンとの戦いに自ら足を運ぶような、戦える貴族だ。多分だけど、民を守るっていう貴族の本来果たすべき役割だろう事をちゃんと果たせる人だ。それなら、既に知ってるかもしれない。知らなかったとしても、知っておいた方が良いはずの事柄だ。


 特別秘密にしておくような内容でもないし、弊害があるとしたら僕の身柄について?


 そこはヒルダ様の胸三寸だから、信用するしかないか。リーフ様の関係者だし、悪いようにはされないと思いたい。


 ともあれ、話そう。


「混沌に関わりのあるものかと」


 そう答えればヒルダ様の目は吊り上がり、唇には笑みが浮かんだ。


「混沌を知っているのですわね?」


 この言い方だと、知らないのが当たり前? その辺りの事、確認しておきたいな。でもどう話を持って行ったものか。ストレートに聞くのはまだ早いだろうし。


「ヒルダ様もご存知でしたか」


「ええ。魔物は混沌の作り出した生き物。混沌のある限り、現れ続ける敵。わたくし達は混沌をこそ、どうにかしなければならないのですわ」


 ……なるほど。よくわかった。


『よくわかっておらんという事が、わかったの』


 混沌というものが存在していて、それが魔物を生み出してるって事は伝わってるんだろうね。でもそこまでなんだ。混沌が何なのか、どういったものなのか。それが伝わってないから、何とかしようって考えになる。何とも出来ない存在だって知らないから。


 これは、どうするべき?


 説明は、するだけ無駄だよね。多分信じないもの。それに何とかしようって思う事自体は、別に悪くない。何とかしようと思って魔物を倒せば、それだけ今存在してる生命は生き長らえるんだ。改める必要なんて無いし、意味も無い。だからこのままで構わない。


 それなら後は、ヒルダ様が何を僕に求めてるのか、かな。


「あなた達の見た黒い目。それをわたくし達は、『混沌の睥睨』と呼んでいますわ」


 混沌の睥睨……と呼んでる? つまり、初めてじゃないんだね?


「何度か既に起きているんですね」


「もちろんですわ。メリアー大陸へ入植して、今年で三十六年目。この間に三度、この現象が起きたと言われていますわね」


 今は入植して三十六年目なのか。で、三度起きてると。


「ええと、五年前からは起きてません?」


「そうですわね。この五年程では、先日の事が初めてですわよ」


 という事は、ゲーム開始以来初めての混沌の睥睨だったわけか。そんなのに居合わせるなんて、運が良いのやら悪いのやら。


「聞かせてもらいますわ。あなたは、何処で混沌の事を聞いたんですの?」


 ……ノーコメントじゃ駄目ですかね? 駄目? あ、そう。


 どうしようか。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現実世界にも影響しているという点に、様々な想像が膨らんでいく。リーフが地球で魔物と戦ったということは、もしかするとこのゲームは四神と地球にいるかもしれない未知の神の利害一致による協力のもと…
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