何言ってんのこの人達
考える時間も迷ってる暇も無かった。既に矢も魔術も放たれて、それに対してシュテンは動こうとしていた。
僕に出来る事なんて一つしか無い。ただ纏わり付いて、動きを止める。
全力で動いて、ひたすら剣を打ち込み続けた。出足を叩き、痛むだろう右腕を斬り、跳び上がって顔面に突き入れつつ肩を踏む。蹴って左側に回ったら腕を斬り、回転して腹を突き、着地と同時にまた足を薙ぐ。そんな連続攻撃を繰り返し、ただ時を稼ぐ。
魔力感覚が迫る矢と魔術の反応を知らせる。三十メートル、二十メートル、十メートルと瞬く間に迫って来ている。そしてそれとは別に、シュテンの周辺で高まる魔力も捕捉している。多分場所か対象か、指定して発動させる魔術だ。その発動が近い。これ以上は無理だ、急いで離脱しなきゃ。
シュテンを片足で蹴り、思い切り跳ぶ。同時に魔力操作を行い、急速な推進力も得る。
けどその瞬間、魔力感覚がシュテンの左手の動きを伝えた。こちらに伸び、蹴り足を掴もうとしている。いや、もうほとんど掴まれてる。捕まえられれば逃げられない。降り注ぐ攻撃の雨にさらされて、心中なら良い方。まず間違い無くシュテンだけ生き残る。
それは、何か悔しい。
決断は早かった。瑠璃色を一閃させ、そこだけを残した。断面はただ赤。こぼれ落ちるものは無く、僅かな痛みが一瞬走ったのみ。シュテンは残された一つを掴むも、その目を驚愕に見開く。
後には轟音と爆音。巻き起こる突風と衝撃に吹き飛ばされ、僕の身体は軽々と宙を舞った。でも、離脱は出来た。
魔力操作で緩やかに落ちる最中、前衛部隊がシュテンに殺到して行く様を下に眺められた。実に壮観。これで終わりになりそうだなと、何となく予感した。
耳に馬の走る音が聞こえる。僕の落下先に回り込む魔力反応があって、見れば馬に乗ったホークさんだった。必死の形相で駆け付けてくれていて、ちょっと申し訳ない。普通に着地出来るからさ。
でも、せっかくだし。厄介になろっと。
ホークさんは僕を上手く抱き留めて、馬から落ちる事無く……と言うか多少は減速させてたからね。無事にキャッチしてくれた。
「済まない! 三度目ともなれば、ただ撃たれるだけで済まそうはずがなかったというのに我々は……!」
「いや、大丈夫ですって。足だけですから二ダメージ……じゃなくて、命には別状ありませんって」
「放浪者であれば、それで済む話かもしれないが……。しかし我々の失策のために、君が自ら足を斬る事態となった事に変わりは無いのだ!」
おおう、意外と熱いお方。滅茶苦茶良い人じゃないの。そして触れてる腕の感触からすると、彼は細マッチョ。良いなあ。筋肉付かないし似合わないけど、羨ましい。
ところで今、お姫様抱っこなんだ。……ちょっと恥ずかしい。
馬はそのまま駈歩でぐるりと迂回し、後衛部隊の方へ戻って行く。この足じゃ戦えないし、後は休ませてもらおう。身体を預けさせてもらって筋肉を堪能……うふふー。
『お主、そちらの気は無いのだよな?』
無い無い。筋肉が好きなだけだよ? 人は自分に無いものを求めるって言うじゃない。
『まあそちらの気があっても、我は一向に構わんのだが』
そういうの、お好きでしたか。何故そんな事に。
到着したところでホークさんに馬から下ろしてもらい、またお姫様抱っこ。滅茶苦茶見られてるって。生温かい視線はやめて。特にアッシュさん。あの人、僕が男だって知ってるからさあ。
連れて行かれたのは数人のプレイヤーのところ。そこで足を治してもらえた。ヒーラーの皆さんだったみたい。ショートブーツはシュテンのところに置き去りだから、もうぼろぼろかな。新しいの買お。
そしたらまたまたお姫様抱っこ。治った方の足が裸足だからって、当たり前みたいな顔でひょいと抱き上げられちった。
で、今度はヒルダ様のところだった。もう指揮の必要が無くなったのか、戦いの行方を見守りながらゆっくりしてる。
「ヒルダ様。予定より早くはありますが、ラン殿をお連れしました」
「ご苦労ですわ」
こちらに振り返った彼女は、強烈な色香を感じるくらいの美女だった。遠目に見えていた赤紫の髪は豊かにふわりとしていて、緩く波打つようなうねりが美貌を彩るよう。見つめる瞳は深い紅色。ルビーのような煌めきに、目が釘付けられてしまいそうだ。
妖艶な微笑みは花の強く匂い立つ様に似ていて、厚く真っ赤な唇に情欲を駆り立てられる熱を感じさせられた。
スタイルもまたすごい。着崩した軍服のはち切れそうな胸元は吸い込まれそうな深さがあり、ベルトが締めているくびれは細過ぎる。そして一気に広がる腰回り。その身体のラインを目で追おうものなら、引き剥がすのに苦労させられる。
綺麗な人はこれまでに何人か見ている。ファリアはもちろんとしてリーフ様もアッシュさんも文句無く美人だ。でも事色気というものに関しては、この人はやばい。存在がやらしい。すんごい失礼な言い方だけど。
とにかく、困った。正視出来ない。
「あなたの働き、この目で見ていましたわ。そして先程の、思い切りの良さも。その勇敢さに敬意を表します」
「あ、ありがとうございます。身に余る光栄です……」
お姫様抱っこのままってどうなのよ? 不敬じゃない? お二人とも全然気にしてないのね。良いのそれで。
すっと、ヒルダ様は近寄って来る。そして僕の頬に優しく、と言うより艶やかな所作で触れた。何か、えっちなんですけど……。
え、ホークさん何で顔背けた? と思ったのも束の間。触れられてる頬とは逆の方に口付けられた。滅茶苦茶柔らかくて、しかもとっても良い匂いがした。心臓がどきどきしてて顔が熱い。
でもね、ホークさん。こうなるの知ってたの? だから背けたんだよね?
そう言えば、予定より早いなんて言ってたっけ。最初から僕を連れて来るつもりだったの? で、こうされるのも予定通り? よくわかんないなあ。えっと、常習犯的?
……ヒルダ様って一体。
「ふふふ、可愛らしいですわ。わたくしのものにしてしまいたいくらい……」
おおう。こ、光栄ですけどお断りさせてはもらえませんか!
……んー? 待って待って。僕ってこの容姿だよ? 自分で言うのも何だけど、完全に女の子だよ? って事はさ……。
『女好きという事だの』
おーう……。
やっぱりそうなるよね。こんなにお綺麗な方にこんな事言われて、嬉しいんだけどすっごい複雑……。
「あの、その……僕は男ですけど……」
「…………な」
おお、止まった。フリーズしたよ。ホークさんは多少驚いたくらいかな?
「そうか、ラン殿は男性だったか。ではこの扱いは、少々?」
「あ、はい。恥ずかしかったです……」
「まあ、もう今更ではあるな。遠慮は要らない、楽にしていると良い」
下ろしてはくれないんですね!?
「何ですって……?」
ひくついてるひくついてる。
「ヒルダ様。彼女……失礼。彼は放浪者です。であれば、あちらは……」
その理屈はおかしい。
でもヒルダ様は、はっとしたような顔で彼を見る。
「……ホーク。あなた、さては……天才ですわね?」
「何言ってんのこの人達」
あっと、つい声が。
ちょっと。脳内で爆笑しないでくれる?
と言うかヒルダ様。アレがなければ大丈夫なの?
『お主は下手なおなごよりおなごだからのう!』
見た目女の子だしアレも無いしで、オールオッケー? 嘘でしょ……。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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