お主の本気を見せてやれ
『ふむ、充分離れたようだ。……これで全力が出せるのう?』
え? ……あ。
そうだ、そうだった。魔力操作に制限かけてたんだっけ。
『忘れておったか。経験を得るにも、全力を尽くした方が良いぞ。魔力は充分、傷もお主はほとんど無い。少々疲労は溜まっておるが、それも許容範囲内であろう。お主の本気を見せてやれ』
現在は魔力操作と魔力感覚の維持に三点ずつ、計六点の魔力を使用中。残りは十二点。
これで何処までシュテンにダメージを与えられるか。やってやろうじゃないの。
でもまずは周りのオーガだ。大きく飛び上がって上から刀身を撃ちまくる。その頭、その目、その首などなど目掛けて刃を操作し、斬り刻んでやる。刀身だけだと直接斬るより威力は下がってしまうけど、そこは数で補う。
僕が着地した時には、オーガ達は生きていても倒れ伏して動けない状態になってた。手近な者からとどめを刺し、シュテンからの攻撃は早めに動いて避ける。
同族だし、部下という意識もあるのかもしれない。シュテンはさっきまでとは逆に積極的な攻撃を仕掛けて来る。これがまた怖ろしい。ごうと音が鳴る程の勢いで丸太みたいな腕から放つ拳は、中世の戦争を描いた映画で見た覚えのある破城槌のようだ。僕の生命力なんてたったの一撃で消し飛ぶ。
さて、ファリアに本気を見せてやれ、なんて言われたけども。この怖ろしいレイドボス相手に効くのかな? いや、あの破壊力が効かないとなると相当やばい相手って事になっちゃうか。
使うならやっぱり、何処かに突き刺して内部から爆発させてやりたいよなあ。口か目か鼻か耳か。
『尻か』
やめて! ブーレイのHPはもうゼロなんだからさあ。
『HPとは何だ?』
ハートポイント。
『ハートポイント。ふむ、心の許容量と言ったところかの』
いや冗談。生命力みたいなものだよ。
……ハートポイントもゼロだったと思うけどね。
『あのあり様ではの。さもありなん』
ともあれ、魔力を圧縮する。手慣れたもので、形を変えないままの圧縮もほとんど一瞬になった。一瞬だけ刀身が揺らめいて、それで完了だ。
……シュテンが警戒してる。今ので何かしたと悟られたみたいだ。見た目脳筋なのに、意外と慎重派? 似合わないね。でも困ったぞ。隙が無ければ突っ込めない。
『結局突っ込むのか』
うん、言い方間違えた。突き刺せ
『遅いわ』
ですよね。
おかしい。緊張感さん、まだお仕事休憩中なの?
じりじりと間合いを詰めて、なんて事はしない。動き回る前提で駆け込み、シュテンの周りで引っ掻き回す。ついでに圧縮もさらに進めて、短剣の長さにまで小さくした。輝きが眩しいくらいだ。
それでシュテンに目眩ましを試したりして、隙をこじ開けるために色々と画策してみるけど、上手く行かない。身体が大きいわりに案外小回りも利いて、背中が……狙ってないよ? 狙ってないけど背中が取れない。
『本当かのう?』
ナチュラルに背後取ろうとしてたよ。間違ってはいないはず。でも背中も筋肉がすごくて、こちらだからって有効とも限らないかも。
正直ちょっと触らせてもらいたい。僕は体質的な問題なのか、ちっとも筋肉付かなくてさあ。憧れがあるんだよね。シュテンの筋肉はがっちがちに硬そうだから、なかなか触れる機会無いと思う。岩みたいな筋肉って、すごくない?
『気持ちはわかるがの。代わりに貞操を要求されそうではないか』
後ろか……。後ろも無いんだよね。この身体、前も後ろもつるんとしてるよ。R十五のゲームだし、その辺りは徹底して潰してる。
あ、当然お断りよ?
『で、あろうな』
さて、隙が無い。こっちからは精々殴るか蹴るかしか出来なくて、しかも全く効かない威力。守ろうともされない。対してシュテンは短くなった剣を警戒してかジャブみたいな軽い攻撃で様子見に徹してる。そんな拳でも、当たれば僕には充分過ぎる。しっかり腰のひねりから肩を入れて打ち出して来てるから絶対痛い。痛みは感じなくてもダメージは大きいはず。
参ったね。もうお試しで、適当にぶつけてみようか。それでどの程度のダメージになるか調べてみたくもある。
全く効かないはずはないと思うんだ。結構な爆発を起こすからね。
『このままでは埒も開かぬしのう。最悪倒せんでも、お主ならば逃げられよう。試すだけ試してみるのは良い手だと我も思うぞ』
ファリアにも賛同してもらえたし、ここは一つやってしまおうか。
試しにぶつけるなら、やっぱり戦闘能力を多少なりとも奪える場所が良い。となると、腕か脚が狙い易い中では候補かな。利き腕は右っぽいんだよね。腕を狙うなら右かな。脚はよくわかんない。蹴りをほとんどしないんだよね。左を前に構えてるから、右脚を痛めれば影響は大きそうだけど。まあ、脚はどちらを痛めても戦い辛くなるか。
狙いは右かな。後は、上手く背後を取れたら腰ね。腰は何をするにも影響するから。
方針は決まった。相手の右手右脚側、つまり僕から見たら左側に回り込もう。でも右脚の蹴りが来ないと決まってるわけじゃないから気をつけないと。あんな太い脚でハイキックなんて食らおうものなら、僕の首の骨なんて間違い無くぽきっと折れる。
想像したら怖ろしい。背筋がひやっとした。
スピードで翻弄して、シュテンの右腕右脚を窺う。時折反対側への動きも織り交ぜて、何とか回り込もうと果敢に挑んだ。
繰り出される拳はゴーレムと比べ物にならない程殺意に満ちていて、ぎりぎりかわせているのが不思議なくらい。伸びた右腕を狙おうとしてもすぐに引き戻されてしまい、上手く突き立てられなかった。多分気付かれてる。
こうして戦ってみると、シュテンはもう油断なんてしてないね。本気かどうかはわかんないけど、ブーレイみたいに舐めて嬲るような真似はする気無いみたい。
その分隙がなくなってるから、僕にとっては厳しい状況だ。あの時と違って魔力操作で動けてるから何とか戦えてる。と言うか避けられてる。避けてるだけなんだよなあ。悲しいけど、これが僕の精一杯だ。
でも、繰り返していればチャンスは訪れるもの。
シュテンの動きにも慣れて来たところで一歩深く踏み込んだ。右ストレートを避けた後に、引き戻される右腕を追って至近距離にまで迫ってやった。
その瞬間、シュテンは目を剥いていた。僕の剣の切っ先が右の二の腕に突き立ったからだ。刀身だけを残して、僕は大きく跳んで離れた。直後、大爆発が起きる。刃はやっぱり深く刺さらなかった。でも僅かにシュテンの腕の内側へ侵入を果たしていた。それが、爆発した。
巻き起こる爆風に吹き飛ばされながらも体勢を整え、目はシュテンに向ける。砂埃は見通せなくて、着地してからも晴れるのに少し待たされた。
果たして現れたのは、苦い顔をした程度の赤鬼の姿。
腕は健在のようで、だらりと下げてはいるものの苦痛を感じてる様子は表に出していない。僕を睨む目付きは険しくなっているから痛くはあったようだ。けどその程度で終わってしまったように見えてる。
期待はしてたんだけどな。思ったより効かなかったみたい。
どうしよっか……。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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