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ブーレイの刑に処してやろうか

 戦いが始まると、さすがに他の三人を気にしてる暇なんて無かった。走り回ってひたすらに斬りまくり、一歩でも近付けば斬り捨てられると思い知らせてその足を止める。そのために斬って斬って斬り続けて、屍の山が築かれてしまいそうな程に倒す。


 それには全神経を注いで、常に弱点を狙う必要があった。眼窩や延髄への突き、そもそも首を切断する、アキレス腱を斬って立てなくするなど、手段は色々ある。


 けどそういったところは無意識下でも守るものだから難度が高い。だから集中しなければならない。


 決して一つところには留まれず、持久力がじりじりと減って疲労は溜まり、息苦しさを覚える。多少のインターバルを挟みはするけれど万全には回復出来ず、僅かずつでも消費が重なり回復は追い付かない。


 魔力操作で動かしているからまだ随分マシだ。持久力の消費無しでも車が普通に走る程度のスピードで動けるんだから。


 胸に切っ先を沈めて蹴りで引き抜き、手近な首を斬って刎ね、また別の顔に飛びかかって眼窩を貫く。肩を蹴って跳んでさらに隣の頭をかち割り、着地と同時に這うような体勢で駆けて迫る敵のアキレス腱と言わず足首から断つ。その勢いのまま前方転回し、倒立の瞬間正面へと足から飛び付き首に絡めて耳に刺し込む。そして一旦刀身を消してまたまた次の獲物へ。


 最早服が汚れるなんて気にしていられなかった。でも返り血は魔物の身体が消えるのと同時に消えてくれた。最初から気にする必要は無かったんだね。良かった。


 というわけで気をつけるのは攻撃を受けない事。回避型の僕にとっては基本中の基本。


 そんな事を繰り返している内にわかる事もあった。看破には、今現在狙えそうな弱点を教える効果もあったみたい。人型の魔物は人間と同じように幾つもの弱点がある。そのどれを狙えば一番簡単か、一番効果的か。そんな事が理解出来た。


 だから僕は、看破によって意識が引かれるに任せて剣を振るう。そのおかげで効率良くオーガ達を葬れていた。


 気分は白いフードと白い装束に身を包んだ暗殺者。片っ端からキル〇トリークで次々仕留めちゃうよ!


 そうして何とかオーガ達を引き留めていた。でも悲鳴が聞こえて、さすがに意識をそちらに向ける。


「お祖父ちゃん!」


 見ればシュテンのアッパーカットを受けてしまったのか、ゲンゾウさんの兜が吹き飛んでいた。そしてもんどり打って倒れたところを掴まれる。


「ぐぬぅ……!」


 呻き声が聞こえる。頭を鷲掴みにされ、みしみしと音がしそうなくらいに締め付けられている。ゲンゾウさんは太刀で腕を斬るけど、浅く傷付く程度で拘束を解けない。慌てて駆け寄ろうとした時には潰れたのか、手が握り締められて身体は黄色い光の粒に変わって弾けてしまった。


 息を呑む音が背中側から聞こえる。


 僕はシュテンを睨み付ける事しか出来ない。


 にやりと歪めた口元に壮絶な笑みを浮かべ、シュテンは雄叫びのように大きな笑い声を上げた。銅鑼の鳴るように響くその音が背筋に冷たい気配を伝わらせ、肌の粟立つ感覚が身体の内側にざわめくように広がる。そして甲高い警鐘が頭の中に鳴り響いた。


 アッシュさんがカインさんを呼んでる。でも呼ばれた彼はオーガの相手で手一杯。とても返事が出来る状態になかった。


 ゲンゾウさんはプレイヤーだから大丈夫。そんな事はわかってる。けど、それでも腹の奥底で煮え立つように湧き出したこの激しい気持ちが静まらない。


 アッシュさんが今度は僕の名前を呼んでる。でも振り返れない。前に行けと、仇を討てと、沸き立つ思いが訴えている。


 空を埋め尽くしていた黒い目が開いた時と同じようにゆっくりと閉じられ、静かに消えて行く。その一睨みは、僕の記憶に強く焼き付いた。


 あんなものが開かなければ。そう思う事を止められない。


 僕達は三人で、この窮地を乗り越えなければならなくなった。







 改めて、シュテンに剣を向ける。そして考えを巡らせた。


 このままここで戦っても勝ち目なんて無い。この包囲から一旦出なきゃ駄目だ。それにはアッシュさんの熱線が使えるはず。僕もカインさんも頑張って減らしたから、オーガの輪の一部くらいは薙ぎ払って突破出来るはず。


 カインさんは今もオーガの群れと戦ってる最中だ。大剣をぶん回して近寄らせないようにしてる。その剣筋は僕の目から見ても素人だ。振り回されてはいないけど、ただ振り回してるだけと言ったところ。ちょっと涙目になってる?


 あちらよりは、僕の戦ってた側が薄い。そっちへ離脱するべきだ。


「アッシュさん、南東側を魔術で薙ぎ払って離脱しましょう! 三人ではこれ以上ここで戦えません!」


「良いけど、これで打ち止めになるからね!」


 二人の魔力が残り少ない事は、魔力感覚で把握してる。でもこのままやられるくらいなら使ってしまった方がずっと良い。


 ワンドを向けて放つ熱線で狭く扇状にオーガを焼き、アッシュさんが包囲の一部に穴を開けた。カインさんに呼びかけて、三人でそこを駆け抜ける。塞ごうとするオーガは僕が迎撃して、殿はカインさんが大剣で牽制しながら走った。


「やった、抜けた!」


「うあー、しんどかったー!」


 オーガ達は追って来る。でもその中でも速いのは、やっぱりシュテンだった。僕はともかく、二人は逃げ切れないスピードだ。


 やるしか、無いよね。


「そのまま走って!」


 そう言い残して反転、一息に飛びかかる。僕の剣がシュテンの腕を薙いだ。防御に差し出された左腕は硬く、まるで岩でも斬ったかのようだ。追放の玄室で散々叩いた壁を思い出させられる。あれよりはまあ、マシ?


 そのまま連続で斬り付けるけど、腕も脚も頑強で浅い傷が付けば良い方だった。閃く瑠璃色の光はシュテンの皮膚の上で弾けるばかり。その顔をいやらしい笑みに歪めたまま、シュテンは反撃もせずにただ僕の攻撃を受け続けた。


 くそう、また油断されてる。ブーレイの刑に処してやろうか。


『お主が一番忘れとらんな』


 焼き付いちゃってさ。悲鳴も耳にこびり付いてて、まだ思い出せるよ。


 それはいいか。あの二人は揉めてるみたいだ。


「あんた一人で逃げれば良いでしょ!?」


「お前が残って何が出来るんだよ! 魔力なんか残って無いだろ!? ランの気遣いを無駄にすんな!」


「だからってあの子一人残して帰れない!」


「ランを無駄死ににする気かよ!?」


 カインさん頑張れ。せっかく生きて帰れそうなんだから、残ってデスペナ受ける必要は無いんだよ。


「無駄死になんて酷い言い方!」


「お前がここでいつまでもがたがた抜かしてたらそうなるんだって、いい加減わかれ!」


 言い合ってる間に、オーガが何匹か向かってしまった。そうなると結局カインさんが相手しなければならなくなる。その分こちらの負担は減るんだけどね。シュテンから距離を取って一息、なんて思うとオーガが襲って来て休ませてくれないから。


 でもそんな事はあまり関係が無い。僕は二人に逃げて欲しいと思ってるんだから。


「くそっ、追い付かれちまった!」


「あ……ご、ごめん」


「いいから走れ! 俺も後を追う!」


 何とかまた逃げ始めた。逃げながらオーガを牽制してる。無事逃げ延びてくれると良いんだけど。


 気にしてても仕方ない。僕は僕で、出来るところまでこのレッドオーガと戦おう。


 ……ああもう、周りのオーガ邪魔!





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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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