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……こいつ、レイドだ! レイドボスだぞ!

 それは突然起こった。


 オーガ五匹との戦闘中、唐突に辺りが暗くなった。まるで影に入ったかのような陰り方で、僕達は自然と空を見上げる。


 そして四人は、例外無く息を呑んだ。


「な……何じゃこれは!?」


「うわ、気持ち悪っ」


「え、目? これ、目だよね?」


 あまりにも巨大な目が、そこに現れていた。


 黒い目蓋がゆっくり開き、姿を見せた黒い眼球は真っ直ぐ僕達を見下ろす。白目の部分も瞳の部分も全てが黒。いきなり現れたその目に、僕達の目は釘付けられてしまった。


 一方でオーガ達も動きを止めていた。まるで崇めるかのように両手を黒い目に向けて掲げ、何かうわ言のように唱えている。


 その異様な光景に目を奪われていると、五匹のオーガがそれぞれ黒い靄に包まれた。内側を見通せない程に濃い靄で、オーガ達がどうなっているのか全く見えない。ただ、歓喜のような声だけが耳に届いた。


『嫌な予感がする。魔力も肥大しておる。ランよ、あれを止めよ!』


 ファリアの声に、僕は我を取り戻した。直ぐ様靄の中へ剣を振り、沈ませる。けれど手応えは無く、ただ素通りするだけだった。二度三度と試すけれど結果は同じ。


 オーガがいなくなってる。そう気付いたのも束の間、今度は靄が一つに集まった。追いかけて斬り付けるけど、やっぱり何にも当たらない。僕には見守る事しか出来なかった。


 靄から感じられる魔力は桁違いの大きさだ。オーガ五匹分を足し合わせても全く足りてない。その大きさに圧倒されつつも、何度となく剣を振るう。でも無意味だった。何度目かで何かに当たったのだけど、あまりにも硬い手応えに弾かれて尻餅を突いてしまった。


 そしてその時、靄が薄れ始めて立ち上がる姿を見た。真っ赤な皮膚に真っ黒な一対の角を持つ、見上げる程の体躯と鎧のような肉体。


 靄が晴れると黒い革の腰巻きだけを身に着けた巨体のレッドオーガが聳える山の如くに仁王立ちしていた。


『立つのだ! 来るぞ!』


 声に反応し、慌てて跳ぶように立ち上がる。すぐに後ろへ跳び、振り下ろされた拳から逃れた。


「……こいつ、レイドだ! レイドボスだぞ!」


「赤壁悪鬼シュテン? 変な名前!」


 カインさんとアッシュさんが端末で確認してる。レッドオーガで赤壁でシュテンは酒呑童子? ごちゃ混ぜが過ぎない?


 命名センスはまあ置いとくとして、レイドボスとはね。


 僕が以前遊んでいたMMORPGでも存在した、強力なボスキャラクターだ。何十人というプレイヤーで取り囲んでぼこぼこにして尚何十分とかかる、圧倒的な敵だった。その分得る物が多く、掲示板などを通じて参加者を募る形でプレイヤー主導の討伐イベントが組まれたりしていた。


 僕も何度か参加した事がある。お祭り騒ぎになるから結構楽しいんだ。経験値も収入も何十ってプレイヤーがいるのに稼ぎになるくらい多くて、一回参加すると二時間三時間当たり前なんだけど充分黒字だったんだよね。


 当然、四人でどうにか出来るような相手じゃない。


「階級七じゃと? まずいのう、逃げられるじゃろうか?」


「爺さんは無理かもな……」


 ゲンゾウさんは足がね、遅いからね。でもこのレッドオーガは背が高くて脚も長いし、多分速い。


 それはともかく、このゲームのレイドボスはどの程度の強さなのかな。ユニークの上位程度なら、四人でも何とかなるかもしれない。でも僕がやってたMMORPGと同じような強さなら……。


 勝ち目なんて無いんだよね。


「ならば儂がここで食い止めるぞい。若いもんの未来は、古いもんが守る。当たり前の事じゃからの!」


「格好付けるじゃんか、爺さん。死に戻った後は、経験値稼ぎに付き合うからな!」


「え、置いてくの!? 本気!?」


「いやこれ、ゲームだぜ? 死んでも経験値一割失うだけだろ?」


「えー……。それならやるだけやって、皆で玉砕しようよ」


 理屈で言うなら、ゲンゾウさんとカインさんは正しいんだよね。それが一番損害少なく済むし、理に叶ってる。でもアッシュさんの気持ちはわかるなあ。パーティを組んだからには一蓮托生。殺されたペナルティ、デスペナが経験値一割を失うだけって言うなら、全員で受けたって構わないはずなんだ。


 アッシュさんのこういう考え方は僕、好きかな。


「……儂に格好付けさせんかい」


 吹いた。


 なるほどなるほど。その気持ちもよくわかる。もう啖呵切ったしね。


「男の都合なんて知らないもんね」


「仕方ない奴じゃのう……」


 でも嬉しいんでしょ? 顔にやけてるよ?


 やるんなら、僕はそれで構わない。アッシュさんの言った通り、やるだけやってみるだけだ。経験値は一割失う事になるだろうけど、強い敵と戦うって経験は得られる。これって案外、差し引きゼロじゃない?


「ま、それも良っか。じゃあやろうぜ!」


 そう決めて、僕達はシュテンに対峙した。けど、そこでまた黒い靄が発生する。今度は僕達を遠巻きに囲む形で広がって、消えた後に何十ものオーガを残した。


 血の気が引いて行く心地だった。さすがにこの数は相手取れない。でも、逃げる事も叶わない。


「いかん、アッシュを囲めい!」


 ゲンゾウさんが指示を出し、自身はシュテンに向けて立った。僕は右側を、カインさんが左側をカバーし、後衛のアッシュさんを守る配置に入る。


 これはまずい。レイドボスのシュテンをゲンゾウさん一人で、プレイヤー一人で食い止めておけるとはとても思えない。でも僕とカインさんだって、この数のオーガを殲滅する事なんて不可能だ。


 玉砕するつもりではあったわけだけど、それはこんな形じゃない。シュテン相手に強敵との戦いという経験を得て、その中で倒されてしまうなら仕方ないと思っただけだ。


 こんな、ただ数に轢き殺されるような結末になんて、得る物は無い。


「ち、畜生! 汚えぞ! こんなのどうしろってんだよ!」


「やれるだけやるんじゃ、馬鹿たれ! アッシュ、お前はしっかり援護するんじゃぞ!」


「わかった!」


「そっちは頼みましたよ、カインさん。守り切ったら、ちゅーでもしてあげますから」


「男のは要らない……と言いたいところだけど、ぐらっと来ちゃったよ!」


「沼にはまって行くんだね? あたしが見守ってるから、楽しんだら良いと思う!」


「そっちの気は無いっての!」


「こっちにもありませんからね?」


 緊張感が仕事辞めた。


 自分で言っておきながら何だけど、どうしてこうなった。


「ほう、それは儂もかのう?」


「ええ!? あ、じゃああたしもほっぺに欲しい」


「えええ……」


 本当にどうしてこうなった?




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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