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あれはシルエレート家の馬車だな

 素材の査定の間は兵士さんと時間を潰していたのだけど、こんなに長く席を外して大丈夫なのかな。


 結局三十分程そこで時間がかかり、支払いを受け取ったら窓口を離れた。ちょうどその時西側の門が開いていて、馬車が一台入って来るところだった。


 箱型の小ぶりだけど装飾がある立派な馬車で、如何にも貴族御用達なデザイン。馬は一頭だけど、普通の馬じゃなかった。茶色い毛並みに見えるその馬は、よく見ると眼球まで茶色。たてがみや尻尾の毛まで茶色で、まるで人形のようだ。


 物珍しくてまじまじと眺めた。


「あれはシルエレート家の馬車だな。旗印は水蛇。ヒルダ様だな。という事は、リーフ様もいらしたのかもしれん」


 リーフ様の現在地は東のはずだね。ヒルダ様という方は、彼女と大抵一緒にいる人物なのかな? だとすると、リーフ様は置き去りにして単独行動しちゃってたわけか。あの強さなら大丈夫だと思うけど、結構なお転婆さんだ。


 伯爵令嬢って事だし、おともの一人くらいは付けられてるはず。ヒルダ様がそうなら、彼女は後を追って来たんだね。可哀想に。胃に穴が開いてなければ良いけど。


「町はあの門から出れば目の前だ。案内はここまでで大丈夫か?」


「はい。ありがとうございました」


「済まないな。貴族が来たからには、優先しなければならない。あんたも早く出た方が良いぞ。お二人は寛容な方々だが、他に誰も乗せてないとは限らないからな」


「ですね。服も早く着替えたいですし、これで失礼します」


 最後に握手だけ交わして、兵士さんとは別れた。馬車からはなるべく離れて西門に向かう。あちらは兵士達に出迎えられて、館の前に停車してる。


 歩きながら遠目に見ると、長い赤紫の髪の女性が見えた。青い軍服のような衣服を着崩していて、胸元の肌色が目立つ。妖艶な美女と言った容貌で所作から艶やかな印象。彼女がヒルダ様だろうか。


 もう一人、男性の降りる姿がある。貴族らしいゆったりとした衣服に装飾品を散りばめた、恰幅の良い人物だ。良く言えば豪奢、悪く言えば無節操に着飾っていて、ちょっと品が無いように見えてしまう。ちなみに髪は無い。スキンヘッド。


 女性が男性に対して特別かしずく事はしない。立場が同等か、むしろ上なんだろう。男性はあからさまに偉そうな態度を取っていて、感じは良くない。


 御者を務めていた男性も馬車を降りた。兵士の一人に引き継いで任せ、二人に一礼して何事か話しかけている。


 彼は薄緑の軍服だ。淡い赤の長髪の、細身な人物。規律を感じさせる姿勢や所作から、厳格そうな印象を受けた。腰に馬上で使うような長い剣を下げてる。


 この人、馬車を引いてた馬と同じ魔力だ。もしかして魔術の馬だった? だとするならすごい便利だね。魔術の馬なら疲れ知らずで食料だって要らない。多分ずっと馬車を引いていられるし、馬力も込めた魔力量次第で普通の馬以上になるはず。長距離移動にはお誂え向きな魔術なんだ。


 感心しながら眺めてると、不意にその目が僕の方を見た。思わず視線を逸らして、そそくさと門に向かう。御者兼護衛なのかもしれないね。部外者が視界に入ったら、そりゃ警戒するよ。関わろうとは思わないし、さっさと先を急ごうっと。







 端末の地図を見ると、その町はロランシルトと言う名前だった。砦は単純に、ロランシルト砦。


 北に荒野、南に草原が大きく広がるその境目となる土地に、町と砦は作られていた。


 町の周りには頑丈そうな柵を張り巡らせてあり、砦から繋がる幅広な道の先に入口が見えた。この道はレンガみたいな物を敷き詰めて作ってあって、かなりしっかりしてる。これなら馬車の揺れも小さそうだね。


 兵士さんの言ってた通り、砦と町は目と鼻の先という位置関係。一緒にしてしまえば良かったのにとは思ったけど、物資の問題もあるか。町を囲む程の資材を用意出来なかったなら不可能だもの。


 ここが今のランドバロウ伯爵領の最前線になるわけだから、町も砦もまだ出来て日が浅いのかもしれない。それなら資材調達も整備もまだまだこれからだ。


 そういう事も僕達プレイヤーで手伝えたら良いよね。インベントリがあるんだからさ。


『捗るであろうな』


 いっその事、運び屋なんて仕事でもしてみようか。戦士ギルドでそういう仕事請け負えないかな? 信用問題があるからいきなりは無理でも、いつか出来るようになったら専門的にやっても良さそうだ。


 何せ僕はひたすら走れる。大陸中央からここまで来れたくらいだからね。移動性能は相当良いと思うんだ。


 良いなあ、運び屋。戦士ギルド経由で請け負っていれば、仕事に追われるような事にもならないだろうし。考えとこ。




 ロランシルトの町に行くと、入口で止められてしまった。


「待て待て。ちょっと君、その格好で町を歩くつもりか?」


「ここで買いたいと思ってまして」


「少しこっちで待っててくれ」


 そんな感じで、脇にある小ぶりな建物に連行される。事務所兼休憩所のような場所らしく、そこで椅子を勧められた。


 ぼろぼろではあるんだけど、そんなにかな?


『そんなにだの』


 そんなにか。


 まあ確かに、ブラウスはあちこち切れたり破れたり焼かれて焦げたりしてるし、ミニスカートも下着がちらっと覗けてしまう切れ目がある。


 ……うん、駄目だね。


「お待たせ。……ああ、なるほどね。これはちょっと、色々見え過ぎだわ」


 女性の兵士さんがやって来た。


 気を遣ってくれたんだよね? でも僕、男なんだよ。先に言っておけば良かった……。


 今更だし、またどうこう話するのも面倒だ。このまましれっとしとこ。


『……いや、何も言うまい』


 何さ?


 女性兵士さんはマントを貸してくれた。それで隠しながら案内されると、一軒の商店に到着する。そこは服飾品や防具の類いを扱うお店で、彼女のお気に入りなのだとか。


 入ってみれば男性用も女性用も各種揃っていて、目移りしてしまうくらいだった。これは確かに気に入るかも。


 早速男性用の


「ほら、こっちこっち」


 ちょ、えー……。


『やはりそうなったか。ま、観念するのだな』




 ファッションショー、開幕。







 はい、一時間過ぎました。長いよ!


 あれこれ店主さんまで巻き込んで着せ替え人形よろしく着替えさせられまくった結果、可愛らしい淡い青のワンピースに決まった。首回りが広く開いて若干オフショルダーを思わせる形。袖は長く、末広がりな作り。くびれの部分は元々細くなってたんだけど、それでも余ったので革のコルセットを巻いた。スカート部分は間隔広くプリーツがあって、ひらひらとする。なのにミニな丈。ぎりぎり見えてないらしい。見えてなきゃ良いわけじゃないよねえ?


 ブーツも傷みが酷かったので新調。同じく足首までのショートブーツで革製品。底が若干厚めになった。靴下も新しい物を用意される。やっぱり足首までの長さで、厚手の暖かい物。


 下着も替えを含めて揃えてくれた。何故か全部紐パン。当然のようにきわどい物だ。解せん。


 僕が着ていた初期服は全て処分になった。お任せして、丸ごとお着替え。


 そこで今更気付いたんだけど、下のアレが無い。これはゲーム的な都合? でもこれだと完全に女の子だ。ステータスではちゃんと男性なのに。


 最後に明るいグレーの襟付きショートマントを羽織らされて、コーディネート完了。


「以上で二百イル、銀貨二枚ね」


 小さい方の硬貨は小とか付けない? 大きい方に大を付けて呼ぶのかな。


 端末を操作して、二百イルを渡した。


「それ、本当便利だよね。放浪者は皆持ってるんだっけ?」


「らしいわよ。これだけはこっちへの持ち込みを許されてる、なんて聞いた事があるわ」


 そういう扱いなのね。覚えた。




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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