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遠くに大きな建物らしき何かが見えた

 さあ、土曜日だ! 今夜は寝ません!


 いやね、早くトリシアまで行きたいんだよ。昨夜は結局四時間くらい走ってたの。それで一割くらいの距離だったの。つまり全行程は?


 圧巻の四十時間……。


「馬鹿あ! 何でこんなに広いんですかあ!」


『大陸だからのう。これでも小さい方ではないか?』


 そうかもしれないけどさあ! 四十時間も走らされる身になってよ!


 リーフさんすごいな……。




 まあ、ぼやいていても仕方ないんで。とにかく走った。二十一時からのログインで、このまま行けるところまで行くつもり。日付変更までの三時間でこちらは十二時間。三割程進める計算だ。昨夜と合わせて四割。要するに、あちらの一時間で一割進めるわけ。頑張れば明日の朝には到着出来るって寸法なのよ。


 体感は四十時間なんだけどね……はは。


 でも魔力操作で走れるようになっていなかった場合の事を考えると、気が遠くなる。普通の車が時速四十から五十キロとして、普通の徒歩は時速四キロから五キロだ。およそ十分の一だね。という事は、十倍の時間がかかるわけで。


 絶望の四百時間……!


 あははー、魔力操作で良かったー。


 壊れるよ。そんな歩かされたら精神が壊れるよ。苦行じゃん。全く楽しくないゲームに何の価値があるの?


 本っ気で、魔力操作で良かった……。




 そんな道中なんで、ファリアとひたすら喋り倒した。こちらの事もあちらの事も色々、何でも話題にした。僕が流行りの歌なんかを話したり聞かせたりすれば、彼女はこの世界でかつて流行った吟遊詩人の歌を聞かせてくれた。あちらの歴史について語ってみれば、やっぱりこちらの歴史について同じく語ってくれる。


 全部彼女が封じ込められる前の事だけど、それでも興味深くて面白い。そして同時に、彼女がしっかり存在してるんだと深く実感させられた。この世界がゲームだとは思えなくなって、ゲームが異世界に繋がってるという可能性が確信に変わってゆく。


 口ずさむ歌詞とメロディーは穏やかで柔らかく、彼女の魅惑的な声と合わさり聞き惚れてしまう程の旋律となって脳裏に響き渡る。歌上手いね……。


 そして語る過去の人族が辿った歴史は、牧歌的な心温まるエピソードから策謀渦巻く裏側の結末までバラエティに富んで、物語のようだった。けれど最後には人々が天敵のはずの魔物の相手もそこそこに戦争を始めてしまい、四神とファリアの戦いによって締め括られる。


 最後の戦いについて、ファリアは多くを語らない。ただ二神を下したところで敗れ去ったと、それだけを話した。


 僕としても無理に聞こうとは思わない。話したくなった時に聞ければ、それで構わないんだ。


『済まんな。大した事ではないのだが』


 話し辛い事の一つや二つ、誰にでもある事だからね。




 ちなみに生命力は自動回復でとっくに全快した。左腕ももちろん治ってる。十時間くらいかな。走った頃には何でもなく動くようになってた。


 ゲーム的だとは思うけど、あんまり現実に忠実過ぎても不便なだけで面白さに繋がらないからね。







 恩寵の効果を今程実感した事は無い。お腹は減らないし喉も渇かないし、眠くもならない。一息入れて気分をリフレッシュする事はしても、その程度で走り続けられてる。人間辞めた気分だ。あ、ハーフエルフだった。


 お喋りしたり魔物と戦ったりなどしながら様々な土地を越えた、或いは迂回した、もしくは飛び越えた。全体的には荒れ地が多いものの森や山、川や湖なども見た。


 先を急いだから寄り道はしなかったんだけど、いつかまた来て自然を堪能したいね。


 そうして全行程の七割を過ぎ、さらにしばらく進んだ頃の事。遠くに大きな建物らしき何かが見えた。


「あれは何でしょう?」


『ふむ。砦のようではないか?』


 言われてみると、確かにそう見える。見張りの塔らしき物、その間を繋いで守る壁、その向こう側に覗く大きな館。なるほど、砦だ。


 ゲイルはトリシアから五百キロ程の範囲が現在の領地だと話してた。だとすれば、ここが五百キロの位置なのかもしれない。ランドバロウ伯爵領の東端になるわけね。


 ともあれ、人里だ。やっとここまで来た。ゲイルはもうログアウトしてしまってるから喜びを伝えられない。残念。


 近付いて行くと、見張りの兵士さんがわざわざ門を少し開けて顔を出してくれた。


 ……獣人だ。ちょっと驚いたけど、獣人がいるんだ。この兵士さんは狼の獣人。頭が狼で、毛皮が全身を覆ってる。その上に兵士の装備を着てるね。凛々しくて格好良い。


「あんた、放浪者か?」


「はい、そうです!」


「精が出るとは言いたいが、ぼろぼろじゃないか。狩りも程々にしておけよ」


 苦笑いで中に通してくれた。


 入ってみると、たくさんの兵士が訓練に励んでいた。外から見て大きいとは思ったんだけど、その見た目の通りに中は広い。何人くらいここに入れるんだろ。


「町に行くんだよな?」


 眺めてると僕を通してくれた兵士さんからそう尋ねられた。


「はい!」


「近くまで案内しよう。真っ直ぐ反対側の門まで行くだけだけどな」


 親切もあると思うけど、部外者にふらふらされても困るんだろうね。ありがたくお願いした。


「あんたは、見ない顔だがこの辺りは初めてか?」


「はい、そうです」


「見たところ若いだろうにこんなところまで来られるとはな。リーフ様もそうだったが、放浪者ってのは年が強さに関わらないのか?」


 リーフ様、だって。伯爵令嬢だし、その方が自然か。


「いえいえ、リーフ様の足元にも及びませんよ。先日お姿を拝見しましたけど、さすがでしたね」


「お、あんたも見た事があるのか。凄まじい強さだからな。放浪者にとっても別格だったか。少し安心した」


 彼女の強さが当たり前だったら世も末だよ。怖ろし過ぎる。


 でもまさか、ここでリーフ様の話をする事になるなんてね。やっぱり不思議な感じだ。


「しかしあんた、本当にぼろぼろだな。目のやり場に困るぞ」


「替えの服を切らしてしまいまして……。まあ、見られるのはもう諦めてますんでいいですよ」


「そんな話じゃなくてだな」


 あんまり良くないか。早いところ服を買いたいね。それにはお金を手に入れないといけないんだけど。


 道中倒した魔物からは魔石が獲得出来てる。でも、それ以外にも色々インベントリには入ってるんだよね。ファリアが言ったような、力のある素材みたいな物以外にもたくさんあるんだ。


 リーフ様と一緒に戦ったホブゴブリンからは魔石のみだったけど、その後倒した大きい犬の魔物のヘルハウンドからは爪とか牙とか毛皮が、筋骨隆々で一対の角が生えた人型のオーガの上位種族らしきレッドオーガからは角とか爪とか牙が穫れてる。こういうのは売れるんだと思う。他のゲームでも大概そうだったしね。


 強い魔物だとミノタウロスとかも戦った。でも弱い魔物もいっぱいいた。定番どころのゴブリンやオークの集落を見たし、犬や狼や虎なんかの魔物に襲われたりもした。大きな虫の魔物なんてのも何種類か見かけて、全速力で逃げたり遠くから斬り刻んだりも。


 そういった魔物達の素材も色々あるし、売却出来るならしてしまいたい。


 でも何処で売れるのかは知らないな。聞いてみようか。


「町に戦士ギルドの支部がある。そこに持って行っても良いが、ここでも買い取っているぞ。窓口に案内しようか?」


「お願いします!」


 戦士ギルドがあるんだね。そこなら僕みたいなのもお仕事出来るかも? 今はトリシアを目指す道中だからしないけど、着いたら顔を出してみようか。


 多分漫画とかでよくある冒険者ギルドとかハンターギルドみたいなものでしょ。魔物の討伐とか依頼人の護衛とか、その手の仕事が受けられそうだ。素材の売却以外でも稼ぐ手段を用意しておきたいし、所属したいところだね。


 窓口は大きな建物の方じゃなくて、別にある幾つかの建物の方にあった。そこでファリアと相談しながら素材を出して、担当の男性に査定してもらう。


「お嬢ちゃん、結構やるね。レッドオーガなんて相当手強い相手なんだけど。その素材が三匹分もあるなんて、目を疑うようだよ」


「これはレッドオーガの物なのか! あんたやっぱり強いんじゃないか!」


 愛想笑いで誤魔化す。


 正直ホブゴブリン十匹の後だったから、そんなに強く印象に残ってない。確か強かったと思う。でも武器とか持ってなかったし。




 支払いは大きな銀貨が五枚、小さな銀貨が六枚、大きな銅貨が五枚。これを五千六百五十イルと言うらしい。単純に考えるとイルと言うのが単位だ。それで大きな銀貨が千、小さな銀貨が百、大きな銅貨が十の価値かな。となると小さな銅貨が一の価値になる? 十進数がそのまま使えそう。


 多分、結構な金額だよねこれ。案内してくれた兵士さんが目を丸くして驚いてる。レッドオーガの素材が魔石含めて高額らしくて、支払いの半分近くはその金額みたい。


 これなら良い服が買えそうだね。良かった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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