97. ロバートVSマーガレット
2025/12/19 タイトル変更、加筆修正済み
※ ※ ※ ※
翌朝──。
翌朝といっても、もうだいぶ太陽が窓の天井くらいの高さにあった。
壁時計の針をみると既に11時半となっている。
ようやくロバート王太子が目を覚ました。
『痛っ!』
起き上がりに頭を押さえるロバート。ズキズキ頭痛がする。
頭が痛くて気分が悪そうだ。
横には妻のマーガレットが寝ていた。
すやすやと寝息を立てている。
ロバートはそのままベッドから起き上がり、テーブルの水を飲んで口をゆすいだ。
用を足し、風呂場についているシャワーを浴びる。
王宮殿内は、各部屋に風呂とシャワーが付いている。
蛇口を捻るとお湯が出た。
電気石の給湯器のおかげで、王族たちも従者や使用人まで恩恵を受けている。
シャーシャーと、シャワーのお湯を出しっぱなしにして、ロバートは石鹸を身体につけて泡だらけにする。
そのまま、頭からざっぷりとシャワーを被る。
──だめだ、いくら石鹸で洗っても、あの匂いが落ちない、とても気持ちが悪い。
ロバートはなぜか、無性に苛々が募って仕方がない。
昨日の夜はあれほど嗅いでいて心地よい衝動で、自分の理性を失うほど気持ち良かったのに⋯⋯。
今はなぜか身体に纏わりつく匂いに嫌悪感を感じる。
──これは何だ? 昨日、俺は何をした。
マリーは、俺に黙って一体何を使ったのだ。
シャワーを浴びながらロバートの意識はようやくはっきりとしてきた。
ますます匂いへの嫌悪感は強くなり、マーガレットに対しても怒りが込み上げてきた。
この匂い分かったぞ、多分媚薬だ。
こんな強烈な媚薬……マーガレットはどこで手に入れた?
ロバートはシャワーを浴びながら考えた。
──そうか、俺はあの媚薬に酔いしれて、久しぶりにマリーを抱いたんだ。
我を忘れるくらいのシロモノだった。
あんな凄いのはクリソプレーズにはない。
一体、どこでマリーは手に入れたんだ?
『あ!』
ロバートは閃く。
すぐさまシャワーの蛇口を止めて、脱衣所からバスタオルを腰に巻いてシャワー室から出ていった。
※
ベッドにはまだ、マーガレットが寝ていた。
疲れてるのか、熟睡しているようだ。
『起きろ、マリー!』
ロバートは、無理やりマーガレットの毛布を剥ぎ取った!
『キャッ!』
『うっ!?』
ロバートはマーガレットの裸体に驚いた。
彼女の裸体は全身赤いキスマークだらけだった。
明らかに昨夜、ロバートが無理やりつけたものだ。その余りの痛々しさに、ロバートは思わず顔をそむけた。
『殿下………』
マーガレットはまだ寝ぼけてるのか、まどろんだ声で返事をした。
『起きろ、もう昼だぞ!』
ロバートは椅子に掛けていたガウンを裸のマーガレットに放り投げた。
──なんてことだ、あの体中のマークは俺がつけたのか!
俺はなんて馬鹿なことをした、非常に愚かな──。
『殿下、おはよう……ございます……私、とても疲れてしまってとても身体が重くて……』
『だろうな。まず水を飲め!』
とロバートは苦々しげにいって、水差しの水をグラスにつぎマーガレットに渡した。
『ありがとうございます』
水をこくこくと飲むマーガレット。
『目が覚めたか』
『はい、少し……でもまだ疲れて……』
『いいから俺のガウンを羽織れ、目のやり場に困る』
マーガレットは言われたままにガウンを羽織り前をぎこちなく紐で結ぶ。
※
『そのままでいいからマリー、正直に答えてくれ』
『はい?』
『媚薬は何処から手に入れた?』
『あ……それはその──』
マーガレットはロバートに不意を突かれて困惑した。
『アドリア妃──だよな』
ロバートはマーガレットの狼狽した顔を見て理解した。
『はん、図星か……』
『はい、そうです……』
マーガレットは観念したのか諦めて答えた。
『なぜ、黙って使った。そんなに俺と寝たかったら素直に言えばよかったのに!』
『無理です……とてもそんなはしたないこと……いえません』
マーガレットは酷く狼狽えた。
彼女はようやく目覚めたらしく、自分を凝視するロバートの表情が怒っていると気付いた。
──ああ、殿下はそうとう媚薬に怒っている。やはり昨日、私が媚薬を使用していると素直に話せば良かった。
だが淑女たるもの夫と寝たい……などといえるものではない。
そんなはしたない教育は、マーガレットは母親から受けてはいなかった。
『はは……良く言うわ。はしたないなど、媚薬を利用したお前が偉そうに言えるか?呆れたな……』
とロバートは下半身に巻いていたタオルを外して無造作に下着に履き替える。
『キャッ!』思わず、マーガレットは目をそむける。
『なにがキャッ!だ、裸よりはましだろうが……俺たちは夫婦だぞ、呆け者!』
ロバートは醒めた目をしてどんどん衣服に着替えていく。
──呆け者って……いま、私にいった?
その口調は今までマーガレットがロバートから一度も聞いたことがない、冷酷さであった。
まるで自分を娼婦のような扱い方だとマーガレットは感じた。
ロバート殿下がこんな風に私をじゃけんに扱うなんて初めて。
ああ、よほど媚薬を使ったのがよほどお気に障ったのね。
ようやくマーガレットは自分が大変な事をしでかしたと自覚した。
『マリー、俺が心底腹を立てているのが分からないのか、こともあろうに夫を騙すなんて……妻にあるまじき卑怯なやり方だ!』
『ああ殿下、ごめんなさい!勝手に媚薬を使用したことは謝ります。けれどこうでもしないと殿下は私とは……』
マーガレットは、自分でも何をいってよいのやら泣きそうになった。
『いいか、マリー!アドリアは敵だ、あの女は母上と対立してる。お前はまんまと騙されたんだ。俺は自分の妻があの女狐に夫婦の寝屋まで相談していたと思うだけで虫唾が走る!』
マリーははっと顔を上げた。
『では殿下は私がアドリア様から、媚薬をもらったから怒ってますの?』
『そうだ、それ以外何がある?』
『お言葉ですが……アドリア様は私の悩みに親身になって聞いてくれました。どうしても殿下の御子が欲しいって……この媚薬も私から無理にアドリア様からお願いしたのです。そんな言い方はアドリア様に対して失礼だわ……』
珍しくマーガレットがロバートに反論した。
『はあ?』
ロバートはまさかマーガレットが、自分に口応えするとは!
『マリー、妻なら口答えするな!お前は政治を知らないからそんな事が云えるんだ。いいか、アドリアは自分の息子を国王にしたいと思ってる。王太子のお前を丸め込んで何かしようとしているに違いない!』
マリーも負けずに言いかえした。
『でしたらおかしいですわ。彼女は私が殿下の御子を産みたいといったら、直ぐに媚薬をくれました。もし自分の王子を国王にしたいなら、王太子妃の子作りなど協力しないでしょう!』
『だから、それが罠だといってるんだよ! あの女狐は何か良からぬことを企んでいるに間違いない、お前は騙されてるんだ!』
マーガレットはカチンときた。
──まあ……なにが罠よ、王太子妃の御子に協力してくれる恩人を罠っていうの!
そもそも殿下は何年も私と寝ようともしなかったじゃないの!
おまけに今だって街の下賤な娼婦たちをその胸に抱いてるくせに!
王宮の人たは家令はほとんどあなたの愛人たちのことを知ってるのよ!
私がどんな思いで彼等の嘲笑を受けているか、あなたは夢にも思わないでしょう。
マーガレットはキレた、ロバートの身勝手さに無性に腹立たしくなってきた。
『いいえ、酷いのは殿下ですわ!』
マーガレットはずっと我慢していた不満が、一気に堰を切った!
『そして王妃様も……2人共、王太子妃の私を簡単に見捨てなさったではないですか!しかもあろうことか、私の姉を公妾にして私をお払い箱にしたいくせに!!』
『……マリー、お前なぜそれを?』
今度はロバートが顔が真っ青になった。
『全て知ってますわよ殿下。私を王太子妃に選んだのも、殿下が子供の頃、エリザベス姉さまに振られた腹いせだって事も! 利用したのはそっちじゃないの!!』
『マリー、いや……その……』
『今だって殿下は外で女を買って抱いてる。正妻の私をほったらかしてあなたは悪魔よ、人でなしよ!──私の前から消えていなくなれ~、殿下の顔なんて見たくないわわあっ、うううう……』
マーガレットは、ヒステリックに叫んで突っ伏して、そのまま大泣きした。
『マリー?』
ロバートは茫然となった。
なんだ、この目の前にいる女は? これが俺の知っているマリーなのか?
目の前でぎゃん泣きしているマーガレット──。
これまでロバートが常に微笑んでいた、しおらしく儚げなマリーの姿はどこにもなかった。
※ マーガレットが初めてロバート王太子に反抗した気持ちは同情します。
ロバート殿下は自分を棚に上げて勝手なことをいってるなと書いてて思いました。




