表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/241

87. ロットバルトの薬草農園(2)

2025/5/19 修正済み

※ ※ ※ ※



アドリア薬草農園の山荘内。



居間でロットバルトが、エリザベスの左手首に薬草の湿布を丁寧に貼っていた。



『とてもひんやりするわね……』


『そうでしょう、ハッカの成分と自家栽培のセンキュウやオオバコなど、数種類の薬草をブレンドしてる。この湿布は打撲によく効くんだよ』


流石に医者というだけあって、ロットバルトは包帯をクルクルと手慣れたように巻いてくれる。


すでに弟のマルコは、ロットバルトが先に肩の打撲の治療を終わらせていた。



肩は骨折ではなかったが、相当の打撲で匂いのきつい強力な湿布薬に張り替えた。


肩から胸までぐるぐるに包帯を巻かれた、マルコの姿はひどく重症に見えた。


マルコは治療が済んで安堵したのか、微熱が出てしままう。馬車の修理が終わるまでは、痛み止めを飲ませて別室で少し休ませた。


マルコは大したことないと口ではいっていたが、ずっとやせ我慢していたのだ。



兄のネロは、出された水と紫蘇(しそ)のハーブミルクティーを一気に飲み、薬草ビスケットを口に放り込むようにして馬車の修理に出かけた。


他に農園の従者をお供に付けてもらう。

工具も借りたので短時間で、修理は終わるだろうといって、ネロは出かけた。



※ ※



窓の外を見ると幾分、雨も小降りになってきた。

馬車の修理が終えれば、夜までには王都へ帰宅できるだろう。


グリーン村から、タウンハウスまでは2時間あれば、着く距離だった。



居間にはエリザベスとロットバルト二人だけ。


従事者たちには、エリザベスの治療だからといって、ロットバルトが下がらせた。



──とても大きな手だわ。


エリザベスは自分の手を治療してくれる、ロットバルトの姿をじっと凝視していた。



指が細長い。白く筋張ってはいるが美しい手。


漆黒の髪は今日は巻き毛でなくサラサラしてる。

紫水晶(アメジスト)の瞳、背は185㎝はある。


まっすぐな鼻筋、薄い口びるは男性にしては赤い。

目の色は違うが、少し雰囲気が叔母のアドリア妃に似てる。


この男、化粧したかのように唇が赤い。

色白だから余計目立つ。

もしかして口紅でも塗ってるのかしら?

近くで見るとよくわかるけど女顔ね。


女装させたらさぞや、妖艶な美女になるのではないかしら?


それに、髭をそると大分若くみえる。

仮面舞踏会の時に、襲った人間と同じに見えないわ。



と、エリザベスのこの男への脳内妄想は炸裂している。



それだけロットバルトを間近で見て、改めて美しい男だと認識していた。

緑の瞳は瞬きもせずに、吸い寄せられるかのようにロットバルトの顔を見続けた。



さすがに、エリザベスの余りにも、自分を見つめる不躾が気になったのか、ロットバルトは。


『なんですか、エリザベス夫人! そんな()()()()()()()()()()()レディ(淑女)としては、少々失礼だと思うけどね』


ロットバルトは不機嫌そうな顔で口を尖らせた。



だが表情とは裏腹に内心、エリザベスの深緑の瞳で凝視されると、ロットバルトはどうにも()()()()と落ち着かないようだ。


そんなロットバルトの注意にもお構いなしに



『伯爵、あなたって幾つなの──?』


唐突にエリザベスが口を開いた。



『は?』



『いや、見れば見るほど()()()()()()()〜、おまけに年齢不詳過ぎて、噂では25~30歳て聞いたんだけど』



ロットバルトは拍子抜けした表情で──


『はぁ〜何言うかと思えば……ふふ、遠からず当たってるよ。僕の年齢は25歳。レディあなたこそ幾つなんだい?』



『わたくしは23歳と年相応でしょうよ。でもあなたは髭をそった顔だと、もっと若く見えるわ。それからリリーを誘拐した時は、なぜ金髪だったの?』



『誘拐だなんて人聞きの悪い、お嬢さんとは()()()()()()()()()()、遊んであげただけだよ──レディと違って、とても素直な可愛い娘さんだったよ。金髪は単に染めただけ。いわゆる新しい薬草の人体実験さ!』



『へぇ~染めたの? てっきりわたくしの目には変装してリリーをかどわかす気満々と思ったけど……」


エリザベスは白目を向いていう。



「やめてくれよ、誓ってそんなことはしない、たまたま可愛い子がいたからじゃれただけだよ」



「どうだか、あのおかしな風船使ってリリーを誘導したくせに。たまたま会ったとは怪しすぎよ。だけど人体実験て何?』



『やれやれ、さっきから聞いてるとこれは尋問だよね〜。どうやら僕は相当、君から信用を失ったようだな。まあ、あの夜の接吻はやりすぎたと後から反省したよ』



その言葉にエリザベスは顔をしかめた。



ロットバルトは無視して続ける。



『──なにせあの日の、仮面を取った君は余りにも……こうなんていうのか、とても美しくて見えたんだ。『僕の探し求めていた女神が見つかった!』ってね──何せ舞踏会でみた緑の女神の仮装コスチュームが、本物のように似合っていたし。今考えると()()()なのに、大変失礼なことをしたと思ってる」



「いいえ、たとえわたくしが未婚だろうが、結婚してようがレディに対して失礼極まりないわ。突然、見も知らずの仮面の男に襲われた、わたくしの身にもなってちょうだいな!」



「はい、仰る通りですレディ。ほとほと面目ない、あの時の僕は本当にどうかしてました。君は許してくれないだろうが、心から真剣に謝るよ。本当に申し訳なかった』


ロットバルトは降参したのか、深々と頭を垂れた。


頭を差し出すように項垂れている。


少しカールした黒髪の中のつむじが見えて、なんだか子どもっぽく見えた。




──あらまあ、可愛いつむじだわね。


この男、意外だけど、素直に謝ることも出来るんじゃないの!


エリザベスはロットバルトの真摯な態度に、内心ちょっと可愛く思った。



だが、顔つきはキツイ表情のままで言った。


『あの夜の仕打ちは、許せることではないけど……こうして手首を治療してくれた()()()()()()()()許してもいいわ。だけど二度と、あんなことはしないと約束して頂戴!本当に怖かったのだから!』



『わかった、わかった、もう二度としないよ! これからは良き友人と接してくれたなら嬉しいがどうだろう。できるなら、こうしてたまに僕と会ってくれると嬉しいかな』



『──まあ、たまに会うくらいならいいわよ。でもリリアンヌには会わないでね、あの子に何かしたら、二度とあなたを許さないわよ』


『わかった、僕は何もしやしないさ。ただあの子は少しだけ足を引きずってたけど足が悪いのかな?』



『あ……ええ、赤んぼうの時に、走行馬と接触して事故にあったのよ。走る事が少しできないけど……』


エリザベスの声が少しだけ震えた。



リリーの足のことは、誰にも余り触れられたくなかったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ