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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


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84. 霧の中の訪問者

2025/5/18 修正済み

※ ※ ※ ※



突然、馬車が接触したのは大きな石だった。


梅雨の長雨で、森林の高台の地盤が緩み石がゴロゴロと道に転げ落ちてきた。

『ガツン!』と音がして、馬車の側面と接触。

泥濘んだ道に、大きな穴が空いた!


『うわあ!』


馬車は左側の車輪がその穴にズボッとはまった。

反動で馬車が左に傾きそうになり、驚いた馬も大きく重心を崩して林道から外れかけた。


『どう、どう、止まれ!!』


慌てて兄のネロが、馬の手綱を必死に操って馬車のバランスをとった。

なんとか馬車は、持ち直した!


だが、フットマンとして立っていたマルコが、馬車が斜めに傾いたせいで、そのまま地面に叩きつけられた!


『うう~、いってえええー…』


痛みで呻き声をあげたマルコ。



※ ※



『痛っ──!』


馬車内のエリザベスも、馬車が揺れたはずみか壁に体をぶつけて、手を打ったのか痛そうに押さえてる。


兄のネロが、慌てて御者台から降りて、馬車の扉を勢いよく開けた。


『お、奥方様──大丈夫ですか!』


『あ、ネロ…わたくしは大丈夫よ、一体何があったの?』


『はい、大きな石が落ちてきて馬車にぶつかったか、左の車輪が、道の空いた穴にそのまま挟まっちまったようです』


『まあ、大変じゃないの。それよりマルコは?』


『あ、そうだ、マルコ!』


ネロは、馬車の後ろに倒れているマルコに、慌てて走り寄る。


『おい、大丈夫か、マルコ!』

『う、兄さん、いてて……』


どうやらマルコは意識はあるようだ。


ネロがマルコの身体をゆっくり起こした。

2人とも雨と泥で体は汚れてぐちゃぐちゃになった。



『大丈夫、マルコ? ほらこれで顔だけでも拭いて!』


降りしきる雨の中、エリザベスも馬車の外へ出てマルコの側へ寄りタオルを渡す。


『はい、奥方様ありがとうございます。なあに大丈夫です。ちょっと肩を打ったけど、大したことないですよ、へへへ…』


とマルコがタオルでゴシゴシ顔をふく。


左肩を抑えて痛そうだが、痩せ我慢なのかニャッと笑った。


『とても痛そうね──だけど、とりあえずは皆無事で良かったわ。あと馬は大丈夫なの?』


と馬の方をみるエリザベス。


ネロが馬の足や蹄、腹などあちこちと触って怪我がないか調べる。


『ブヒヒ〜ン』


馬の鼻息が荒い──。

『はい、驚いただけで大丈夫そうですね、馬に石が当たらなかったのが不幸中の幸いでしたよ』


どうやら馬は無事で、エリザベスは安心した。



『奥方様すみません、俺が前方不注意でした。あんな大きな石が落ちてきたのに気が付かなくて…』


フットマンの役割を果たせなかった、マルコが申し訳なさそうに謝る。


『仕方ないわよ、この霧と雨じゃ…わたくしが急がせたのがいけなかったのね……』


『奥方様のせいじゃないですよ。それより雨で濡れなさってます。夏風邪を引いたら大変だ。あとは俺らがなんとかしますから、馬車の中へ早く入ってください』


とネロが無理やり、エリザベスを馬車に押し込む。



『でも、ネロ、これでは直ぐには動かないでしょう。困ったわね〜』


どうやらすっぽりと、はさまった車輪はが何本か折れて形もグシャリと変形していた。


車輪を交換するにも、雨が強くて直ぐには無理だ。



辺りをザッと見渡すと、林だらけで家や山荘など見当たらない。


雨はますます強くなり、白い霧が立ち込めている。

正直、八方塞がりの状態である。


『奥方様、私が馬に乗って先ほど通った村まで助けを呼びにいってきます。マルコ、お前は奥方様をしっかりと守れ!──この道は王都に通じている。まだ昼だから、きっと誰かがここを通るだろう。そうしたら手を貸してもらえ!』


ネロが冷静に、弟のマルコに今後の対処方法を伝えた。


『うん、わかったよ兄さん』

マルコも腹を決めたように力強くいった。


『ネロ、雨が強いから気を付けていくのよ』


『はい、奥方様──濡れますからドアを閉めてください』


とネロが馬に鞍を付けて騎乗する。

そして前方をみた。


『あっ!』


遠くから馬の蹄の音がして、霧が立ち込めた視界に、一頭の馬に騎乗してる人影が見える。



『人だ、人がくる。助かった、お~い、おーい!』

ネロが大きく手を振る。



※ ※


男はこちらに気がついたらしく、パカパカと馬を歩かせながら近づいてきた。


『どうしました──?』


エリザベスも、馬車の窓からネロたちに近づく男を見た。


真っ黒なフード付きのマントで、漆黒の見事な馬に騎乗していた。


雨でひどく視界が煙っていて、真っ黒いフードのせいもあり男の顔がよく見えない。




──何かしら、何処かで聞き覚えのある声。


とエリザベスは不思議な気分だった。

本来なら助けに来てくれた人なのに──。


白い霧が立ち込めた世界から、突然現れた黒装束の男。



窓から眺めたエリザベスには、何故だかその姿は、暗黒から蘇ってきた死神の様な錯覚を覚えた。



※ ※


『はい、馬車の車輪が壊れて道穴にハマってしまい、馬車が動かせません、とても困っています。とりあえず雨が止むまで、この辺に雨宿りできる家を知りませんか?』

 

ネロが状況を説明した。



『それは大変でしたね。少し先に僕の薬草農園がありますから、とりあえず馬車はそのままにして、貴重品だけ持って一緒に行きましょう──農園についたら従者に馬車の修理を一緒に手伝わせますよ』



『ありがたい、とても助かります。奥方様、近くに農園があるようです。少し濡れてますが私のマントをお貸しますので、馬に乗って行きましょう』


とネロがエリザベスを呼ぶ。



『ほう、御婦人が馬車の中にいるのか。宜しかったら私の予備のマントがあるから貸しますよ。男物で申し訳ないが、従者のあなたがずぶ濡れになっては御婦人もきっと悲しむだろう…』


といって、馬につけていた皮袋から、青いフード付きのマントを取り出してネロに渡した。



『何から何までありがとうございます、()()()()()奥方様、どうぞ身につけて馬車から出ましょう』

とネロが馬から降りて馬車の扉を開けてエリザベスに渡した。



()()()()()──?』


男は声をあげて、突然馬からサッと降りて馬車の中のエリザベスを見た。



『エリザベス夫人!?』


フードマントを着た男の紫水晶の眼が見開き、とても嬉しそうな顔をした。


男はロットバルト伯爵その人だった!


『!?』


その美しいが怖い笑顔に、エリザベスは顔面蒼白となった。




※ ロットバルト出てきました!いつも嵐とか雨とか彼は雨男のようですね。

※4/6朝にエピソードタイトルを『雨』から『霧』に変更しました。前のタイトルが雨だったので被らない方が良いかと判断しました(^_^;)

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