表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/241

65. パール宮殿の仮面舞踏会

2025/11/15 修正済み

※ ※ ※ ※



クリソプレーズ王都国立オペラ座劇場。

通称はパール宮殿。


パール宮殿はバロック様式の建造物であり、王族の宮殿とクリソプレーズ大聖堂教会から直ぐ近くにあり、これらの建物は、王都の建造物の中でも屈指の美しさを誇っている。


王都民がオペラ座を“パール宮殿”と呼ぶのは、外壁が真っ白で屋根も白く丸いアーチ状になっており、遠方から見ると“白真珠(ホワイトバール)”のように見えるからである。



室内は荘厳な神々の彫刻や、絵画で広がりや奥行を演出している。


アーチ形の天井や柱など至る所に、建築家が趣向を凝らして、人々がその空間の中に一歩足を踏み入れると、目の錯覚を覚えさせる不思議な造りとなっている。


※ ※



通常、パール宮殿で開催されるのは、国立舞踊団や国立オペラの公演、また王族主催の舞踏会等であり、主に貴族やブルジョワジーの社交場を目的とした劇場である。

これまでは、一般の王都民にはなかなか入ることすらできない、近くて遠い劇場でもあった。



しかし、今日の仮面舞踏会は毎年春と秋に開催されて、秋は仮装舞踏会も兼ねているので、平民参加もできる、貴族と平民が遊興できる稀な舞踏会であった。


国王のライナスは、平民にもパール宮殿を解放すべきだと提案して、年に1回は仮面舞踏会並びに仮装舞踏会を開催する運びとなった。

平民たちはそんなライナス国王の提案にを大いに称賛した。




※ ※ 



エリザベスとグレースの乗った馬車が、パール宮殿の正門へ入り中庭を抜けると、宮殿の入口に止まった。


エリザベスとグレースが馬車から降り立つ。

2人共、大きな羽根つきの仮面をつけていた。



鼻梁まで顔が隠れる仮面。

エリザベスが緑色、グレースは黄金色だ。


2人の仮装衣装はロングガウンを纏っているので、何を着ているのかはまだわからない。



『わあ、いよいよ来たね、リズ──』


『本当、凄い人だらけ、とっても混んでいるのね』


『ほら、早く並ばなくちゃ……』


『あ、ちょっと!』


エリザベスの手引っ張るグレース。



2人は幾分興奮しながら、大勢の仮面をつけた人々の列の中に溶け込んでいく。


彼等と一緒に連なる廊下の波の中へと、ゆっくりと一緒に進んでいくと、向こう側からも人がきて、どんどん大きな川のように横に拡がっていく。

金銀含めた色鮮やかな仮面を被った紳士淑女が、笑い合い囁きあって行進していく。


それはとても不思議な光景だった。

ようやく入口に到着し、2人の順番が回るとすぐに声がかかる──。



『いらっしゃいませ、ようこそ仮面舞踏会へ! こちらで招待状をお渡しください』


受付には背の高い王宮騎士たちが愛想よく、双方列の両脇で招待状を客から受け取っていた。

彼等の顔も仮面で覆い隠されていた。



入場してきたエリザベスとグレースは、招待状を案内係に渡すと、彼等から不思議な光を放つ光沢紙を渡される。


その紙には『177』と番号が書かれている。

グレースは『178』。

一緒に止めピンも渡される。


『これは何かしら?』

エリザベスが訊ねると──。


『はい、入場者順の番号札です。仮面舞踏会ですので本名でなく 偽名で通して頂きます』


『偽名?』


『はい、偽名も希望しない方は、この番号が名前の代わりになります──何方(どなた)かと踊りたい時に、相手の番号をお呼びしてダンスをしたり、食事や飲み物を注文した時にも、給仕がこの番号でお呼びいたしますので、お手数ですが服の何処かに見えるようにつけてください』



エリザベスは番号札を見ながらグレースに──。

『面白いわね、番号札なんて……』


『招待状とセットなのよ、必ず招待者と番号をチェックしている。一応、不法侵入者を阻止するためのものらしいよ』


『ふうん、でも余り意味なくない?──もしも入口以外から侵入したら、番号札つけた紙を、服に貼ってもバレないのではなくて?』


『この光沢紙は特別製の紙だから、同じものは作れないらしい。あと宮廷内は王宮騎士団があちこちで警護してるから、変な行動すると直ぐに捕まるよ』


『なるほどね、だからキラキラと不思議な輝きなのね』


エリザベスは、光沢紙を見つめながら妙に感心した。


『お客様、コートをこちらで脱いで彼等にお渡しください、仮装衣装用のサーベルや短刀、おもちゃの拳銃でも持込みはできません、こちらで預からせていただきます』


直ぐにクローク係とみられる護衛騎士が傍にいる。


エリザベスとグレースはその場でコートを抜いだ。

これも身体検査も兼ねた入場検査の一貫なのだろう。


グレースはガウンを脱ぐと、アラビアの衣装で頭には白いターバンを巻いて、白のハーレムパンツスタイルだ。


腰には青いベルトに短剣をつけていた。

大航海を船出するようなシンドバット姿のグレースは益々男っぽい。


クローク係が

『申し訳ありません、短剣は預からせて頂きます』とグレースにお願いした。


『ええ〜!せっかくシンドバットに見合う短剣を骨董品店で探し当てたのに〜悔しい〜!』

とグレースは腰に差した短剣をクローク係にふくれっ面になった。



『ま、おもちゃでも駄目とはそうとう厳しいのね』

エリザベスも気の毒顔になってコートを脱ぎながらいった。


『申し訳ありません、マダム。規則なもの……あ!』


コートを受け取ったクローク係りの騎士は、エリザベスの仮装スタイルを見て度肝を抜いた。


クローク係りだけではない。


『おお!まさに緑の女神!』

『まあ、素敵なドレス!』

『信じられん、本物が仮装しているみたいだ!』


エリザベスの仮装姿をみて彼女の周りにいた人々までも驚く。



エリザベスの仮装は、クリソプレーズの守り神の緑の女神の姿だった。

腰まで届く長い豊かなウェーブの銀髪。

エメラルド色の宝石を施した黄金の冠。


宝石色と同じ色のコタルディドレスは、エリザベスの見事な身体のラインを美しく見せていた。

たとえ仮面をつけていても、エメラルド色の瞳まで隠せやしない。


緑の瞳を持つエリザベスが最も似合う仮装スタイルであろう。


内心、エリザベスはほくそ笑んだ。


──この衣裳いつぞやの怖い夢で見た、緑の女神が身に着けてる衣装を思い出して、同じデザインを希望したのよね。


わたくしがおおまかなデザイン画を描いてQueenビーのデザイナーが作ってくれたドレス。


ふふ、評判は上々みたい。

中々出来上がるまで大変だったのよ。


リズは、人々が讃嘆してるのを見て心から満足した。



『リズ、やっぱり緑の女神に扮して良かったね。とてもよく似合うよ』


『ありがとう、グレースのシンドバット王子も素敵よ、可愛いアラビアのお姫様が見つかるといいわね』


『へへ、そうなるといいんだけど──』


男みたいに鼻の下を伸ばすグレース。



“シンドバットと緑の女神”、これが仮面舞踏会での2人の仮装の姿であった。

2人が、更に大広間の大階段へ登ろうとしたその時。



『へい、リズ!へい!』

とエリザベスを呼び止める男性がいた。


『まあ、カールお兄様──?』


エリザベスが見つめた先に、兄のカールが立っていた。


すごい形相でこちらに向かって歩いてくる。

カールは、護衛騎士の恰好をしていた。


『ちょっとこっちへこい!』


とカールはグイッとエリザベスの手を掴んで、無理やり隅の柱側へとひっぱっていく。


『あ、お兄様、連れがいるんですよ!グレース、悪いけど階段の踊り場で待ってて!』

と、叫ぶエリザベス。


『わかったよリズ、そこら辺にいるからね~』

とグレースは戸惑いながらも、周りの人々に目移りしていて楽しそうだ。




──まさか、こんなところで兄と会うなんて。


お兄様ったら、仮面舞踏会にまで来てたのね。


相変わらず遊び人だわ。


カールにきつく腕をひっぱられながら、兄を見つめるエリザベスであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いよいよ、仮面舞踏会に来ました♪パール宮殿もオシャレな造りですね(*^^*) 番号札で、しかも偽造できないようにしている周到な感じ、護衛も完璧なら、リズに危険はないのかな… カールのリズの呼び方wへい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ