60. 娼婦館のロバートとエドワード(1)
※ タイトルで分かるかもしれませんが、少々性的な表現のシーンがありますで、苦手な方は読み飛ばしてください。
※ 2025/11/6 修正済み
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真夜中、王都の繁華街のとある店。
大きな門構えの立派な娼婦館である。
がっしりしたドアの面で、一人の男がドンドンと勢いよくドアを叩いていた。
「おい、開けろ! おい、誰かいないのか! あ~この店は休みか!!」
そのドアを叩く男はエドワードだった。
酷く酔っぱらっているのは人目で分かった。
『あれ?エドワードじゃないか?』
背後から若い男に呼び止められてた
エドワードは振り向いた。
『は、誰~?』
『俺だよ、俺、フレディだよ。何だ、分からないのか?』
『はあ~フレッディ?そんな名前の知り合いは私は知らん!』
エドワードは呼び止められた男の顔を、藍色の酔眼でまじまじと見つめた。
※ ※
さかのぼる事、数時間前──。
エドワードが佇んでいた歓楽街のハーフムーン通りは、王都でも貴族がお忍びで来る知る人ぞ知る、高級娼婦館が建ち並んでいた。
ここは歓楽街の中でも、貴族のみしか入室出来ない。
最高級の娼館ばかりだ。
昼は街路樹の美しい路で散歩する人も多いが、
夜になるとめっきり人通りは少なくなる。
よく場末の娼館通りで商売女とすぐに分かる女人たちが何人か立ち並び、通りを歩く男たちを品定めをしながら、眼をつけた男に言い寄る光景は全くない。
まず、通りを歩く人が少ない。
行き交うのは黒塗りの高級馬車ばかりだ
連なってる娼館も格式の高い建物ばかりで、一見すると貴族専用の高級宿泊施設に見える。
※ ※
今宵、エドワードはエリザベスに閨事を拒否されて自棄になり、飲んだくれていた。
そのまま王都の公爵別邸から夜の街へ出て、酒場ではしご酒をして憂さを晴らしていた。
今は、飲みすぎたのか眼つきも虚ろである。
自分がどこにいるのかさえ、エドワードは良く分かっていなかった。
足取りもふらふらと今にも転びそうだ。
こんな有り様を、もし執事のアレクに視られたら大事だったに違いない。
それでも、今夜だけは家に居たくはなかった!
明日も、エリザベスの顔を見たくなかったのだ。
エドワードがこの娼婦館にたどり着いたのは、以前ロバート王太子が、まだ王子時代にエドワードも側近として、幾度か来たことがあり自然と足が覚えていた。
勿論、王子の側近兼護衛も兼ねていただけで、娼婦との関係はない。
『お前も成人したんだ、女の1人や2人愛人くらい作っておけよ』
ロバート王子はエドワードにも勧めていたが、エドワードは頑なに拒否していた。
何故なら、その頃既にエドワードの心中は、エリザベスが大きく占有していたからだ。
そんな婚約もするまえからエリザベス一筋だったエドワード。
まさか数年後にこんな有り様になろうとは。
※ ※
『おい、聞こえないのか! 早く開けてくれ!』
エドワードは苛立って、娼館の入口の扉を強く叩いた!
だが誰も出てこない。この娼婦館は予約制で変な酔っ払いは門前払いをされるだけだ。
余りにもしつこい客だと、その内に大柄で物騒な男たちがぞろぞろと出てくるに違いない。
『ふん、私だって浮気の1つや2つくらいするぞ!リズの大馬鹿野郎!』
ドアを叩きながら、大声で怒鳴るエドワード。
『おいおい、エドワードじゃないか!』
背後から男の声がした。
『なんだお前、珍しく酔っぱらって! もしかしてリズと喧嘩でもしたのか?』
『ああ、誰だお前は、なんでリズのこと知ってるんだ?』
エドワードは肩を叩かれたフレディと名乗る男に、酒臭い息を吐いていい寄った。
『俺だよ、俺!』
フレディと名乗る男は笑顔でいった。
良く見ると、濃い金髪の蒼い瞳の自分とそっくりな男が笑っていた。
『え、王子!?』
『ばか! しい~!』
と男は慌ててロバートは、エドワードの口を自分の手で押さえた。
『なんで、ここにいるのですう~おうひ~?』
『それはこっちが聞きたい。ああ、こいつ相当酔っぱらってる。もう駄目だな。とにかく中へ連れていけ!』
『はい、承知しました!』
傍にいた護衛騎士にエドワードの肩を抱えさせて歩かせる。
ロバートは扉の上隅に飾ってあった呼び鈴を、チリンチリンと鳴らした。
すると扉のドアスコープがガチャリと上がり、誰かが覗いていた。
『俺だ、開けろ!』
ロバートが命令する。
そのままゆっくりと扉が開き、ロバートたちが娼婦館の中へ入っていく。
※ ※
娼館の看板には『ラピス・ルージュ・ラズリ』とあった。
魅惑の高級娼婦といわれるミューズがたくさんいる緑の館。
高位貴族がお忍びで来る格上の高級娼婦たちがいる。
その中でも、一番奥のスィート・ルームに通されるロバートとエドワード。
『お前たちは待合室で待っていろ』
『はっ!』
護衛騎士たちに指示して、エドワードと部屋に入る。
華やかで品があるごじんまりとした室内。
室内のランプの灯りと、天井のシャンデリアはロマンチックなセピア色だ。
壁には有名画家の描いた大きな絵が飾ってある。
真紅のビロードのカーテンを敷いた大きな天蓋ベッドと、おそろいのソファーに銀のテーブルもある。
同じ色の真紅の絨毯はフカフカである。
王子は置いてあった室内履きに履き替えた。
上着を脱ぎ、フラフラしているエドワードの上着も脱がせてあげた。
『こいつ、俺にこんなことまでさせやがって……』
といいながらも甲斐甲斐しく、胸元のシャツのボタンも外してタイもゆるめてあげた。
エドワードはまだ泥酔して眠いのか、うつらうつらしていた。
『ほら、お前はここで静かに寝てろ!』
といって脇にあるカウチソファに寝かせてやった。
『うん……王子、なんれすかあ~』
『ん?起きてるのか?』
『うう……リズ、リズが恋しい……』
ロバートは泥酔して寝ぼけてるエドワードに顔をじっと見つめる。
エドワードの頬には泣いた痕の涙が濡れて光っていた。
『なるほど、こいつも別居したとかいってたな』とぽそっと呟いた。
ロバートは優しくエドワードの体に薄手の毛布をかけてあげた。
季節は春だが、今夜は夜風が少し冷たく感じる。
その時、コンコンとノックの音がした。
『入れ!』
『失礼いたします』
若いとても妖艶な美女が入って来た。
淡い紫色のネグリジェ姿で豊満な裸体が透けて見えた。
年の頃は17歳~20才くらいだろうか?
若く見えるが、見た目の年齢は不詳である。
真っ直ぐで長い髪はエキゾチックな黒髪で、眼は金色の狐のように不思議な煌めく瞳であった。
あきらかにクリソプレーズの人種とは異なる容貌をしている女だ。
『フレディ様、あら今夜はお客人がいらしたのね』
女はとても甘えた可愛らしい声をかける。
『ああ、エバ。気にしなくていい、早くこっちへおいで』
とロバートは優しく手招きをする。
『逢いたかったですわ…………』
エバと呼ばれた女は、ロバートの胸にしなだれる。
ロバートもしっかりとエバを抱擁して、熱い接吻をする。
『俺も会いたかったぞ』
『フレディ様⋯⋯』
そのまま、2人は天蓋ベッドになだれ込んていく。
交差する2人の身体と身体──。
ロバートは、エバの身に着けているネグリジェの紐をスルスルとほどいて裸にした。
豊満な裸体を悩ましげに見つめるロバート王太子。
『ああ、とっても綺麗だよ、エバ』
といってエバの身体を愛撫し始めた。
そのまま、ベッドの中へ沈みこんでいく2人。
どうやら、王子はフレディと偽名を使って、お気に入りの娼婦とお忍びのアバンチュールを楽しんでいるようだ。




