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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


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58. 七色の瞳のグレース

2025/5/4 修正済

※ ※ ※ ※




ローズ公爵家の豪奢なクリスタル・シャンデリアが煌めく大広間。

今宵の晩餐会はまだ続いていた──。



天井からホールを見下ろす。


大勢の紳士が黒やグレーのタキシードが花に触れる虫だとすると、淑女の色とりどりのドレスが、無数の花びらのようにクルクルと輪舞する。



──まさに華やかな花のワルツである──。




エリザベスと男装の麗人グレース・ローズ夫人は4度目のワルツを踊っていた。


『ローズ公爵夫人はとってもリードがお上手ですね、いつも男性側(エスコート)なんですの?』


『そうね、その時の気分で半々かしら。殿方にリードされるのもいいけど、たまには綺麗な淑女たちと踊りたくなるのよね〜!』


ローズ夫人は自分をボオっと呆けて、熱い視線を送る令嬢たちにウィンクをした。



『キャーッ!』と凄い歓声があがる。



『ふふ、ローズ夫人、貴方様は若いレディにも人気ありそうですね、わたくしとばかり踊ってると彼女たちに(ねた)まれそうですわ』


と、エリザベスはテーブルについている、若い令嬢たちの熱い羨望の眼差しを、痛いくらい感じていた。



『そうね、あなたを悪女にしたくないわ。そろそろこの1曲で終わりにしましょうか。それよりもルービンシュタイン公爵夫人?』



『はい?』



『私、ずっとあなたにお会いしたかったの、よろしかったら私とお友達になってくれない?』


ローズ夫人のはしばみ色の瞳がブルーに煌めいて見えた。



『あ……ええ、勿論わたくしで良ければ喜んで……』


エリザベスはローズ夫人の瞳が先ほどの、オレンジからブルーに変化したのに気付いた。



『まあ、ありがとう! これからは私のことをグレースって呼んでね。あなたのことも()()って呼びたいから……』


ローズ夫人のはしばみ色の瞳が、今度は()()()に煌めく。



『は、はい、グレース様』




──まあ、この方の瞳は何なのかしら?


光の加減でオレンジやブルー、金色と目まぐるしく変化するわ、ちょっと珍しいかも!



王都に()()()()()()()()がいるって噂は、この方なのかしら?


エリザベスは驚きで、睫毛をパチパチはためかせた。



『リズ“様”はなしよ、グレースって呼び捨てでいいわ』


『でも失礼ですが、年上の方に呼び捨てはちょっと……』



エリザベスはローズ夫人の年齢は知らない。




──確か彼女のご主人のゲーリー・ローズ公爵は大分年齢が高かったはず。




ちなみにローズ公爵家は、ルービンシュタイン公爵家と双璧をなす名家だ。

領地には、あのクリソプレーズの宝石ともいわれている電気石(トルオルマリン)鉱山がある。


王家が所有する鉱山とはいえ、ローズ家の管理料は毎年莫大なはず。


エリザベスは実家にいた頃、王妃教育の一環として、王国の全ての高位貴族の名簿を図書館から借りて、当時1人1人のプロフィールを記憶していた。



エリザベスの疑問を見透かしたかのように


『あら、私はまだ26歳よ。あなたと大して変わらないわよ』


『ええ! 失礼ですが、ゲーリー公爵は()()()()()でしたよね?』


思わず、年齢を言ってしまうエリザベス。



『……そう、父親以上も年は離れているわね……』


ローズ公爵夫人は少し顔を曇らせた。



『あ、わたくしったら⋯⋯失礼なこといって申し訳ありません!』




──馬鹿、どうしてわたくしって思った事をストレートに言ってしまうのかしら。



『ふふ、いいのよ。それよりグレースって呼んでほしいの。その方がお友達っぽくていいわ』


『……わかりましたわ、それでは()()()()



エリザベスはローズ夫人が微笑んでくれてホッとした。




──何故か、この御方は初対面なのに、不思議と自分が磁石のように引き寄せられる。


エリザベスにとっては珍しい感覚だった。




ちょうど有名なワルツの曲が終わった。



『ありがとうレディ! 楽しかった、リズはダンスをとっても軽やかに踊るわね』


『こちらこそ、ありがとうございます。グレースのリードに助けられただけですわ。わたくしもとても楽しかったです』


エリザベスは、再度、膝を折まげてカーテシーをした。


彼女に改めて敬礼を表したかった。



『ああ、汗をかいてしまった、何か飲み物を取ってこよう、リズは何がいい?』


額の汗を手で拭うグレースの瞳は()()に煌めいた。


『あ⋯⋯はい、林檎酒(シードル)をお願いします』




──おお、今度は緑だわ、これで4色、あと3色ね。


エリザベスはにっこりとリズ・スマイルをした。




こうしてエリザベスとグレースとの友情は成立した。



※ ※



グレース・ローズ公爵夫人。

26歳。金褐色の髪にはしばみ色の瞳だが、時折七色に変化する。

鼻筋がスッと通っていて薄い唇。


豊満な色気というより、中性的な魅力のある貴婦人で男装姿が良く似合う。

背丈は女性にしては高くスレンダーで、クール系の美女だ。


ちなみに、エリザベスも背は高いがグレースは更に高い。



エリザベスが大輪の赤い薔薇なら、グレースは白の胡蝶蘭のような華やかさだ。



性格はいたってさっぱりとして、高位貴族特有の矜持がない。



彼女の経営するオートクチュール(高級衣装店)本店の他に、既製服のプレタポルテを王都に出店したのも



『ファッションは貴族だろうが、平民だろうが女性はお洒落を楽しみもの』というコンセプトで企画したらしい。



だが一部の高位貴族、特に高齢の貴婦人たちには、余り良い顔をしていないらしいが。

それでもグレースはローズ公爵の正妻である。


夫のゲーリー公が、妻の事業にまったく口を挟まないでいるのだから、おいそれとは非難はできない。



この時代──まだまだ女性が、特に貴婦人が職をもつというのは珍しくもあり“家名の恥”と噂する老害もいた。


ほとんどの貴婦人たちは、夫が領地経営で生活できるので裕福な暮らしの為、社交界での人脈活動か、せいぜい慈善事業に参加するくらいだからだ。




エリザベスが王国一の偉い女性、すなわち王妃を夢見ていたとすると、グレースの夢は女だてらに事業経営者になることだった。


“受け身だけの淑女(レディ)にはなりたくない!”という、()()()()()()()()を感じたのは、偶然ではなく必然だったのであろう。






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― 新着の感想 ―
たまたま気が合ったと思ったけども、元々気性も似通っていたのてすね♪ 自分で色々経営もしてしまうローズはすごい! リズの良き友達になってくれたらいいですよね(*^^*)
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