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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


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45. 春の訪れと ダイエット

※ 2025/10/20 修正済


※ ※ ※ ※



セルリアン領も雪に閉じ込められた長い冬からようやく解放され始めた。

クィーンズ市街の付近の村人たちにとって、雪解けほど待ち遠しいことはない。


3月中旬になると、畑に農民たちが総出でバケツとスコップを持って融雪剤を散布する。


散布後、遠くから眺めていると、丘陵に撒かれた融雪剤が雪の大地に、まるで(すみ)を流し混んだまろやかな()()()()()()にみえてとても美しい……。


早春の訪れを告げる、クィーンズ丘陵地帯の風物詩である。



※ ※



公爵領本邸ホームハウス本邸の、ガラス張りの広い温室内。


珍しい観葉植物の鉢植えがあちこちにある。

この温室だけ高価な電気宝石(トルオルマリン)ストーブが設置してある。

電気宝石(トルオルマリン)の発する熱は、身体にも植物にも良いイオン効果があるとされている。


ストーブの火力は暖炉よりも弱いが、一定温度が保てるため観葉植物には最適であった。



※ ※



『はぁ、はぁ、それではやっとリリーはアッパーとしゃべったのね!』


エリザベスは、汗をかきながら痩身用駆動式自転車(フィットネスマシーン)に乗って、懸命にベダルを漕ぎながらサマンサに話かける。


『はい、エドワード様がそれはもう大喜びで、昨日から子供部屋に入り浸ってアパパだよ、アパパだよとそればかりいっているとミナがいってました』


『はぁ、ずい分遅かったわね、リリーが“ママ”ってしゃべったのは、もう2ヶ月も前だったのに……娘は母親が好きなのかしら』


『奥様も、リリアンヌ様のところへ行ってあげてくださいまし』


『はぁ、わかったわよ。運動が終わってからね』


エリザベスは汗だくで風変わりな機械を漕ぎ続けている。


サマンサ不思議な自転車を漕いでる、エリザベスを奇異な目で見ていた。



エリザベスはリリアンヌが『マママ』と呼んで以来、たまに子供部屋へいって娘と遊ぶようになった。


リリアンヌは太っているエリザベスが気に入ったのか、彼女が傍にきても以前と違って泣かなくなった。


子供にとって化粧した(とが)った怖い顔の女よりも、丸々とふくよかな女の方が、お気に入りなのかもしれない。


それほど今のエリザベスは海馬(トド)のような体型をしていた。


エドワードには顰蹙(ひんしゅく)だったエリザベスの体つきは、逆に赤子にとっては大きなトドのぬいぐるみに見えて可愛らしいのかもしれない。


リリアンヌはエリザベスを見るたびに、ケラケラと楽しげに笑って、抱っこをせがむくらいだった。



エドワードもエリザベスに、()()()を境に気を使うようになった。


仕事の合間をぬって屋敷にいる時などは、エリザベスと食事も一緒にした。


天気が良い日にはティータイムで、冬の白樺の庭園などを散歩したりもした。


屋敷内で楽しそうに公爵夫妻で笑いあう声が聞こえてくると、サマンサを始め執事のアレクや従事者たちもホッと安堵していた。




だが未だに一つだけ2人にはある対立があった。


夫婦の寝室である。


エドワードは以前の自分の(いまし)めとして、今後は一緒に寝ようと強く求めたが、エリザベスはそれを断固として拒否した。


エリザベスは、今の海馬(トド)のような裸体をエドワードに意地でも見せなくなかった。



『旦那様、申し訳ありませんが、もう少しお待ちになってくださいな。わたくし以前に負けないくらい完璧なスタイルで旦那様をお迎えしたいの……』


『別に今のままだって綺麗だよ。それに前より随分痩せたじゃないか』

とエドワードは真面目な顔をしていった。



──うん、本当にエリザベスは痩せてきた。

独身時代よりはグラマラスだが……逆にそれで十分だ。


エドワードは内心、エリザベスを抱きたくてウズウズしていた。



『あら、駄目ですわ旦那様。まだまだこんなものではないわ。どうか、そんなわたくしの意思が()えそうな、お優しい言葉をかけないでくださいな──せっかく細くなってきたのに、また元に戻ってしまうじゃないですの!』


とエドワードの心も知らずに、エリザベスは頑なに拒否した。


こうなっては、エドワードもエリザベス本人が納得する迄諦めるしかない。


確かに妻が毎日ダラダラと大食に耽るよりは、痩身を目的に努力する姿に好感は持てる。


何より最近のエリザベスは、時々赤子のリリーを抱いたり、あやしたり遊んでくれるのがエドワードにとっては一番嬉しかった。


結局相談した結果、エドワードは渋々折れた。

当分はこのまま別々の寝室と決めた。


だが、この選択が後々2人の亀裂の原因にもなっていった。




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